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番外編
書籍化記念SS*ピアノの調べは誰のため2(アデライザ11歳とイリーナ5歳)
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時間ぴったりピアノのドロシー先生がやってきて、さっそくピアノのレッスンが始まった。
「イリーナ様、この前オペラに行って、楽しかったっておっしゃっていましたでしょう?」
ドロシー先生は神経質そうな顔を柔らかく微笑ませて、イリーナに優しく言う。
イリーナは顔を輝かせてうんっと嬉しそうに頷いた。
「はい! とっても楽しい劇でしたわ! ほんと、おねえさまにもお見せしたかったくらいですわ~!」
楽しげに言うイリーナに、私はムスッとしてしまう。
「……別に、興味ないし」
オペラ、一緒に観に行く? なんて誰からも声をかけられなかった私は、家の図書室でひっそりと魔術書を読んで、時間を潰していたのである。
まあいいわよ別に、イリーナがお父様とお母様と一緒に観に行ったのって子供向けのオペラだし。私には魔術書のほうが面白いのよ。
「女の子が! 変身して! 悪い奴をバシッとこらしめるんですのー!」
イリーナが腕を振り回しながらオペラの内容を説明すれば、ドロシー先生は口の端を引きつらせつつ腕でイリーナとの距離をとる。
「とっても楽しげなお話ですわね。私も観てみたいものですわ」
「よろしかったら今度ごいっしょしましょう!」
「そうですわねぇ」
顔を輝かせてイリーナがお誘いすると、ドロシー先生は苦笑交じりで相づちを打つ。
……私には「ご一緒しましょう」の「ご」の字も言わないくせに、ピアノの先生には言っちゃうんだ、ふーん……。まぁ、いいけどね別に。
何度でもいうけど、私はオペラを観るより一人で本読む方が好きだし。
「それでですね、イリーナ様」
ドロシー先生は鞄から楽譜を取り出し、イリーナに向かってにっこりと微笑んだ。
「そのオペラの曲を取り寄せたのです。これならイリーナ様もお弾きになられるでしょう?」
「まぁ、本当ですの? ぜひ弾いてみたいですわ!」
楽譜を見ながら、イリーナは興奮したように頬を紅潮させていく。
なるほど、イリーナのやる気を少しでも引き出すために、イリーナが好きそうな曲を用意してきたってわけか。先生も苦労するなぁ。
「ではまず私がお手本を弾きますわね」
と、先生は楽譜をグランドピアノの譜面置きに置いて、椅子に座ってピアノを弾き始めた。
音の数は少ないながらもアップテンポな明るい曲で、転がるように音が駆け上がったり、かと思ったら駆け下りたりする。
曲を弾く先生をイリーナが食い入るように見つめているのが、こんな妹だけど……可愛かった。いやほんと、イリーナは外見だけなら天使のような可愛らしさなのだ。
メイドに編んでもらった銀色の髪には可愛い青色のリボンが揺れているし、宝石のような青い瞳は好奇心に輝いて、頬はいつも薔薇色で……。
生意気で当たりが強い妹だけど、見てくれだけは本当に可愛らしいんだ、これが。
……なんて思っていたら、イリーナが急に銀色の可愛らしい眉を思いっきりしかめた。
「ちょちょちょちょっ! 先生、ちがいますわ!」
「え?」
先生が手を止めると、直前まであれだけ流暢に弾かれていた曲が嘘みたいに途切れ、ピアノの残響が耳につく。
「そこは『ラララララー』ではなくて、『ララミララー』ですわ!」
鼻歌を歌って先生に訴えるイリーナ。
「あら、そうでしたか。ではもう一度……」
とそこを弾き直す先生だったが、イリーナはまたかぶりを振った。
「ですから、違いますってば! 『ラララララー』じゃなくて『ララミララー』ですっ!」
「……ではもう一度……」
先生が再度弾き、イリーナが「違う」と指摘する。そんなことを何度か繰り返していくうちに、みるみるイリーナの機嫌が悪くなっていった。
「ですからっ、違うっていってますでしょ!? 何度いえばわかるんですのっ!」
「でも楽譜ではこうなっているのですよ、イリーナ様。曲調からいってもこれで間違いではないはずです」
「でも違うんですの! そこは『ララミララー』なのっ!」
イリーナは顔を真っ赤にし、ついに――。
「ヘタクソ! 先生のヘタクソ!」
と、言ってしまったのだ。
「イリーナ様、この前オペラに行って、楽しかったっておっしゃっていましたでしょう?」
ドロシー先生は神経質そうな顔を柔らかく微笑ませて、イリーナに優しく言う。
イリーナは顔を輝かせてうんっと嬉しそうに頷いた。
「はい! とっても楽しい劇でしたわ! ほんと、おねえさまにもお見せしたかったくらいですわ~!」
楽しげに言うイリーナに、私はムスッとしてしまう。
「……別に、興味ないし」
オペラ、一緒に観に行く? なんて誰からも声をかけられなかった私は、家の図書室でひっそりと魔術書を読んで、時間を潰していたのである。
まあいいわよ別に、イリーナがお父様とお母様と一緒に観に行ったのって子供向けのオペラだし。私には魔術書のほうが面白いのよ。
「女の子が! 変身して! 悪い奴をバシッとこらしめるんですのー!」
イリーナが腕を振り回しながらオペラの内容を説明すれば、ドロシー先生は口の端を引きつらせつつ腕でイリーナとの距離をとる。
「とっても楽しげなお話ですわね。私も観てみたいものですわ」
「よろしかったら今度ごいっしょしましょう!」
「そうですわねぇ」
顔を輝かせてイリーナがお誘いすると、ドロシー先生は苦笑交じりで相づちを打つ。
……私には「ご一緒しましょう」の「ご」の字も言わないくせに、ピアノの先生には言っちゃうんだ、ふーん……。まぁ、いいけどね別に。
何度でもいうけど、私はオペラを観るより一人で本読む方が好きだし。
「それでですね、イリーナ様」
ドロシー先生は鞄から楽譜を取り出し、イリーナに向かってにっこりと微笑んだ。
「そのオペラの曲を取り寄せたのです。これならイリーナ様もお弾きになられるでしょう?」
「まぁ、本当ですの? ぜひ弾いてみたいですわ!」
楽譜を見ながら、イリーナは興奮したように頬を紅潮させていく。
なるほど、イリーナのやる気を少しでも引き出すために、イリーナが好きそうな曲を用意してきたってわけか。先生も苦労するなぁ。
「ではまず私がお手本を弾きますわね」
と、先生は楽譜をグランドピアノの譜面置きに置いて、椅子に座ってピアノを弾き始めた。
音の数は少ないながらもアップテンポな明るい曲で、転がるように音が駆け上がったり、かと思ったら駆け下りたりする。
曲を弾く先生をイリーナが食い入るように見つめているのが、こんな妹だけど……可愛かった。いやほんと、イリーナは外見だけなら天使のような可愛らしさなのだ。
メイドに編んでもらった銀色の髪には可愛い青色のリボンが揺れているし、宝石のような青い瞳は好奇心に輝いて、頬はいつも薔薇色で……。
生意気で当たりが強い妹だけど、見てくれだけは本当に可愛らしいんだ、これが。
……なんて思っていたら、イリーナが急に銀色の可愛らしい眉を思いっきりしかめた。
「ちょちょちょちょっ! 先生、ちがいますわ!」
「え?」
先生が手を止めると、直前まであれだけ流暢に弾かれていた曲が嘘みたいに途切れ、ピアノの残響が耳につく。
「そこは『ラララララー』ではなくて、『ララミララー』ですわ!」
鼻歌を歌って先生に訴えるイリーナ。
「あら、そうでしたか。ではもう一度……」
とそこを弾き直す先生だったが、イリーナはまたかぶりを振った。
「ですから、違いますってば! 『ラララララー』じゃなくて『ララミララー』ですっ!」
「……ではもう一度……」
先生が再度弾き、イリーナが「違う」と指摘する。そんなことを何度か繰り返していくうちに、みるみるイリーナの機嫌が悪くなっていった。
「ですからっ、違うっていってますでしょ!? 何度いえばわかるんですのっ!」
「でも楽譜ではこうなっているのですよ、イリーナ様。曲調からいってもこれで間違いではないはずです」
「でも違うんですの! そこは『ララミララー』なのっ!」
イリーナは顔を真っ赤にし、ついに――。
「ヘタクソ! 先生のヘタクソ!」
と、言ってしまったのだ。
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