15 / 33
第15話
しおりを挟む
彼等が出ていった後も、サンスクリットは1人で酒を呑んでいた。
そんな時、来客を告げる乾いた鈴の音が聞こえた。音がする方に顔をやると、外套を深く被り口元しか見えない男がいた。背が高く、口元にある黒子が印象的である。サンスクリットは、何気なく男を見ていたが視線を感じ取ったのか、外套の男はサンスクリットの隣に座った。
「よう、1人か?」
「そうですが……貴方は?」
「俺もだ」
男はくっくっくっと喉で笑うような声をあげると、店主に酒を頼む。
「外套は脱がないのですか?」
「故郷では脱がないしきたりなんだ。顔を見せるのは身内だけさ」
「故郷ということはスフェールの人間ではないですね」
男は運ばれてきた酒を一気に喉に流し込んだ。彼が注文していた酒は、かなり度数の高いものだったが酔っぱらう様子もなく、次から次へと新しい酒を頼んでいく。
「俺はサビア人だ。星蜜を売りにスフェールにやって来た」
彼は口角を上げた。
「ところでお前、普通の人間じゃないな。紫色の髪と瞳。さてはフォルトゥス族だろう」
サンスクリットは表情を変えることなく、返答する。
「スフェールの少数民族を知っているとは、かなり調べあげているんですね」
「購買層を徹底的に調べあげるのは基本だ。それにしても、まさか本物のフォルトゥス族に会えるとは思わなかった。やはり戦闘民族だからさぞかし腕も良いんだろうな。どうだ、俺の隊商の護衛にならないか?」
サンスクリットは男を見ることなく、手元の酒に視線を落とし、軽く笑った。
「お断りします。既に雇われている身なので」
男はそうか、と答えるとすぐに引き下がった。
「そういえば、スフェールの姫君にフォルトゥス族の血を引いた娘がいるんだろう? いつか会ってみたいぜ」
サンスクリットは答えず、店主に代金を渡して立ち上がった。
「あれま。もう行くのか?」
男は惜しいように言う。
「飲み過ぎましたので」
「いつかまた会おうぜ」
男は手を振りながら言った。随分と楽しそうな雰囲気だ。サンスクリットは一瞥すると、店を後にする。
酒が入ってるせいか体が火照っていて、頬を撫でてくる夜風がひんやりと冷たくて心地よかった。
サンスクリットは空を見上げる。これからシュトルヴァ領へ戻らねばならない。
先に調べた事を紙に書いてキアリを飛ばそうと思ったが、シュトルツ族の人間に信じてもらうには紙より自身の口で告げた方が良いだろう。
サンスクリットはシュトルヴァ領へと足を踏み出した。
そんな時、来客を告げる乾いた鈴の音が聞こえた。音がする方に顔をやると、外套を深く被り口元しか見えない男がいた。背が高く、口元にある黒子が印象的である。サンスクリットは、何気なく男を見ていたが視線を感じ取ったのか、外套の男はサンスクリットの隣に座った。
「よう、1人か?」
「そうですが……貴方は?」
「俺もだ」
男はくっくっくっと喉で笑うような声をあげると、店主に酒を頼む。
「外套は脱がないのですか?」
「故郷では脱がないしきたりなんだ。顔を見せるのは身内だけさ」
「故郷ということはスフェールの人間ではないですね」
男は運ばれてきた酒を一気に喉に流し込んだ。彼が注文していた酒は、かなり度数の高いものだったが酔っぱらう様子もなく、次から次へと新しい酒を頼んでいく。
「俺はサビア人だ。星蜜を売りにスフェールにやって来た」
彼は口角を上げた。
「ところでお前、普通の人間じゃないな。紫色の髪と瞳。さてはフォルトゥス族だろう」
サンスクリットは表情を変えることなく、返答する。
「スフェールの少数民族を知っているとは、かなり調べあげているんですね」
「購買層を徹底的に調べあげるのは基本だ。それにしても、まさか本物のフォルトゥス族に会えるとは思わなかった。やはり戦闘民族だからさぞかし腕も良いんだろうな。どうだ、俺の隊商の護衛にならないか?」
サンスクリットは男を見ることなく、手元の酒に視線を落とし、軽く笑った。
「お断りします。既に雇われている身なので」
男はそうか、と答えるとすぐに引き下がった。
「そういえば、スフェールの姫君にフォルトゥス族の血を引いた娘がいるんだろう? いつか会ってみたいぜ」
サンスクリットは答えず、店主に代金を渡して立ち上がった。
「あれま。もう行くのか?」
男は惜しいように言う。
「飲み過ぎましたので」
「いつかまた会おうぜ」
男は手を振りながら言った。随分と楽しそうな雰囲気だ。サンスクリットは一瞥すると、店を後にする。
酒が入ってるせいか体が火照っていて、頬を撫でてくる夜風がひんやりと冷たくて心地よかった。
サンスクリットは空を見上げる。これからシュトルヴァ領へ戻らねばならない。
先に調べた事を紙に書いてキアリを飛ばそうと思ったが、シュトルツ族の人間に信じてもらうには紙より自身の口で告げた方が良いだろう。
サンスクリットはシュトルヴァ領へと足を踏み出した。
0
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(毎日21:50更新ー全8話)
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる