フィックスド辺境伯家の秘密(元夫の隠し子は、私が立派に育ててみせます‼︎)

星 佑紀

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とある暴走族のリーダー、就職する‼︎

0030:ノアの疑問

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【side ノア・フィックスド(とあるストーカー)】

⭐︎ ここは、フィックスド辺境伯邸母屋会議室。中央には、立派な映写機が設置され、その対面には、純白の帆布が張られている。帆布には、コレクト・フローレンスの妻オリビア・フローレンスの顔がドアップで映し出されていた。

 みなさん、こんにちは。……フィックスド家のノアです。……現在、パトリック殿下が言い出した、とある組織の発足メンバーを決める為の面接をやっているのですが、……お隣さんのフローレンス辺境伯家が、色々とヤバすぎてドン引きしている。

 まず、フローレンス辺境伯家の現当主コレクト様。俺が郵便局でバイトをしていた時にとてもお世話になった先輩の夫で、浮気性という噂が立つほどの行動力を持ち合わせていらっしゃるのだが、……かなりチョロい。チョロいという言葉を、使っても良いようなお方ではないと重々承知しているが、あまりにも黒いアルバートさんに騙されすぎている。先程、コレクト様から強いお言葉を向けられたアルバートさんは、切ないお顔でコレクト様をギュッと抱き締めていらっしゃるのだが、いやいやいや、今までコレクト様を良い感じに騙して色々されてきてたのですよね? コレクト様を欺き、コレクト様の奥様をも欺き、フローレンス辺境伯家のご家族も一緒に騙して丸め込んでこられた結果なんですよね? その被害者面はおかしいと俺は思うのですが、俺の両隣に座っているパトリック殿下とサネユキ様は、何故だか感動しすぎて号泣の嵐だ。……俺の考えがおかしいのかな? 

 ……結局のところ、何が正しいのか、全くわからない。わからないけれど、この二つだけは事実だ。一つ目は、コレクト様が、今まで男として生きてきた筈だったのに、実は女性だったこと。二つ目は、先輩が育てているアルト君の本当の両親は、目の前で抱き合っているコレクト様とアルバートさんということだ。何故、部外者であるアルト君の両親がこの二人だって断言できるのかって?

 答えは、簡単だ。

 アルバートさんのお顔とアルト君のお顔が、瓜二つすぎるからなんだよ‼︎

 いや、もう、やりやがったな! としか言えない。勿論、コレクト様の見た目の要素もアルト君は、受け継いでいる。……そう。完全に俺も騙されていた。

 アルバートさんに会ったのが、今日の一刻前だから、気づかないのも無理はない。……遠目から、メアリーさんを見た事があったけれど、『アルト君は、コレクト様似なんだなー。(ほえー)』と思っていた。完全に騙されていた!

 ……この感覚はたぶん、俺にしかわからないと思う。パトリック殿下とサネユキ様は、アルト君と会ったことが無いからね。……コホン。……俺は……コレクト様と初めてお会いした時に、コレクト様の奥様が先輩だと瞬時に気がついてしまった。コレクト様が嬉しそうなお顔で、先輩の生写真をくれたんだよな。『私の妻だ‼︎ 見てくれ!』ってね。……最低一カ月間は、嫉妬で狂いまくったよ。……今は解散したけれど、ハシり仲間達と一緒に、気持ちが前向きになるまでティッシュ配りしまくったなあ。……コホン、コホン。……それから紆余曲折を経て、……週に二回、フローレンス辺境伯家でアルバイトをしに行ってて、そこで、さりげなくアルト君のお世話もさせてもらっている。

 不安だ。

 あのキラキラした美しい瞳を向けてくれるアルト君が、約二十年後には、こんな腹黒ギリギリアウトな変態紳士と同じような道を歩んで行くのかと思うと、……駄目だ、駄目だ! アルト君の心は、まだ汚れていない! 軌道修正するなら今だ! これからも、アルト君には、わからないようなカタチで、さりげなく穏便にサポートしていくぞー‼︎

 ……こんな感じで、無理矢理やる気を出しているのだが、ふと、思う。コレクト様とアルバート様って、不倫関係だよね? 絶対そうだよね? 現状では、コレクト様の奥様は、先輩だけなのですから。……パトリック殿下って、浮気とか不倫の話を聞くと、蕁麻疹とか喘息などのアレルギー症状が出てくる体質みたいなんだけど、全然出てないし……。いつもなら、全身掻きむしって血だらけになるのに。

 ……不思議だ。

 今だって、ほら、コレクト様自ら、さりげなくアルバートさんに密着していらっしゃるんだよなあ。そんでもって、真っ赤になったお目々でアルバートさんとアツく見つめ合っているように、俺には見えるのだが、これは、流石に不倫現場でしょう?

「アル、……オリビアとアルトが、フローレンス家から追い出されるって、どういう事なの⁉︎(裏当主から抱き締められているが、それ以上に抱きつきに行くコレクト)」

「……駄目だ。コレクトには、まだ言えない。(やや顔を赤らめながら、首を横に振る裏当主)」

「そんな事言って、また私に何も言わずに全部自分のせいにして、解決しようとしているんでしょ‼︎ そんな事絶対にさせないんだからね‼︎(更に裏当主にしがみつくコレクト)」

「…………。(両目の瞳が濡れている裏当主)」

 いやいや、身体を密着しすぎだろーが‼︎ コレクト様、その行動は、絶対おかしいですって‼︎ お相手は、今までコレクト様を良い感じに騙して、アルト君の出生も良い感じに偽った張本人なんですよ⁉︎

「アル、ちゃんと私の目を見て言って!(コレクト)」

「…………。(悩む裏当主)」

「言わないと、アルのお口、私が塞いじゃうんだからね!(謎の脅迫まがいなことを裏当主に言うコレクト)」

「……たのむ。(顔を赤らめながらも嬉しげな裏当主)」

「ふん! ……アルとキスすると激しくなって、恥ずかし過ぎるから、皆がいないところじゃないとやってあげない‼︎(茹で蛸顔で抱き締められつつもそっぽを向くコレクト)」

「────っ‼︎(無言で悶えている裏当主)」

 いやいや、イチャコラしすぎでしょーが⁉︎

 コレクト様、あなた、そんなに小悪魔だったんですか⁉︎ そうやって、アルバートさんを手の平の上でころころ転がして色々やって、アルト君が生まれたんですか⁉︎ 先輩の気持ちを慮ると、精神的に辛過ぎるんですけど⁉︎

「うん。よくわからないけど、禁忌の恋人との逢瀬。……感動するね。(何故か涙をダバダバ流してるパト殿下)」

「ああ。……よくわからんけど、感動だな。(本当に意味がわかっていないけど、雰囲気に感動しているサネユキ)」

「いやいや、駄目ですって、パトリック殿下‼︎ 俺には、『浮気や不倫は、人殺しよりも重罪だあ!』って言ってしばき倒してきたのに、この二人の仲は、容認するんですか⁉︎ それは、あまりにも理不尽すぎますよ‼︎(主張するノア)」

「……そうなんだよね。……本来なら、蕁麻疹で立っていられないから、霊力で強制的に二人を離すんだけどさ、……この二人を見ても、全然痒くならないんだよね。……だから、ちょっと様子見してるんだけど、……やっぱり浮気は、御法度だよね。(心なしか歯切れの悪い殿下)」

「そうですよ! コレクト様の奥様のこともよく考えてください!(キリッとノア)」

「……ああ、言い忘れていたが、私と、コレクトは、をしているぞ。(サラッと重要なことを口にする裏当主)」

「「「魔法の結婚契約⁉︎(ノア、殿下、サネユキ)」」」

「そうだ。……私とコレクトがまだ小さかった頃に、コレクトのが連帯保証人となって、特殊な魔法紙にサインをした。……これが、私とコレクトの婚姻証だ。(きょとん顔の裏当主)」

⭐︎ 裏当主は、パトリック殿下に、一枚の羊皮紙のような紙切れを手渡した‼︎

「……これは、……正真正銘、契約を覆せない『魔力で結ばれた証明』だね。(紙切れを見て、晴天の霹靂のような表情のパト殿下)」

「そうなのですか⁉︎(びっくりするノア)」

「うん。……僕は、魔法に関しては専門外だから、難しいことはわからないけれど、昔、お祖母様から聞いた事があるんだ。『魔法紙で作られた婚姻証は、二度と覆せないから、よく考えてからサインするように。』ってね。(物珍しく婚姻証を見ている殿下)」

「おまけにこの紙は、どうやら『ニホン製』らしい。……ニホンで作られた魔法紙は、天下一品の代物だ。……どんな呪詛や呪いすらも弾き返すほどの威力を持っているし、契約の反故も許されない。文字通り、魔法の効力が続く紙。役所とかで貰う無料の婚姻証よりも効力が強過ぎるから、パトリックの身体もこっちの婚姻証を優先したんじゃないか?(ふむふむ顔のサネユキ)」

「そうだろうね。……アルメニア君、……こんなにも立派な婚姻証をコレクト君と結んでいるのに、どうして、コレクト君が新しい奥さんを貰うことになったの?(素朴な疑問をぶつける殿下)」

「それは、……全ては、の所為なのだ。(裏当主)」

「「「悪星教だって⁉︎(驚愕の三人組)」」」

「悪星教? 厨二病みたいな宗教だな。(コレクト)」

⭐︎ 裏当主の言う、悪星教とフローレンス家との関係性とは⁉︎
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