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最終章 三日月は満ちて満月になる

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「パパー、おかえりしゃい」

「ただいまー、みちかー」

出迎えた娘を悠将さんが抱き上げる。

「李依もただいま」

「おかえりなさい」

空いた手で私を抱き寄せ、悠将さんはキスをした。

「調子はどうだ?」

「順調ですよ」

今、私のお腹は大きく膨れている。
二人目を妊娠していた。

リビングに向かいながら、後ろから着いてくる運転手をちらり。
彼の手には例のごとく、大量の箱と紙袋が持たれている。

「……また、買ったんですが」

「……いいだろ、別に」

よくない!
とかツッコミたい。
最初は広い家だと思っていたが、今では悠将さんの買ってきた子供用品と私の服で溢れそうだ。

「ほら、満華(みちか)。
お土産だぞー」

「わーい!」

ぴょんぴょん跳びはねる満華の横で、にこにこ笑いながら悠将さんが買ってきたものを開けていく。
それは、この家の下見に来たあの日、見た幻そのものだった。

……ああ、幸せだな。

可愛い娘がいて、素敵な旦那様がいる。
それに、もうすぐ二人目も。
悠将さんは約束どおり、私を幸せにしてくれた。
私も悠将さんも幸せにできていたらいいな。

「うわーっ、おひめしゃまだー!」

悠将さんが取り出したのは、フリルたっぷりのワンピース……というよりも、もはやドレスだった。

「だろー、パパは約束を守るからな」

悠将さんは得意げだが、そういえば今回、日本を立つ前にお姫様もののアニメを満華と一緒に観ていて、満華もお姫様になりたいとかねだられていたな……。

「あとはティアラに……ネックレスに……イヤリングに……」

「……ちょっと待ってください」

次々に取り出されたそれらに、とうとうツッコミを入れた。

「もしかしてそれって、本物とか言いませんよね?」

「ん?
ダイヤとプラチナで作ってもらったが?」

「ああ……」

それを聞いて崩れ落ちてしまったが、仕方ない。
子供のおもちゃに本物を買ってくる人がどこにいる?
ここにいるんだけど。

「イミテーションでいいんですよ、イミテーションで」

それでも子供のおもちゃと思えない、高級なものが出てきそうだが。

「なんだ、李依も欲しかったのか?
心配するな、お揃いで作ってある」

悠将さんが新たに開けた箱の中から、同じデザインのネックレスが出てきた。

「僕のタイピンも作ったんだ」

さらに同じモチーフのタイピンが取り出される。

「男の子はなにがいいのかわからなかったんだが……。
王冠にした!」

じゃーん!と効果音つきで今度は王冠が出てきた。
ちなみに次に生まれる子供は男の子予想だ。

「ちゃんと王子用の衣装も買ってきたぞ!」

……うん。
もういいや。
悠将さん、すっごい嬉しそうだし。

「生まれたら、家族でこれを着けて写真を撮りましょう」

「そうだな」

買ってきてくれたおもちゃでひとり遊びはじめた満華から離れ、悠将さんがソファーにいる私の隣に座る。

「李依がいて、満華がいて、もうすぐ二人目も生まれる。
僕はこの上ないほど幸せだ」

満華を見つめる悠将さんの、眼鏡の奥の目は慈愛に満ちている。

「私もです。
私も今、凄く幸せです……」

こちらを向いた悠将さんの両手が肩に置かれ、目を閉じると同時に唇が重なった。


【終】
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