前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

036-4

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 翌日、パフィは「行ってくる」と言って食堂を出て行った。殿下や、王様や、大臣といった、偉い人だけが集まる会議に乗り込むんだって。
 大丈夫なのかな……。

「先日の一件もあるからな、魔女が顔を出した所で嫌がる奴はいないんじゃねぇの?」

 それなら良いんだけど。

「良い案が浮かぶと良いですね」

「昨日の魔女の様子だと、思い付いてる風だったけどな」

 確かに。

 今朝、ジャッロたちからまた、蜂ヤニを二かけももらってしまった。お礼だから良いんだよ、と言ったんだけど、伝わったかなぁ。伝わってない感じがするなぁ。

「アシュリー!!」

 ドアが勢い良く開いて、リンさんが全力疾走でカウンターまで走って来て、止まらなくてカウンターにおなかをぶつけてその場に屈んで呻いた。
 すべてが一瞬で、声をかけるとか、何も出来なかった。

「だ、大丈夫ですか、リンさん……」

 こんなに急いで、何があったんだろう……。

「なにやってんだ……」とラズロさんが横で呟く。

 おなかを押さえたまま顔を上げたリンさんは、満面の笑顔だった。
 痛いのに、笑顔?

「ありがとう!!」

 え、感謝された?
 何のことを言ってるのかさっぱり分からないでいると、ラズロさんが横で、あー……と言った。

「昨日のアレな」

 ラズロさんの言葉にリンさんが壊れたみたいに何度も頷いた。

「馬鹿貴族が作った赤字が、アシュリーのおかげでちょっと埋まったんだよ!」

「だろうな。つーか、そんな事わざわざ言いに来たくなる程赤字なのかよ、この国……」

 昨日、僕は見れなかったけど、ラズロさんは鑑定士さんが書いていた鑑定結果と、買い取り金額の書かれた引き取り書を受け取っていたから、あの蜂蜜がいくらで売れたのか知ってる。
 国庫の赤字がどれぐらいなのか分からないけど……。でも、国庫だものね。僕が見たこともないような金額なんだろうな。

「あの赤字を見るたびにキリキリと胃が痛んで仕方なかったんだよ!」

「あぁ、うん……」

 ラズロさんの反応が凄く気になる。
 一体いくらで売れて、この国の赤字はいくらなんでしょうか?
 ……ところで、そんなに凄い赤字、どうしてバレなかったんだろう? 少額ならごまかせそうだけど……。

「何でそんな大赤字がバレなかったんですか?」

「本物と偽物をすり替えて、本物を売り払っていた事が発覚して、差額の計算をしたらそうなったの!」

 あぁ、やりたい放題だったんだね、本当に……。

「赤字は依然としてあるけど、税金以外での収益は本当助かるの! だからありがとう、アシュリー!」

 勢いよく立ち上がると、イテテ、と言いながらおなかをさする。

「とりあえずお礼を言いたかっただけだから、またね!」

 じゃ! と手を上げてまた走り去って行った。

 いつもいつも勢いのあるリンさんだけど、今日はまた凄かったなぁ。

「パフィが戻ったら、蜂ヤニ、売っても良いか聞いてみます」

 ラズロさんが苦笑いを浮かべながら僕の頭を撫でた。

「自分の為に使っても良いんじゃねぇの?」

「うーん……でも、赤字をそのままにしたら、国が危なくなって、北の国や南の国の望み通りになっちゃうんじゃないでしょうか?」

「そりゃそうなんだけどな、それは国が考える事であってな、本来ならアシュリーのような子供が不安にならなくちゃいけない、ってのが問題なんだがなぁ……」

 ラズロさんは僕を心配してくれてる。
 いつも思うけど、ラズロさんは優しい。
 みんな、それぞれの立場で考えたり行動する中で、ラズロさんはずっと、中立って言うか、自分の意見をちゃんと口にする。
 偉い人がいっぱいの中で言えるって、凄いことだと思う。

「落ち着いたら、自分の為に使います」

 おぅ、と答えてラズロさんは優しく笑った。
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