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Ⅱ 王都にて

2 契約の女神

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルロ・・・翔達と同じ荷車の少年
カルメラ・・・翔達と同じ荷車の少女

マッフル・・・カルナの荷車隊の護衛隊長
ガロン・・・・カルナの荷車隊の護衛副長
カエデ・・・荷車隊の護衛の一人
ケスラ・・・荷車隊の治療師、彩音の治療魔法の師匠、王都で治療院を経営している

カミーラ・・・盗賊団の頭
ミリサ・・・カミーラの妹

カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
メメ草・・・石鹸や消毒薬替わりの便利な草
グルノ草・・・傷薬になる薬草
グラシオ・・・小型のギター

タト・・・白金貨の単位
チト・・・金貨の単位
ツト・・・大銀貨の単位
テト・・・小銀貨の単位
トト・・・銅貨の単位

1タト=10チト=100ツト=1000テト=10000トト
1トトは日本円で100円位

ーーーーーーーーーー

裏側に回ってみると、確かに直ぐ判った。
高さ三メートルくらいの金色に彩色された竜の石像が二匹、狛犬の様に階段脇で睨みを利かせている。
他の神殿の階段に飾られた妖精の慎ましやかなレリーフとは大違いだ。
何故かこの神殿の階段を登って行く者は誰も居ない。
隣の光の神殿は行列が出来ているのだが。

中は礼拝堂になっていた。
木のベンチが並んでおり、前方に信者らしき人が数人座っている。
入り口に待ち構えていた女官達に連行される様に祭壇の前へ連れて行かれた。
祭られている女神様は美人なのだが何故か憤怒の表情をして俺を睨みつけている。

その女神像の前に正座している男女が居る。
見るとメルとファラだった。
ファラは満面の笑み、メルは泣きそうだ。

「まあ、アヤ、貴方も理の字色が此処を指定してくれたの。これでもう安心よ」
「ファラ、貴方が言ってた神殿って此処だったの」
「カケル、大人しく諦めて首を差しだそう」

俺には事情がまるで判らない。
詳しく聞こうと思った時に神官長とおぼしき年輩の女性が脇の扉を開けて入って来た。
ふくよかな優しい雰囲気の女性だ。
入口の大扉が閉ざされ、通路に女官が一人づつ配置されている。
何か退路を塞がれている様な気がするが、気の所為せいだろうか。

「ようこそ、契約の神殿にいらっしゃいました。わたくし神官長のメイヤと申します。今日は二組の婚姻のお手伝いをさせて頂きます。それでは御二組共御立ち下さい」

指示のまま立ち上がる、彩音とファラは輝く様な顔で神官長を見上げ、メルは沈鬱な表情で項垂うなだれている。
祭壇の前に並ばされ、祭壇の上には入口で取り上げられた書類が二枚並んでいる。
そしてその向こうから女神が睨んでいる。

「汝等、女神ユノスと約定を交わせ。夫婦たるを望むか」
「はい」
「はい」

彩音とファラが即答した。

「はい」

これは彩音と離れないための儀式にしか過ぎない、俺も返事を返した。

「・・・、うー、はい」

メルも蚊の鳴く様な声で返事を返した。
すると書類に書かれた俺達の名前と血判が輝き、祭壇の中に吸い込まれて行った。

「女神様が同意なされた。これより汝等は厳正な夫婦である。伴侶外の者と性を交わせば違約の代償として命を差し出す事になる。しかと心得よ。永遠に誠実であれ」

書類が燃え上がって消えた。
日本なら虚仮威こけおどしと思っただろうが此処は異世界だ、ピッと放った途端ポックリ、いや、突っ込んだ途端激痛に襲われてバッタリなのだろうか。

「はい、これで儀式はお終いですよ。ご苦労様、信者登録して行って下さいね」

柔和な顔に戻った神官長に告げられた。
確認して置きたい事がある。

「神官長様、強姦された場合は大丈夫なのでしょうか」

頭の中には、俺に馬乗りになっているキャルのイメージがある。
形だけでも抵抗すればもしや。

「まあ、貴方。伴侶の方を心配されてるの、優しいのね、大丈夫よ。女神様の御加護があるからそんな不埒者は女神様が先に雷撃で丸焦げにして下さいます」

矢張り都合の良い話しは無い様だ。
女神様が俺を睨んだ様な気がした。
入信手続きを終えてから証明書を受け取り、再び表の受付に戻る。
神殿から祭礼の予定表と分厚い聖書を渡された。

「式が終わりました」

証明書を渡す。

「うむご苦労、これが報奨金と住宅の鍵だ。場所はこの地図に書いてある。仕事は決まっているか。まだなら紹介窓口が存るぞ」
「当てが有りますので大丈夫です、ありがとうございます」

俺はマッフルさんから冒険者ギルドへ誘われているし、彩音はケスラさんの治療院で修行する予定だ。

「メル、俺達はギルドに顔を出してから部屋を見に行くけど、そっちはどうする」

 貰った地図で互いの住居の場所を比べたら、ご近所さんだった。

「俺達は一週間くらいのんびりしてから顔を出すよ。こき使われるのが判ってるからな。部屋に荷物を置いてから、ファラと二人で王都観光でもするよ」

メルは諦めがついたようだ。ファラが腕を取ってニコニコしている。

「アヤ、部屋に着いたら遊びに来てね。必要な物一緒に買いに行こうよ」
「うん、解った。必要な物を書き出して置くね」

最初にケスラさんの治療院に向かう。
少し戻った場所の貧民街との境目くらいにあると教えられている。

「お兄ちゃん、私達も挨拶が終わったら王都観光しようか」
「ああ、蓄えは有るからな。家具を買っても余るだろうから少し遊ぶか」
「うん」

ケスラさんの治療院に無事到着、小さな治療院を想像していたのだが、大きな三階建ての建物で、入口には貧しい身形の人々の行列が出来ていた。
中に入ると職員と思われる白いお仕着せを来た女の人達が走り回っていた。
俺が想像していた以上にケスラさんは経験豊富で立派な偉い治療師なのかもしれない、だが。

「彩、ここはちょっとブラックかも知れんぞ。ケスラさんには悪いが少し考えるか」
「うん、私もそう思う。ケスラさんには」

彩音がここまで言い掛けたところで、突然に俺の前から消えた。
背後から通り過ぎたお仕着せを着た女性達の集団に吸い込まれてしまったのだ。
そしてその集団からケスラさんの声が聞こえた。

「アヤ、手伝いな」

暫く俺は呆然と立ち尽くしていた。
仕方が無い、俺は一人で冒険者ギルドに向かった。

「おう、カケル良く来たな、これがカルナの護衛の報酬だ」
「えっ、貰って良いんですか」
「勿論だ、付与点数も高いからギルドに報告しとけ」
「はい、ところで彩がケスラさんの治療院で拉致されたんですが、あそこの評判はどうなんでしょうか」
「あそこに連れて行ったのか!・・・、確かにあいつの腕は一流だ、王宮からも呼ばれるくらいだからな。しかも貧民からは女神様扱いされてるし、町の皆からも尊敬されてる。あそこなら腕は上達するぞ、こなす患者の数が違うからな、修行の為に放り込まれる一流治療師の子弟も多いそうだぞ」

ケスラさんは一流の治療師らしいが、なんか歯切れが悪い。

「だがな、あそこの客は貧乏人が多くてな、経営は苦しいらしいぞ。断れないんで渋々治療してるらしいんだが、薬草代が完全な持ち出しだってこぼしてたな。貴族や王宮への往診でなんとか経営してる状況らしいぞ。だから働いている治療師や見習いに給金なんてほとんど無い、寝る場所と飯で職員を繋ぎ留めてるって話だ。まあ、職人の丁稚奉公と一緒だな。うん、まあ、あそこであいつのお墨付きが貰えれば、治療魔法学院出より上ってばれるから、授業料と思えば恵まれてるぞ」

ああ、やっぱりブラックだ。
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