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Ⅵ クシュナ古代遺跡
10 兄妹迷宮に挑む7
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龍が去った大蔦に近付くと、大蔦の中で町の残骸が枝に挟まっていた。
蔦と言っても大蔦本体は、直径百メートル程有りそうな巨樹で、その末枝も人の胴程の太さがある。
一本の樹と言うよりは、巨大な樹海にしか見えないくらいだ。
その樹海の中にかつて町であった場所がすっぽりと覆われているのだ。
時空変動の大きな力の影響だろうか、蔦の葉の陰から覗く超合金製の壁や床は無残に拉げ、引き裂かれる様に切断されている。
その文字盤を発見したのは偶然だった。
進路を塞ぐ邪魔な蔦枝を払ったら、葉の下から小さな文字が刻まれた円盤が覗いたのだ。
「マリア、ここ!」
「なあに、兄ちゃん」
文字盤を見詰めた瞬間、マリアの髪が輝く様な白銀に一瞬で変わった。
そう、マリアが中のマリアと入れ替わったのだ。
マリアが俺に抱き付いて泣き始めた。
どうやら、俺と同じく、マリアも記憶が蘇っていたようだ。
円盤の右の縁には半円形に刻まれた俺の名前、左の縁半分には半円形にマリアの名前が刻まれている。
互いの先頭の一字と最後の一字が絡み合う様に重ねて描かれており、二人の名前で文字の輪を形造っている。
これはこの部屋に、夫婦が住むとの証で、輪廻の輪の中に在っても未来永劫夫婦であるようにとの願いを込めた御呪いだ。
そう、これは俺達の住んでいた部屋の扉だ。
「ホークさん、ちょっとここへ寄っても良いですか」
「お宝でも有りそうか」
「いいえ、目ぼしい物は何も無いですよ。確認したいことが有るんです」
「構わんよ、その様子なら、何か深い理由があるんだろう」
ドアの機能はまだ生きていた、パネルを呼び出し暗証番号を打ち込む。
「マリア、行くぞ」
ーーーーー
マリア
部屋の中央には、巨大な獣の爪痕の様な大きく深い溝が一本、お兄ちゃんが飲み込まれた空間亀裂の傷跡です。
それ以外は、奇跡的に部屋の中は時空変動が起きたときそのままです。
ダイニングのテーブルも椅子もそのままで、テーブルの上には、お兄ちゃんと私のコップがまだ乗っています。
室内洗浄装置も生きている様で、部屋に埃も積もっていません。
調理装置も生きているようで、紅茶とケーキを作ってくれました。
皆さんを招き入れて小休止です。
「へー、古代の住居ってこんな感じなんだ。宿の御主人に見せたかったね、泣いて喜んだよきっと」
「このガラス板に映ってる文字は何なんだ。何か凄く嫌な感じがするんだが」
「ウィルさん、避難警告ですよ。ウィルさんにも古代の記憶が残っているのかも知れませんね」
「そうなんだ。あたいもこの字が凄く嫌な感じがする」
避難警告の画面で壁のディスプレイがフリーズしています。
あの後、緊急避難装置が作動して、私は船外に転送されました。
一億人近い人々が突然住処を失い、この星での原始的な生活を余儀なくされたのです。
私はお兄ちゃんを探し続けましたが、結局会えずに死んでしまいました。
でもやっと巡り会えたのです。
何故私がお兄ちゃんに心惹かれていたのかはっきりしました。
私が求めていたのは、兄さんではなく、お兄ちゃんだったのです。
皆さんの飲み終わったコップを片付けます。
キッチンでお兄ちゃんと並んでコップを洗っていると、一番幸せだった日々が、何度も夢見た日々が蘇った様です。
楽しかった学校も、仲良しだった友達もすべてが夢の世界に消えましたが、一番大切な人が側に戻って来たのですから、もうそれだけで身体が砕け散りそうなくらい幸せです。
「お兄ちゃん」
お兄ちゃんの背中に頭を預け、お兄ちゃんの心臓の鼓動を確かめているだけで幸せです。
このまま時が止まってしまえば良いと思います。
ーーーー
背中にマリアの頭を感じていたら、突然ドンと突き飛ばされた。
振り返ると、怖い顔をしたマリアが立っていた。
「兄ちゃん、帰るんだからね」
「ああ、当たり前だ。何言ってるんだマリア」
マリアが胸に顔を寄せて来た。
「ごめん兄ちゃん。ちょっと心配だったの」
俺にはマリアを連れ帰る義務がある。
肉体関係を清算できるか少々心配だが、それでも連れ帰らなくてはならない。
中のマリアにはジョージも居るし、まあ大丈夫だろう。
書斎の棚に入っている研究地区防災管理者権限のセキュリティーカードを持ち出す。
このカードで緊急遮断扉の解除が可能なのでこの先の探索が楽になる筈だ。
ついでに、記録カードも持ち出しておく。
将来この部屋が考古学者に探索され、発掘品証拠品としてこのカードが公衆の面前で公開されたら堪ったもんじゃない。
このカードには、マリアと俺の夜の生活が記録してある。
セキュリティーカードのおかげで再び探索は順調に進み出した。
そして預けた龍の解体が終わった頃合いに、俺達は目的地へ到達した。
蔦と言っても大蔦本体は、直径百メートル程有りそうな巨樹で、その末枝も人の胴程の太さがある。
一本の樹と言うよりは、巨大な樹海にしか見えないくらいだ。
その樹海の中にかつて町であった場所がすっぽりと覆われているのだ。
時空変動の大きな力の影響だろうか、蔦の葉の陰から覗く超合金製の壁や床は無残に拉げ、引き裂かれる様に切断されている。
その文字盤を発見したのは偶然だった。
進路を塞ぐ邪魔な蔦枝を払ったら、葉の下から小さな文字が刻まれた円盤が覗いたのだ。
「マリア、ここ!」
「なあに、兄ちゃん」
文字盤を見詰めた瞬間、マリアの髪が輝く様な白銀に一瞬で変わった。
そう、マリアが中のマリアと入れ替わったのだ。
マリアが俺に抱き付いて泣き始めた。
どうやら、俺と同じく、マリアも記憶が蘇っていたようだ。
円盤の右の縁には半円形に刻まれた俺の名前、左の縁半分には半円形にマリアの名前が刻まれている。
互いの先頭の一字と最後の一字が絡み合う様に重ねて描かれており、二人の名前で文字の輪を形造っている。
これはこの部屋に、夫婦が住むとの証で、輪廻の輪の中に在っても未来永劫夫婦であるようにとの願いを込めた御呪いだ。
そう、これは俺達の住んでいた部屋の扉だ。
「ホークさん、ちょっとここへ寄っても良いですか」
「お宝でも有りそうか」
「いいえ、目ぼしい物は何も無いですよ。確認したいことが有るんです」
「構わんよ、その様子なら、何か深い理由があるんだろう」
ドアの機能はまだ生きていた、パネルを呼び出し暗証番号を打ち込む。
「マリア、行くぞ」
ーーーーー
マリア
部屋の中央には、巨大な獣の爪痕の様な大きく深い溝が一本、お兄ちゃんが飲み込まれた空間亀裂の傷跡です。
それ以外は、奇跡的に部屋の中は時空変動が起きたときそのままです。
ダイニングのテーブルも椅子もそのままで、テーブルの上には、お兄ちゃんと私のコップがまだ乗っています。
室内洗浄装置も生きている様で、部屋に埃も積もっていません。
調理装置も生きているようで、紅茶とケーキを作ってくれました。
皆さんを招き入れて小休止です。
「へー、古代の住居ってこんな感じなんだ。宿の御主人に見せたかったね、泣いて喜んだよきっと」
「このガラス板に映ってる文字は何なんだ。何か凄く嫌な感じがするんだが」
「ウィルさん、避難警告ですよ。ウィルさんにも古代の記憶が残っているのかも知れませんね」
「そうなんだ。あたいもこの字が凄く嫌な感じがする」
避難警告の画面で壁のディスプレイがフリーズしています。
あの後、緊急避難装置が作動して、私は船外に転送されました。
一億人近い人々が突然住処を失い、この星での原始的な生活を余儀なくされたのです。
私はお兄ちゃんを探し続けましたが、結局会えずに死んでしまいました。
でもやっと巡り会えたのです。
何故私がお兄ちゃんに心惹かれていたのかはっきりしました。
私が求めていたのは、兄さんではなく、お兄ちゃんだったのです。
皆さんの飲み終わったコップを片付けます。
キッチンでお兄ちゃんと並んでコップを洗っていると、一番幸せだった日々が、何度も夢見た日々が蘇った様です。
楽しかった学校も、仲良しだった友達もすべてが夢の世界に消えましたが、一番大切な人が側に戻って来たのですから、もうそれだけで身体が砕け散りそうなくらい幸せです。
「お兄ちゃん」
お兄ちゃんの背中に頭を預け、お兄ちゃんの心臓の鼓動を確かめているだけで幸せです。
このまま時が止まってしまえば良いと思います。
ーーーー
背中にマリアの頭を感じていたら、突然ドンと突き飛ばされた。
振り返ると、怖い顔をしたマリアが立っていた。
「兄ちゃん、帰るんだからね」
「ああ、当たり前だ。何言ってるんだマリア」
マリアが胸に顔を寄せて来た。
「ごめん兄ちゃん。ちょっと心配だったの」
俺にはマリアを連れ帰る義務がある。
肉体関係を清算できるか少々心配だが、それでも連れ帰らなくてはならない。
中のマリアにはジョージも居るし、まあ大丈夫だろう。
書斎の棚に入っている研究地区防災管理者権限のセキュリティーカードを持ち出す。
このカードで緊急遮断扉の解除が可能なのでこの先の探索が楽になる筈だ。
ついでに、記録カードも持ち出しておく。
将来この部屋が考古学者に探索され、発掘品証拠品としてこのカードが公衆の面前で公開されたら堪ったもんじゃない。
このカードには、マリアと俺の夜の生活が記録してある。
セキュリティーカードのおかげで再び探索は順調に進み出した。
そして預けた龍の解体が終わった頃合いに、俺達は目的地へ到達した。
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