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Ⅰ ヒューロス国
4 ジョージとマリア
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ジョージとマリアは、城の薬草園に努めていた村娘と城主である伯爵の間に生まれた子供だった。
伯爵からは認知されず、薬草園の農婦の子として薬草園の物置の片隅で育てられた。
それでも二人は幸せだった、兵舎の食堂へ行けば残飯を恵んで貰えたし、薬草園の薬師たちの使い走りで小遣いを貰えた時には、町の露店の甘菓子も時々食べられた。
ジョージが幼い妹の手を引いて歩く姿は、城内での日常の光景になり、また、マリアも兄の側を片時も離れなかった。
寒い日には、敷き藁の中で親子三人抱き合って暖を取り、抱き合って眠る事が二人の当たり前の習慣で、マリアにとっても兄は、必ず直ぐ脇に居て自分を暖めてくれる存在だった。
十歳になったジョージに薬師スキルが現れた時の記憶が、二人にとって一番幸せな記憶になっている。
母親が涙を流して喜び、薬草園の親方からも祝いの食べ物を貰った。
満腹になるまで始めて味わう美味しい食事を堪能し、そのまま抱き合って天国にいるような気分で眠りに付いたことを覚えている。
名ばかりの伯爵の子供、それでもジョージにとって天使の様な妹を連れ歩く日々は、不満の無い至福の時でバラ色の記憶でに彩られている。
そんな幸せな日々が壊れたのはマリアが十歳の春祭りを迎えた日だった。
この国の子は十歳の春祭りの日に、自分の将来を決める為に神殿でスキル鑑定を受ける習慣になっている。
マリアも城内に住む子供達と一緒に、コツコツと貯めた神殿への寄付の銅貨十枚を握り締めて町の神殿へスキル鑑定を受けに行った。
マリア自身は花の手入れが好きだったので、薬草園で働ける庭師か農婦のスキルを希望していた。
だが、一緒に鑑定を受けた子供達が次々と鑑定結果を伝えられる中、別室に呼ばれて豪華な神官服を着た人から再度鑑定を受ける羽目になった。
緊張に身を固くした、自分に言い寄る男の子達が多かったので、自分には魔族や妖魔の鑑定結果が出たのだと思った。
神殿の人達が慌ただしく走り回っている、自分を火炙りにする準備を始めているのだと思った。
そして、兄の側に直ぐ行かなければと思った、兄さんならばこの悪夢から目を覚まさせてくれると思ったのだ。
突然部屋のドアが開かれ城主様現れた、城主様に抱すくめられた時には動転して何が起きているのか判らなかった。
聖女のスキルを得られる物は一千万人に一人程度しか出現しない、神の加護も4を与えられており、王以上の存在なのである。
辺境の無名な小貴族に過ぎないネルトネッテ伯爵は、十歳の春祭りに娘が聖女スキルを得たと知ると、領内にこの事実を布告し一週間の祝典を行った、これは自分の家系に聖女が現れた事を周囲に広く知らしめる行為だった。
噂を伝え聞いた周辺の諸侯から贈り物が殺到し、王家からも贈物が届いた。
二人の母親が第四夫人として認知され、二人の生活が激変した。
マリアは伯爵や正夫人と一緒に生活を送る様になり、ジョージは騎士見習いとして城内に部屋を与えられ、母親は城内に夫人としての居住区と召使が与えられて三人ばらばらの生活となった。
伯爵家の表看板となって多忙を極めるマリアがジョージと密かに会えたのは一年後だった。
マリアがジョージに飛付き、胸の中で号泣した。
「兄さん、兄さん、兄さん」
ジョージもまた、昔と変わらない小さな妹がそこに居ることを確認した。
「マリア、マリア、マリア」
膝の上にマリアを抱え上げ、ジョージは昔と同様に妹の話を聞いてあげる。
マリアもまた、ジョージの胸に頭を預けて語り始める。
次に会える日を約し、何度か密かに会っていると、その日を心待ちにして胸を躍らせる別の感情が芽生えて来るのに左程時間は掛からなかった、始めて唇を合せたのはその一年後だった。
そんなある日、二人の母親が流行病で亡くなった。
子供達から引き離され寂しそうだったが、それでも聖女の母親として、マリアや伯爵が中心となって盛大な葬儀が行われた。
その喪が明けた二日後、ジョージはマリアの私室に窓から侵入した。
「兄さんどうしたの、父さんに見つかったら叱られるわよ」
「マリア、僕の事は好きかい」
「ええ、兄さん、好きに決まってるでしょ、兄妹だもの」
「それじゃまた二人で暮らさないか」
「えっ、兄さん、無理な事言わないでよ」
「ここから二人で逃げよう。母さんが亡くなったんだし、僕等ここに居る必要が無いよ」
「でも兄さん、せっかく騎士の身分なれるチャンスなのよ」
「僕は騎士になんてなりたくない。麦藁の中でも良いからマリアと一緒に暮らしたいんだ。マリアは聖女になりたいのかい」
「ううん、でも運命だし皆から期待されてるし、んっ!」
その時ジョージがマリアを引き寄せ激しく唇を重ねた。
「マリア、自分に正直になってごらん」
「ええ兄さん、私あの春祭りの日からずっと悪夢を見ているような気分なの、私が聖女なんて有り得ないって。朝起きたらきっと兄さんが隣に寝てて笑いながら夢の話を聞いてくれるんだろうって。でもね兄さん、朝起きたら誰も居ないの、何時も私一人ぼっちなの」
二人は再び唇を重ねる。
「マリア、一緒に行こう。母さんも亡くなったし全てを捨てて昔に戻ろう」
「うん、兄さん解った」
そして二人の姿が城内から忽然と消えた、伯爵家は大騒ぎとなり、街道に非常線が張られ、厳重な箝口令が布かれた。
その日の内に二人は兄妹の一線を越えて、そして加護を失った。
それでもマリアにとって、朝起きた時に兄が隣に居るだけで、心の空洞が埋まった様で幸せだった。
伯爵からは認知されず、薬草園の農婦の子として薬草園の物置の片隅で育てられた。
それでも二人は幸せだった、兵舎の食堂へ行けば残飯を恵んで貰えたし、薬草園の薬師たちの使い走りで小遣いを貰えた時には、町の露店の甘菓子も時々食べられた。
ジョージが幼い妹の手を引いて歩く姿は、城内での日常の光景になり、また、マリアも兄の側を片時も離れなかった。
寒い日には、敷き藁の中で親子三人抱き合って暖を取り、抱き合って眠る事が二人の当たり前の習慣で、マリアにとっても兄は、必ず直ぐ脇に居て自分を暖めてくれる存在だった。
十歳になったジョージに薬師スキルが現れた時の記憶が、二人にとって一番幸せな記憶になっている。
母親が涙を流して喜び、薬草園の親方からも祝いの食べ物を貰った。
満腹になるまで始めて味わう美味しい食事を堪能し、そのまま抱き合って天国にいるような気分で眠りに付いたことを覚えている。
名ばかりの伯爵の子供、それでもジョージにとって天使の様な妹を連れ歩く日々は、不満の無い至福の時でバラ色の記憶でに彩られている。
そんな幸せな日々が壊れたのはマリアが十歳の春祭りを迎えた日だった。
この国の子は十歳の春祭りの日に、自分の将来を決める為に神殿でスキル鑑定を受ける習慣になっている。
マリアも城内に住む子供達と一緒に、コツコツと貯めた神殿への寄付の銅貨十枚を握り締めて町の神殿へスキル鑑定を受けに行った。
マリア自身は花の手入れが好きだったので、薬草園で働ける庭師か農婦のスキルを希望していた。
だが、一緒に鑑定を受けた子供達が次々と鑑定結果を伝えられる中、別室に呼ばれて豪華な神官服を着た人から再度鑑定を受ける羽目になった。
緊張に身を固くした、自分に言い寄る男の子達が多かったので、自分には魔族や妖魔の鑑定結果が出たのだと思った。
神殿の人達が慌ただしく走り回っている、自分を火炙りにする準備を始めているのだと思った。
そして、兄の側に直ぐ行かなければと思った、兄さんならばこの悪夢から目を覚まさせてくれると思ったのだ。
突然部屋のドアが開かれ城主様現れた、城主様に抱すくめられた時には動転して何が起きているのか判らなかった。
聖女のスキルを得られる物は一千万人に一人程度しか出現しない、神の加護も4を与えられており、王以上の存在なのである。
辺境の無名な小貴族に過ぎないネルトネッテ伯爵は、十歳の春祭りに娘が聖女スキルを得たと知ると、領内にこの事実を布告し一週間の祝典を行った、これは自分の家系に聖女が現れた事を周囲に広く知らしめる行為だった。
噂を伝え聞いた周辺の諸侯から贈り物が殺到し、王家からも贈物が届いた。
二人の母親が第四夫人として認知され、二人の生活が激変した。
マリアは伯爵や正夫人と一緒に生活を送る様になり、ジョージは騎士見習いとして城内に部屋を与えられ、母親は城内に夫人としての居住区と召使が与えられて三人ばらばらの生活となった。
伯爵家の表看板となって多忙を極めるマリアがジョージと密かに会えたのは一年後だった。
マリアがジョージに飛付き、胸の中で号泣した。
「兄さん、兄さん、兄さん」
ジョージもまた、昔と変わらない小さな妹がそこに居ることを確認した。
「マリア、マリア、マリア」
膝の上にマリアを抱え上げ、ジョージは昔と同様に妹の話を聞いてあげる。
マリアもまた、ジョージの胸に頭を預けて語り始める。
次に会える日を約し、何度か密かに会っていると、その日を心待ちにして胸を躍らせる別の感情が芽生えて来るのに左程時間は掛からなかった、始めて唇を合せたのはその一年後だった。
そんなある日、二人の母親が流行病で亡くなった。
子供達から引き離され寂しそうだったが、それでも聖女の母親として、マリアや伯爵が中心となって盛大な葬儀が行われた。
その喪が明けた二日後、ジョージはマリアの私室に窓から侵入した。
「兄さんどうしたの、父さんに見つかったら叱られるわよ」
「マリア、僕の事は好きかい」
「ええ、兄さん、好きに決まってるでしょ、兄妹だもの」
「それじゃまた二人で暮らさないか」
「えっ、兄さん、無理な事言わないでよ」
「ここから二人で逃げよう。母さんが亡くなったんだし、僕等ここに居る必要が無いよ」
「でも兄さん、せっかく騎士の身分なれるチャンスなのよ」
「僕は騎士になんてなりたくない。麦藁の中でも良いからマリアと一緒に暮らしたいんだ。マリアは聖女になりたいのかい」
「ううん、でも運命だし皆から期待されてるし、んっ!」
その時ジョージがマリアを引き寄せ激しく唇を重ねた。
「マリア、自分に正直になってごらん」
「ええ兄さん、私あの春祭りの日からずっと悪夢を見ているような気分なの、私が聖女なんて有り得ないって。朝起きたらきっと兄さんが隣に寝てて笑いながら夢の話を聞いてくれるんだろうって。でもね兄さん、朝起きたら誰も居ないの、何時も私一人ぼっちなの」
二人は再び唇を重ねる。
「マリア、一緒に行こう。母さんも亡くなったし全てを捨てて昔に戻ろう」
「うん、兄さん解った」
そして二人の姿が城内から忽然と消えた、伯爵家は大騒ぎとなり、街道に非常線が張られ、厳重な箝口令が布かれた。
その日の内に二人は兄妹の一線を越えて、そして加護を失った。
それでもマリアにとって、朝起きた時に兄が隣に居るだけで、心の空洞が埋まった様で幸せだった。
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