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Ⅲ 王都フルムル
16 兄妹薬草工房で働く4
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予想以上に崖登りが上手く行った。
最悪、登り切るのに半日は必要と思っていたのだが、僅か十分程度で昇り切れた。
足裏に推進道具を取り付けるアイデアが功を奏したのだが、実は半信半疑のぶっつけ本番で臨んだのだ。
氷の銃弾に限って言えば、攻撃手段として開発した術なので、失敗すれば自分の足裏を自分で撃ち抜く事態も予想していた。
無茶な事を試したのには理由が有る。
パレードで父さん達とニアミスしてから、今自分たちが置かれている状況、自分達は追われる身であることを再確認したのだ。
万が一この崖に囲まれた王都で父さんや国軍に追掛け回されたら逃げ場が無い、大人しく捕まって火炙りにされるしか無いのだ。
二人で逃げ道について話合ってみた、勿論布団に包まって半分眠りながらだが、思い浮かぶ方法は運河に飛び込む、空を飛ぶ、崖を登るの三通りしか無かった。
運河に飛び込む案は先回りされ待ち構えられて捕まるのが関の山なので没、空は飛べないから没、結局崖を登る方法しか残らなかった。
ほぼ垂直に切り立った千メートルの崖であるが、俺には水術と熱術、マリアには土術が有るので足場を作りながら登ることは可能であるとの話になった。
「でも兄ちゃん、余程急いで登らないと崖上の巡回路に先回りされるし、ぐずぐずしてたら湖の上で捕まっちゃうよ」
「舟で回り込まれる事を考えたら二時間内くらいで湖面に着かないと駄目だな。登り一時間下り三十分として千メートル一時間で登れるのかな」
「一キロ四分で走れるよ」
「そりゃ平らな所だろ、五キロの坂道ダッシュみたいなもんじゃないかな」
「うげー!絶対やだ」
「足の裏に発条でも着けて飛び上がるか、ははははは。・・・・ん?」
良い脱出訓練になった、精度を上げれもっと素早く登れるはずだし、湖面でも十分逃げ切れることが判った。
逃げ道が確保されていると思えば、安心して生活できる。
レベルアップで獲得したボーナスポイントは、粉砕に二、木工に二割り振った。
残りのボーナスポイントは九、マリアに無駄使いを諫めていた自分の方が減りが早い、十九もポイントが残っているマリアに強いことが言えなくなってしまった。
早く戻れた分、まるまる昼の時間が使えるようになったので、早速に木工用具と木材を買って来てテーブルと椅子を作ってみた。
さすがにレベル二ではアマチュアレベルなのだが、それども実用的には十分な物が出来上がった。
小さな棚も作り食器を並べてみるとなんか生活感が出てきた。
早速にテーブルの上に浅鍋を置き、ミノタウロスの肉と葱、茸と葉採と白滝代わりのパスタ、大豆の様な豆で作った手作り豆腐を入れて、売店で見付けた醤油の味に近い調味料と砂糖を加えて煮込んでみる。
すき焼だ、パスタが麺代わりになって、結構満腹した。
ミノタウロスの肉はやはり牛肉で美味しかった。
「兄ちゃん、またミノちゃん狩に行こうよ」
「ああ、今度の休みにまた行くか」
「うん」
ーーーーー
ミランダ公爵家公子ミハエル
「ミハエル様ありがとうございます」
西部の領主達が連れ立って礼を言いに来た。
「僕は全然関与して無いからね、僕に礼を言うのは筋違いだよ」
「はい、そうでしょうとも、そうでしょうとも。ありがとうございました。このご恩は忘れません」
全然信じてくれない、溜息が出そうだ。
トーラスの森にミノタウロスが住み着いたのが十年前、人間の脳味噌が大好物の魔物なので、ヒューロス湖西岸から西部地区に伸びる西部街道が通行止めになった。
だが西部街道はヒューロス大河を経由して外国にも商品を輸出する西部地区にとっての物資流通の大動脈だった。
この大動脈が寸断されたのだ、当然の帰結として西部地区の経済状況は壊滅的な状況になった。
このため、領主達は国王にミノタウロス討伐をこの十年間ずっと繰り返し何度も陳情を続けて来たのだが、王は手を拱いて来た。
組織力と兵力を有効に展開出来ない森の中でのミノタウロスとの戦いは、安易に手を出すと、大隊規模ですら全滅の虞があるほど困難な相手のだ。
そんな恐ろしいミノタウロスが昨夜討伐されたのだ、しかもたぶんメテオによって。
昨夜眠れないので、南西の崖上に有る見張所から湖を眺めていた。
王家と我が家との関係改善が手詰まり状態だったので、頭を冷やせば良いアイデアが浮かぶかも知れないと思ったのだ。
南岸の港に停泊する宝石箱の様な南軍の軍船の灯がここからでも良く視えた、でもあの宝石箱は開けると中からミミックが飛び出して来る、そんな事をうつらうつら考えていた。
そんな時だった、突然西岸の上空に隕石群が現れたのだ、素人の僕にもあれがメテオで有る事は判った。
十を越える隕石が一直線になって、まるで夜空に現れた巨大な火の槍が大地に突き刺さる様に降って来たのだ。
南軍の軍船が動くのが見えた、たぶん位置的に考えて南軍の方が先に現場へ到着するだろう。
慌てて城に戻った、”北軍の現場検証を阻止しないこと、場合によっては協力して情報を共有すること”、”南軍は北軍の現場検証を拒まないこと、情報は喜んで提供すること”、両軍の衝突を避けるため、急いで両軍の司令官に梟便を送った。
祈るような気持ちで送られて来る情報を鳥小屋の脇で待った。
父さんや我が家の幹部が続々と押し掛けて来た。
衝突が無事避けられたことに、父さんと一緒に喜んだ。
そして次に送られて来た情報に驚愕した。
隕石の落下地点に皮と肉を綺麗に剥かれた、ミノタウロスの真新しい白骨が転がっていたと言うのだ。
そして暗号化された秘密情報に、梟の目を通して地上を監視していた術者からの情報として、トーラスの森の脇の沼地を物凄い速さで、瞬時に駆け抜けた小舟がいたとの情報があった。
神の御舟の様に、前後に神々しい銀の帯の作り、少年と少女を乗せて船尾に火を灯していたというのだ。
あの二人に間違いない、王都の出入り口は全て隼衆に昼夜監視させているが報告は無い。
既に都の外に出て行ってしまったのだろうか。
最悪、登り切るのに半日は必要と思っていたのだが、僅か十分程度で昇り切れた。
足裏に推進道具を取り付けるアイデアが功を奏したのだが、実は半信半疑のぶっつけ本番で臨んだのだ。
氷の銃弾に限って言えば、攻撃手段として開発した術なので、失敗すれば自分の足裏を自分で撃ち抜く事態も予想していた。
無茶な事を試したのには理由が有る。
パレードで父さん達とニアミスしてから、今自分たちが置かれている状況、自分達は追われる身であることを再確認したのだ。
万が一この崖に囲まれた王都で父さんや国軍に追掛け回されたら逃げ場が無い、大人しく捕まって火炙りにされるしか無いのだ。
二人で逃げ道について話合ってみた、勿論布団に包まって半分眠りながらだが、思い浮かぶ方法は運河に飛び込む、空を飛ぶ、崖を登るの三通りしか無かった。
運河に飛び込む案は先回りされ待ち構えられて捕まるのが関の山なので没、空は飛べないから没、結局崖を登る方法しか残らなかった。
ほぼ垂直に切り立った千メートルの崖であるが、俺には水術と熱術、マリアには土術が有るので足場を作りながら登ることは可能であるとの話になった。
「でも兄ちゃん、余程急いで登らないと崖上の巡回路に先回りされるし、ぐずぐずしてたら湖の上で捕まっちゃうよ」
「舟で回り込まれる事を考えたら二時間内くらいで湖面に着かないと駄目だな。登り一時間下り三十分として千メートル一時間で登れるのかな」
「一キロ四分で走れるよ」
「そりゃ平らな所だろ、五キロの坂道ダッシュみたいなもんじゃないかな」
「うげー!絶対やだ」
「足の裏に発条でも着けて飛び上がるか、ははははは。・・・・ん?」
良い脱出訓練になった、精度を上げれもっと素早く登れるはずだし、湖面でも十分逃げ切れることが判った。
逃げ道が確保されていると思えば、安心して生活できる。
レベルアップで獲得したボーナスポイントは、粉砕に二、木工に二割り振った。
残りのボーナスポイントは九、マリアに無駄使いを諫めていた自分の方が減りが早い、十九もポイントが残っているマリアに強いことが言えなくなってしまった。
早く戻れた分、まるまる昼の時間が使えるようになったので、早速に木工用具と木材を買って来てテーブルと椅子を作ってみた。
さすがにレベル二ではアマチュアレベルなのだが、それども実用的には十分な物が出来上がった。
小さな棚も作り食器を並べてみるとなんか生活感が出てきた。
早速にテーブルの上に浅鍋を置き、ミノタウロスの肉と葱、茸と葉採と白滝代わりのパスタ、大豆の様な豆で作った手作り豆腐を入れて、売店で見付けた醤油の味に近い調味料と砂糖を加えて煮込んでみる。
すき焼だ、パスタが麺代わりになって、結構満腹した。
ミノタウロスの肉はやはり牛肉で美味しかった。
「兄ちゃん、またミノちゃん狩に行こうよ」
「ああ、今度の休みにまた行くか」
「うん」
ーーーーー
ミランダ公爵家公子ミハエル
「ミハエル様ありがとうございます」
西部の領主達が連れ立って礼を言いに来た。
「僕は全然関与して無いからね、僕に礼を言うのは筋違いだよ」
「はい、そうでしょうとも、そうでしょうとも。ありがとうございました。このご恩は忘れません」
全然信じてくれない、溜息が出そうだ。
トーラスの森にミノタウロスが住み着いたのが十年前、人間の脳味噌が大好物の魔物なので、ヒューロス湖西岸から西部地区に伸びる西部街道が通行止めになった。
だが西部街道はヒューロス大河を経由して外国にも商品を輸出する西部地区にとっての物資流通の大動脈だった。
この大動脈が寸断されたのだ、当然の帰結として西部地区の経済状況は壊滅的な状況になった。
このため、領主達は国王にミノタウロス討伐をこの十年間ずっと繰り返し何度も陳情を続けて来たのだが、王は手を拱いて来た。
組織力と兵力を有効に展開出来ない森の中でのミノタウロスとの戦いは、安易に手を出すと、大隊規模ですら全滅の虞があるほど困難な相手のだ。
そんな恐ろしいミノタウロスが昨夜討伐されたのだ、しかもたぶんメテオによって。
昨夜眠れないので、南西の崖上に有る見張所から湖を眺めていた。
王家と我が家との関係改善が手詰まり状態だったので、頭を冷やせば良いアイデアが浮かぶかも知れないと思ったのだ。
南岸の港に停泊する宝石箱の様な南軍の軍船の灯がここからでも良く視えた、でもあの宝石箱は開けると中からミミックが飛び出して来る、そんな事をうつらうつら考えていた。
そんな時だった、突然西岸の上空に隕石群が現れたのだ、素人の僕にもあれがメテオで有る事は判った。
十を越える隕石が一直線になって、まるで夜空に現れた巨大な火の槍が大地に突き刺さる様に降って来たのだ。
南軍の軍船が動くのが見えた、たぶん位置的に考えて南軍の方が先に現場へ到着するだろう。
慌てて城に戻った、”北軍の現場検証を阻止しないこと、場合によっては協力して情報を共有すること”、”南軍は北軍の現場検証を拒まないこと、情報は喜んで提供すること”、両軍の衝突を避けるため、急いで両軍の司令官に梟便を送った。
祈るような気持ちで送られて来る情報を鳥小屋の脇で待った。
父さんや我が家の幹部が続々と押し掛けて来た。
衝突が無事避けられたことに、父さんと一緒に喜んだ。
そして次に送られて来た情報に驚愕した。
隕石の落下地点に皮と肉を綺麗に剥かれた、ミノタウロスの真新しい白骨が転がっていたと言うのだ。
そして暗号化された秘密情報に、梟の目を通して地上を監視していた術者からの情報として、トーラスの森の脇の沼地を物凄い速さで、瞬時に駆け抜けた小舟がいたとの情報があった。
神の御舟の様に、前後に神々しい銀の帯の作り、少年と少女を乗せて船尾に火を灯していたというのだ。
あの二人に間違いない、王都の出入り口は全て隼衆に昼夜監視させているが報告は無い。
既に都の外に出て行ってしまったのだろうか。
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