兄妹○○は死罪です・・・妹と一緒にサンドワームに喰われました

切粉立方体

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Ⅳ マーシャル国

5 兄妹討伐現場を後にする 

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竜討伐の現場作業を終えて、マーシャル国の王都に戻ったのは竜を討伐した日から一月後だった。
解体作業自体は半月程で終わり軍も引き上げたのだが、諸外国からの視察団がその後も続々と現場に訪れたのでミハエルから頼まれた案内役としての務めが長引いたのだ。

竜の骨はマリアが作ったメテオの神殿の前に広場を作って飾ってある、連日観光客で賑わっており、ヒューロス国同様に、ここを観光地の核として町の形態を整えつつある。
マリアが整地のついでに下水管網と水道管網を作っておいたので、爆発的に人口が増加した新興都市で起こりがちな、衛生的な問題は発生しなかった。
唯一の問題は、土産物の製造が観光客の増加に追い付いていないことぐらいで、王都との間に広い石敷きの街道を作っておいたので、生活物資は滞る様な事は起きなかった。

最後までなかなか見つからなかったのが神殿の神官で、仕方がないので神殿を作った責任上、マリアが神官役を務めていた。
祀って有る神様は、他に神様の知り合いも居ないので、取り敢えずノルンの爺さんにした。
石像はマリアが土術で出合った時の記憶を基に作り上げた、だから右腕にサンドワームをぶら提げて、やる気の無い迷惑顔で立っている、だが神様としてはマイナーなノルンの爺さんを祀ったのは間違いであった。

「こんな大きな神殿の神官なんて私には務まりません、辞退いたします」

やっと探し当てて派遣してもらったノルンの神官さんが神殿を見てびびってしまった、神官長室の豪華な応接セットで接待してるのだが、ソファーから落ちそうなくらい浅く腰掛け、震えている。
着ている神官服も洗ってあって清潔なのだが、継接ぎだらけで年季が入って草臥れている、最初は他の神殿同様の白だったと思うのだがすでに薄茶に変色している。

「大丈夫よ、ほら、この御饅頭食べてみて」
「はい、モグモグ、えっ!こんな美味しい菓子、初めて食べました。この中の黒くて甘い物は何でしょうか」
「美味しいでしょ、中の甘い物は赤豆を煮て砂糖と練り合わせた物よ、アンコって言うの。このアンコを砂糖を混ぜて練った穀粉で包んで蒸した物がこの菓子よ。御饅頭って言うの、広場前のお菓子屋さんがレシピのお礼って言って毎朝出来立てを届けてくれるのよ。食べ切れないくらい、色々なお店から一杯貰えるからどんどん食べてね」
「ここに居ると毎日これがお腹一杯食べられるんですか」

神官さんは夢見る様な目で饅頭の山を見つめている。
ノルン神殿の神官さんは皆痩せている、もちろん摂生とかダイエットとか健康志向とかではなく、貧しい食事での栄養不足がそのような体型に反映されているだけだ。
”お腹一杯”という言葉の中にも、切望に近い感情が混じっていた、マリアが追い打ちをかける。

「そうなの、凄いでしょ。それにこれも食べてみて」

マリアが用意した木箱から干し肉を出して、皿一杯に盛る。

「これは?」
「竜の肉をケケロ草でいぶった物よ、どう?」
「これも凄く美味しいです。塩漬け肉みたいですけど塩っぽく無くて凄く美味しいです」
「これって凄く長持ちするのよ。竜の肉は少なくなったけど、色々な肉を燻った物を色々なお店が届けてくれるから、これも食べ放題なの」
「これも毎日食べ放題ですか」

神官さんの目が虚ろになっている、もう一押しだ。

「そうよ、それにここは座ってだけで寄付が集まるの」
「祈祷の門付けは必要無いのですか」

これは、神官が来ないので不審に思った時に商人から聞いた話なのだが、ノルン神は祖神として尊敬はされているものの、加護が無いのでノルン神を信仰する者は殆どいないそうで、他の神殿と違い信者が神殿を訪れる事が無く、ノルン神殿には寄付や喜捨の収入がほとんど無いそうなのだ。
なのでノルンの神官は町を巡って祈祷を施して生活費を稼ぐそうなのだが、訪問販売と一緒でが邪険にされることが多い。
なので、これが嫌で辞めて行く神官見習いがほとんどで、神官の成り手は物凄く少ないそうなのだ、だからこの人を逃すと次の神官さんが何時派遣されるかはまるで判らなくなる。

「ほら、あそこ、ノルン様の前に箱が置いてあるでしょ。あれってお賽銭箱って言うんだけど、ほら、ああやってお客さんがお金を投げ入れてくれるの、一日で銀貨二万枚くらい集まるから、神官見習いさんを百人くらい集めても大丈夫よ」
「銀貨二万枚なんて夢みたいなお話です。ですがここの広い借地代の工面は」
「この町全体の土地と権利は神殿に寄付するから、逆に借地代を貰える立場よ」
「銀貨二万枚だけではなくて、借地代も入って来るのですか。それならば年越しのお金の工面や、神殿の補修の寄付集めも必要無いのですね」
「そうよ、使い切れないくらいにお金がザクザク入って来るのよ」
「ノルン様に感謝いたします。微力ながら私が神官を務めさせて頂きます」

マリアも必死だ、確かに嘘は吐いてないが、お偉いさんの案内や出迎え、街全体の取り纏めなどでここの神官は結構忙しいと思うのだが、マイナス部分の説明は省いて食い物とお金で釣り上げてしまった。

「ですが勇者様と賢者様は何故それほどまでノルン様に尽くされるのですか」

成行きとか、間違ってノルンの爺さんの神殿を作ってしまっただけとはまさか言えない。

「あはははは、私達って、ノルン様の加護を頂いてるの」
「えっ!これは感檄です。私、ノルン様の加護をお持ちの方に生まれて初めてお会いしました。ノルン様も御加護を与えて下さるんですね。」
「勿論ですよ、神様なんですから。あはははは」

迷惑料で貰ったなんて口が裂けても神官さんには言えない、俺達は逃げ出す様に神殿を後にした。

今日も竜の骨の見物客は大盛況だ、頭骨の中に入る階段には長蛇の列ができている。
討伐の様子を描いた大看板の前も黒山の人だかりだ、本人達よりも恰好良く書かれているので、俺達が混じって見上げていても誰も気が付かない。

王都への定期の辻馬車に乗り込む、二十人乗り、料金は銀貨十枚だ。
街を出てから振り返ると、門に”メテオの町にようこそ”と大書した看板が掛けられていた。
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