お兄ちゃん、馬鹿な事言わないでよ -妹付き異世界漫遊記ー

切粉立方体

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17 猛烈に嫌な予感がする

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ずんずんと王宮の中心部に向かって進んで行く。
途中何カ所か、兵が警護する扉が有ったのだが全てフリーパスである。
良く磨かれた石畳の廊下を火竜の紋章が描かれたマントを纏った少女が軽快に歩いて行く。

王都の建物は石造りが多い、森の中なので木造建築物が多いと思っていたのだが、近くに規模の大きい古代遺跡が有り、そこから安価で良質な成型済みの石材が調達できるので石造りの建築物が多いとのことだ。

でもそれって・・・、まあ、価値観の相違だろ。

きわ立派な扉の前で立ち止まる。
扉を十名ほどの兵士が警護している。

「父上は在室か」
「はっ、いらっしゃいます」
「報告が有ると伝えてくれ」
「了解です」

脇の小さな扉から兵士が一名中に入って行く。
そして直ぐに大きな扉が開けられた。

「入れ」

中から良く通る、命令しなれた男性の声が響いた。

重厚で大きな机、机の上には書類が山のように積まれていた。
うん、国王だって仕事するよな、当然だけど。

机の上の書類から顔を上げた男性は、中年だが渋い魅力の年輪を顔に刻んだ美男子だった。
うん、こいつは絶対に女にもてる、もの凄く女にもてる男の天敵だ。

団長が一歩室内に入って片膝を突く。
隊長が廊下で片膝を突いたので、俺も真似をした。

「赤竜騎士団長カラス、結界設営完了の報告にまいりました」
「ほう、それはめでたい。報告を聞こう。通れ」
「はっ」

国王が椅子を立って出迎える。
団長が三歩室内に入り立ち止まる、俺達も後ろに続いて室内に入る。
そして再び片膝を突き、背後で大扉が静かに閉まる。
足下には団長のマントと同じ図柄が大きく描かれた毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。

いきなり団長が駆け出して国王の胸に飛び込む。
一瞬グサリの御命頂戴かと思ったが、胸に頭をグリグリと押し付けて甘えている。
父親に甘える娘とは少し違う雰囲気が、団長の恍惚とした表情に漂っている。
うん、父娘もOKだった、この世界では。

「よしよし、カラス頑張ったな。良い子だ」
「お父様、ありがとうございます」
「じゃ、詳しい説明を聞こう」

その広い室内には小さな食卓と会議テーブル、重厚な皮の応接セットと大きな書棚が置いてあった。
小姓にお茶を入れさせて、団長と国王は応接セットで対面して座っている。
俺と隊長は団長の後ろに立っている。
テーブルの上には王都周辺の地図が広げられている。

「兵の運用に余裕が出来ましたので六日前より順次結界内のガーゴイルの掃討に着手しており、今夕には峠下周辺も含めて掃討は完了すると判断しております。街道につきましては既に四日前に安全が確保され、物流につきましては事前の九割まで復帰しております」
「兵の損耗は」
「電撃下の放置で長期療養が必要な者が二百名、ガーゴイルとの戦闘で重傷を負った者三百三十四名、軽傷者三千六百二十三名、死傷者ゼロです」

赤竜騎士団の総勢は五千人である、前線基地で兵がボロボロと感じた俺の感想は間違っていなかったようだ。

「死者ゼロは偉いぞ、カラス。黒竜は明日に敷設完了との情報が届いておるが死者は三千人に及んだそうだ」

黒竜騎士団は総勢一万人、貴族達の手持ち兵で構成され、兵士の訓練所兼国軍の名札を下げた王族への牽制部隊だとリンちゃんから聞いている。
プライドが高く勇猛だそうだ。

「なぜそれほどの死者が」
「ガーゴイル対策として結界敷設地の奥二ズン(二キロ)の森を伐採したそうだ」
「それはまた無茶な、ゴブリンやガーゴイルならともかくオークやオーガの集団との戦闘など気違い沙汰です」
「それでも奴は三千程度の犠牲に留めた、奴の戦闘指揮能力は侮れないぞ、カラス」
「はい、肝に銘じて置きます」

鋭かった国王の目が柔らかくなる。

「それではカラス、私の実戦感覚が鈍らないようにこの二人から現場の状況を聞いても良いかい」
「もちろんです、お父様」

カラス団長はくるりと振り向いて立ち上がった。

「貴様等、ここに座わる事を許す。父上に詳しくご報告して差し上げろ」

そして自分は国王の脇に移動して、身体をピタッと寄せている。

最初に隊長から報われなかった数多くの努力の報告、横で聞いて居いる俺も気の毒になった。
そして俺の番、梯子を担いで走り回った時から本日まで。
国王はオークが女性兵士の色っぽい姿を見て喜んでいた場面が気になったらしいので、微に入り細に入り説明した。
団長は大いに気分を損ねていた様だ。

説明し終わった。

「カラス、ガーゴイルの肉と魔石の収入はどのくらい有ったのだ」
「肉は価格が暴落して収入になりませんでしたが、魔石で金貨十万枚ほどになりました。結果的には今回の作戦での我が団の収支は大幅なプラスです」
「そーか、それならば結界敷設完了の祝宴でもやるか。今回の作戦に備えて実はな、青白の分も含めて金貨百万枚規模の臨時予算を組んでおいた。敷設は数年掛かると見積もって、物流の警護や庶民の警備での兵力増強、物価の値上がり対策や経済の活性化などの国力維持のための間接的な費用も見込んでな。この森に接する全ての国の国力低下が低下すると、この大陸の軍事バランスが大幅に歪んでしまう。結界が完成したことを爪を研いでいる連中に示しておく良い機会だろう」

カラスちゃんが尊敬の眼差しで王を見つめて頷いている。

「祝宴は一週間後、主催は赤竜騎士団名で何気なさを装うか。よし、至急手配しよう。カラスも手伝ってくれ」
「もちろんですわ、お父様」

国王の執務室を退出、カラスちゃん、赤竜騎士団長の執務室に戻る途中だ。
カラスちゃんは難しい顔をして考えながら歩いている。

「貴様確かミノスと言ったな」
「はい」
「父上は貴様をいたく気に入られたご様子だ。あのように楽しく会話される父上は久々に拝見した。もっとも父上の前であのように流暢に話す平民も初めて見たがな」
「すいません」
「いや、これは妾にとってプラスだと思っておる。妾はこの国を出たく無い。父上の御側にずっと居たい。父上以外にこの身体を触れさせたくない」

ありゃー、なんかそう思ってたが矢張り。
もっとも俺には関係ないことだ、用事も義理も済んだし、とっとと帰ろう。
可愛いミーナが待っている。

「だから貴様も応援しろ」

うん、応援ならいくらでもする。
どうせ国王にもこの姫様にも二度と会うことは無いのだから。

「はい、喜んで」

部屋に到着。

「ムルとゴース、念のためバルバとテイネスも呼んでくれ」

警備兵が急いで走って行く。

「それでは帰らせて頂きます」
「まて、お茶でも飲んで行け」

応接セットに座らされて小姓の煎れた茶を振る舞われた、うん、旨い茶だ。

「どーだ、良い茶だろ。あのな、貴様も祝宴に出席しろ」

茶を吹き出しそうになった、俺はもう関わりたくない。

「いや、俺平民なんで礼儀作法とか判りませんから」
「大丈夫じゃ、礼儀なんて簡単じゃ。直ぐに覚える」

カラスちゃんが席を立って本棚に歩み寄る。
猛烈に嫌な予感がする。
一冊の本を手に取る。

「なに、あっと言うまじゃ」

俺は腰を浮かせる。
その時ドアが開いて屈強な兵士が四人部屋に入って来た。

「丁度良い、そいつを押さえつけろ」

うっ、動けない。

「先ほど応援すると言ったではないか」

テーブルの上に置かれた本に、俺は手を押し付けられた。

気が付くと、なんか大きなお屋敷の玄関ホールに俺は立っていた。
目の前には黒い服の厳しい顔をした中年女性が鞭を持って立っている。
うん、このシーンは何か良く知っている。
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