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104、白い炎
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「ルファリシオ、私は貴方を倒す。私が誰なのか思い出したから」
神獣の息子であるシルヴァンを貫くほどの凄まじい剣技を見せつけた男。
そして、その男の前に立つ純白のドレスの女性。
エルトはルナの姿に目を奪われる。
(あの髪の色、それにあの耳と尾は本当にルナ様なのか? あれはまるで)
幼い頃、エルトが読んだ絵本。
そこに勇者ライオゼスと共に描かれていた一人の女性。
「まさか……」
グリフォンの上にいるイザベルが叫ぶ。
「馬鹿馬鹿しい、そんな格好になったからといって何が変わるというの? ふふ、ルファリシオ様、その女は私が捕らえて差し上げますわ! ついでに、その銀狼に止めをさしてあげる!!」
艶やかな唇が笑みを浮かべる。
その目はルナへの嫉妬と怒りに満ちていた。
(ふふ、ルナ! 今度こそ貴方に思い知らせてあげる、この私の方が上だってことをね!)
「ルナ様! シルヴァン!!」
エルトは、目の前のグリフォンと戦いながらルナに叫んだ。
巨大な魔獣の背に乗る女の気配が変るのを感じる。
ルナを前にして、肥大していくイザベルの負の感情が黒い薔薇の化身に力を与えているのが分かる。
もはやそれは人とは違う何かだ。
艶やかなドレスから見える胸元にある黒蛇の呪印が、強烈に輝きを増す。
闇色のその光。
「ルナさん……」
エルザは、グリフォンに乗るイザベルの姿を見て凍り付いた。
その背からあふれ出る無数の薔薇の鞭。
まるでそれが空を覆うかのように、ルナとエルザの眼前に広がっていく。
「ふふ、ふふふ、やっぱり我慢できない! ルナ、貴方も今この手で殺してあげるわ!!」
数えきれないほどの薔薇の鞭は、エルザたちの逃れ得ない死を予感させた。
ルナとエルザの美しい体が黒い鞭の嵐に切り裂かれる。
エルトは叫んだ。
「やめろぉおおお! ルナ様! エルザ様!!」
幾本もの黒い薔薇の蔓が槍のように突き刺さる石畳。
凄まじい衝撃音と共に、再び舞い上がる砂埃。
だが、エルトは見た。
エルザとシルヴァンを守るように、そこに立つ女性の姿を。
彼女を切り裂き貫いたと思われたいばらの蔓は、全て切り落とされて蛇のように地面をうねると白い炎に包まれて枯れ果てていく。
エルトは息をのんだ。
全ての方位から襲い掛かった蔓を切り落としたからだろう。
高速で回転した遠心力で、ルナの純白のドレスの裾がふわりと広がっている。
(凄い、なんて剣技だ! 僕が目で追えなかったなんて)
全ての鞭を切り落とされたイザベルは、血走った目で叫ぶ。
「嘘よ! 私のこの力を、ルナお前なんかが!!」
ルファリシオはそれを見て笑った。
「やめておけイザベル、お前ではその女には勝てん。死ぬぞ」
「ルファリシオ様!!」
怒りに満ちたイザベルの表情。
それを意に介した風もなく、純白のドレスの女性の前に立つルファリシオ。
「この女は、お前が知っている女ほど甘くはない」
あたりの空気が凍り付いたような緊張感。
エルトは思わずつばを飲み込んだ。
使徒というよりは、もはや邪神の器とも呼ぶべき男。
シルヴァンでさえ斬り伏せた恐るべき男が、ルナの前で剣を構えている。
「黒蛇の呪印を消し去った時からおかしいと思っていたのだ、それもこの俺が刻んだ呪印をな。そんな真似が並みの女に出来るはずがない」
それを静かに見つめるルナの姿。
その顔は、間違いなくエルトが知っているルナのものだ。
だが、それでいて違う誰かのようにも思える。
まるでルナの体の中に、もう一人の誰かがいるかのように。
手にした剣が白い炎に包まれていく。
「口数の多い男ね、私はそういう男が好みじゃないの。来なさい、貴方に本物の剣技を教えてあげる」
「ふふ、言ってくれる。この俺に向かってそのセリフ、後悔するぞ聖王妃リディアよ」
神獣の息子であるシルヴァンを貫くほどの凄まじい剣技を見せつけた男。
そして、その男の前に立つ純白のドレスの女性。
エルトはルナの姿に目を奪われる。
(あの髪の色、それにあの耳と尾は本当にルナ様なのか? あれはまるで)
幼い頃、エルトが読んだ絵本。
そこに勇者ライオゼスと共に描かれていた一人の女性。
「まさか……」
グリフォンの上にいるイザベルが叫ぶ。
「馬鹿馬鹿しい、そんな格好になったからといって何が変わるというの? ふふ、ルファリシオ様、その女は私が捕らえて差し上げますわ! ついでに、その銀狼に止めをさしてあげる!!」
艶やかな唇が笑みを浮かべる。
その目はルナへの嫉妬と怒りに満ちていた。
(ふふ、ルナ! 今度こそ貴方に思い知らせてあげる、この私の方が上だってことをね!)
「ルナ様! シルヴァン!!」
エルトは、目の前のグリフォンと戦いながらルナに叫んだ。
巨大な魔獣の背に乗る女の気配が変るのを感じる。
ルナを前にして、肥大していくイザベルの負の感情が黒い薔薇の化身に力を与えているのが分かる。
もはやそれは人とは違う何かだ。
艶やかなドレスから見える胸元にある黒蛇の呪印が、強烈に輝きを増す。
闇色のその光。
「ルナさん……」
エルザは、グリフォンに乗るイザベルの姿を見て凍り付いた。
その背からあふれ出る無数の薔薇の鞭。
まるでそれが空を覆うかのように、ルナとエルザの眼前に広がっていく。
「ふふ、ふふふ、やっぱり我慢できない! ルナ、貴方も今この手で殺してあげるわ!!」
数えきれないほどの薔薇の鞭は、エルザたちの逃れ得ない死を予感させた。
ルナとエルザの美しい体が黒い鞭の嵐に切り裂かれる。
エルトは叫んだ。
「やめろぉおおお! ルナ様! エルザ様!!」
幾本もの黒い薔薇の蔓が槍のように突き刺さる石畳。
凄まじい衝撃音と共に、再び舞い上がる砂埃。
だが、エルトは見た。
エルザとシルヴァンを守るように、そこに立つ女性の姿を。
彼女を切り裂き貫いたと思われたいばらの蔓は、全て切り落とされて蛇のように地面をうねると白い炎に包まれて枯れ果てていく。
エルトは息をのんだ。
全ての方位から襲い掛かった蔓を切り落としたからだろう。
高速で回転した遠心力で、ルナの純白のドレスの裾がふわりと広がっている。
(凄い、なんて剣技だ! 僕が目で追えなかったなんて)
全ての鞭を切り落とされたイザベルは、血走った目で叫ぶ。
「嘘よ! 私のこの力を、ルナお前なんかが!!」
ルファリシオはそれを見て笑った。
「やめておけイザベル、お前ではその女には勝てん。死ぬぞ」
「ルファリシオ様!!」
怒りに満ちたイザベルの表情。
それを意に介した風もなく、純白のドレスの女性の前に立つルファリシオ。
「この女は、お前が知っている女ほど甘くはない」
あたりの空気が凍り付いたような緊張感。
エルトは思わずつばを飲み込んだ。
使徒というよりは、もはや邪神の器とも呼ぶべき男。
シルヴァンでさえ斬り伏せた恐るべき男が、ルナの前で剣を構えている。
「黒蛇の呪印を消し去った時からおかしいと思っていたのだ、それもこの俺が刻んだ呪印をな。そんな真似が並みの女に出来るはずがない」
それを静かに見つめるルナの姿。
その顔は、間違いなくエルトが知っているルナのものだ。
だが、それでいて違う誰かのようにも思える。
まるでルナの体の中に、もう一人の誰かがいるかのように。
手にした剣が白い炎に包まれていく。
「口数の多い男ね、私はそういう男が好みじゃないの。来なさい、貴方に本物の剣技を教えてあげる」
「ふふ、言ってくれる。この俺に向かってそのセリフ、後悔するぞ聖王妃リディアよ」
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