婚約者に大切にされない俺の話

ゆく

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79. しびれを切らす

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 兄からのラインにメッセージが入ったのは昼過ぎ。遅めの昼食をとった後だった。
 いつもヒート休暇に入ると調子はどうかと確認の電話をくれるから、きっとまたそれだと思ってトーク画面を開くと、予想とは違う文章だった。


 ――真緒は瀬尾の三兄弟のことをどう思う?


 たった一言だけのその文章を見て「今更どうした」という疑問が首をもたげる。俺と三兄弟の付き合いはもう二十年以上だし、兄にいたっては尚樹さんが生まれてからの付き合いだから、もう三十年以上だ。

 何とも答えにくい質問にトーク画面を開いたままでいると、おそらく既読マークに気づいた兄から「簡単にでいいから」と追撃が来た。その追撃にも既読が即行でついただろうから、無視ができなくて仕方なく「どういう意味で?」と返信した。その返信にもすぐに既読がつく。

 しかめっ面でスマホを触る俺を見て、宏樹と泰樹くんが不思議そうに「どうした?」「どうしたの?」と同時に声をかけた。かち合ったことが気に入らないのか、二人は顔を見合わせる。チッと舌打ちをする宏樹の姿に(今日は少し元気そうだな)とホッとした。


「兄さんからラインのやりとりをしてるだけだよ」
「真都さんから?」
「部長から?」


 俺の答えに二人ともがもう一度顔を見合わせた。


「何かよくわからないラインが来て、それで。……あ、ヒート期間中に兄さんから連絡があるのはいつものことだから心配しないで」


 そう答えてみたものの二人の顔は晴れない。
 兄を目の上のたんこぶ的な存在と認識しているだろう二人だからそれもしょうがないか。


「真緒ちゃん。ヒート中はいつも真都さんから連絡があるの?」
「え、うん……一応、俺が落ち着いてる時じゃないと無理だけどね。ちゃんと食べてるかとか、具合いはどうかって確認とか。あと、ここ数回は来てないけど、家に来て直接様子を見たりとか?」
「えっ、真都さんが来るの?」
「うん。毎回じゃないよ。おいしいものの差し入れとか。あとは、俺の様子が本当に気になるようで」


 兄が俺に対して過保護だというのはわかっている。
 兄にとって俺はいつまで経っても十一歳差の弟で、夏の暑い日に自室で意識を失っていた姿を思い出さずにはいられない庇護対象なんだろう。

 ヒート中の連絡も、俺がまた意識を失っていないか心配でたまらない……と実家に帰省した際に母へ話していたのを知っている。


「だから、変な連絡じゃないから気にしないで。いつもは電話で連絡が来るから、ラインはめずらしいなと思ってただけ」
「ならいいんだけど」


 そう。ラインはめずらしい。
 ただ内容が内容なだけに、それが引っかかるだけで。

 通知音が鳴って見れば、また兄からラインでメッセージが届いてる。


 ――婚約者候補としてという意味でだ。日下と瀬尾が、そろそろしびれを切らしてる。


 書いてある文面に思わず(うわぁ……)と引いてしまいそうになって、ここには宏樹や泰樹くんたちがいたことを思い出して、ラインのやりとりのためだけに寝室へと向かう。

 その後、立て続けに送られてきたラインを読む限りでは、どうも両家でそろそろ本格的に縁を結ぼうという動きが強くなっているらしい。つまりは宏樹か、宏樹じゃないどちらかを選んで婚約者を決めろということだ。

 下手すれば婚約をすっ飛ばして結婚でもいいんじゃないかという話も持ち上がっているようで――


 両家がそう言い出すのも無理はない。
 俺と宏樹が婚約したのも二十年前で、本来なら俺が高校を卒業してすぐに結婚するはずだった。

 それを俺の大学進学希望を知った兄が「どうせ瀬尾に嫁ぐのなら、もう少し自由にさせてみればいいじゃないか」と擁護してくれて、この二十七歳の今まで来た。


 瀬尾のおじさんやおばさんとしては、俺と宏樹は長年同居しているし、お互いがお互いの家業で働いているから婚姻という関係にこだわらなくてもと思っていたところ、俺と宏樹が別居してしまい、もしかするとこのまま婚姻関係を結べないのではと危惧しているようだ。


(何でそこまで俺にこだわるんだろう……)


 両親同士が旧友同士ということは知っているものの、そこまで瀬尾が俺にこだわる理由が見えない。それは兄も同じようで「なるべく暴走しないように見張るが、もしダメそうなら迎えに行く」と締めくくられていた。

 それと「三兄弟の中で良いと思う奴がいるのなら、応援する」とも。









ーーー

近況ボードでもお知らせさせていただきましたが「獅子の王子は幼なじみと番いたい」という新しいお話を公開してます(^^)
こちらもお好みに合いましたら読んでいただけると嬉しいです♡
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