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同居
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「というわけで、これが僕の提案だ」
林さんはそう言うと、先ほどからパソコンに打ち込んでいた文章をプリントアウトして優の前に差し出した。
契約書だった。
契約内容は、住み込みのハウスキーパーとして林さん宅で働く、期間は半年間。というものだった。
洗濯や掃除、家事の一切をお願いします。
食事は朝食のみ、夕飯は家で食べると言った時だけ用意してくれれば構わない。食材、消耗品などにかかった費用は払います。給料も支払うので、他のアルバイトはしないという条件。
ただし、月に30万円は僕には厳しいので、給料は10万円それは君が貯金してもいいし欲しいものを買うのに使ってもかまわない君の給料だ。
今まで一人暮らしで優が使っていた金額は10万円ほどだった。
アルバイトで月に入ってくる収入は平均して13万円ほど。その中から税金やその他いろんなものを引かれ家賃光熱費などを支払うと月々自由に使えるお金は、3万円から4万円ほどになる。
その中から食費や交通費を捻出し、いつも暮らしはギリギリだった。
貯金は、できても月に1万円が限界。
洋服や鞄、仕事に必要な靴などは全てリサイクルショップで購入し1000円以上のものは買ったことがなかった。
生活費が全て必要ないこの条件は、優にとっては天国だ。普通ではありえない好条件。
林さんはいったい何を考えているのだろう。
正直、男性の一人暮らしの掃除や洗濯などたかが知れている。一人でも十分やれるだろう。この部屋に初めて入った時も部屋は綺麗で片付いていた。
いわゆる、気の毒なΩの子に救いの手を差し伸べる系の人なのか。パパ活している子がよく使う「支援お願いします」に答えてくれたパパみたいな感覚なのだろうか。
けれど月に30万円は僕には厳しいともいっている。彼はサラリーマンだからそれほど余裕資金があるわけじゃないだろう。それを私に使うメリットってなんだろう。
優は契約書とにらめっこし、じっくり何度も読み返した。
そして頷くと。
「この条件でお受けします。ただし、給料としていただいた金額プラス、今回現金で渡してもらった10万円は、私の借金として、後に余裕ができれば林さんにお返しする。という文言を付け足していただければ問題ないです」
「借用書だね。金銭借用書」
優は「はい」と返事した。
「今回それを書くのであれば、私文書になるわけだけど、お金を貸す相手の信頼性が高ければ十分役に立つので、僕の職業的にこの借用書は非常に有効性がありますよ。とだけ伝えておきましょう」
なんだかよく分からない難しいことを林さんは話しながら、とにかく書くよ、これで契約完了だね笑顔でそう言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日曜日、さすがに家にいるのに自分の分だけ料理を作るわけにはいかないからと林さんにお願いした。
「あの、自分の分も作るので一人増えただけの手間はたいしてかかりません。どうぞできるだけ夕食は一緒に食べてください。質素な物はなるべく出しませんので……」
そう言うと、林さんはそれじゃ一緒に食材を買いに行こうかと買い物に付き合ってくれた。
昨日、お店に辞めることを伝えた。中谷さんにも来週が最後ですとお礼を言った。
その事を林さんに報告する。
ゲイクラブを辞め今後半年間、林さんにお世話になるつもりでいます。と彼に報告した。
「分かりました。じゃあ半年間よろしく」
林さんは笑顔でそう言うと、これからは勉強に専念してねと優しく励ましてくれた。
クラブのオーナーは給料に色を付けて退職金代わりにと渡してくれた。
優はこう見えて人気があった。話しが上手い訳でも、愛想が良い訳でもなく、ただ若く顔が可愛いという理由だけでお客さんからの指名を取っていた。
後はお客さんの話を聞きながら頷いていただけでお金がもらえた。
時々触ってくるお客さんはいたが、上手くあしらう方法を早いうちに身に着けた。今考えると有り難いアルバイトだったのかもしれない。お酒が苦手だったのでそこが辛かったが。
最近のゲイクラブのキャストの情報はネットで拡散される。あの子は誰とでも寝るとか、自分はあの子とやった、とかすぐに噂は広まる。
枕営業などしたことのない優は、清楚で性的交渉を持たない。性的関係に関して身が固いという点である意味高嶺の花のように思われていたようだ。そこも人気の一つだった。
もう多分二度とああいうアルバイトはしないだろうけど、コミュニケーション能力が身についた事に関しては、勉強になったと思う。
マンションに帰ってくると優は早速準備を始めた。
林さんが何か手伝うよと言ってくれたが、いろいろ自分で試してみたいのでと丁重にお断りした。
フードプロセッサーを初めて使ってカボチャのポタージュスープを作った。これは画期的な器具だと思った。これからはコーンポタージュスープだってビシソワーズだって何だって自宅で作れる。
チキンと野菜をグリルで焼いて、作り置きできるひじきの煮物や、切り干し大根の煮物なんかも小鉢に入れて食卓へ並べた。
「こんなに頑張って夕食を作ってくれなくても構わない。普段通りでいいよ」
たくさんの手の込んだ料理を前に、林さんが少し気まずそうに優に言う。
「そんなに頑張ってってわけではなく、使ってみたい道具がたくさんあったのでつい作りすぎてしまいました」
実際、林さんのマンションのキッチは、料理好きにとっては憧れの場所だった。
「僕は外食することも多い、気を使わないで……」
林さんはそう言うと食べた食器を流しに運んだ。急いで、僕がやりますので申し出たが、これぐらいは自分でやらせてと言ってくれた。
「お願いがあります。調理をしている様子を、スマホで撮影して、動画に上げたいのですがいいですか?」
優は林さんに聞いてみた。
「えーとそれは SNS に載せたいってこと?構わないけど身バレしないようにだけは気をつけてください。住所の特定は避けたいからね。個人情報に注意するのであれば僕は構わないよ」
駄目だと言われる覚悟をしていたが、以外にもOKしてくれた。林さんは寛大だ。
自分の料理をするモチベーションを上げるにももってこい。
料理をするのは好きだし、この台所を使ってたくさん料理を作るのが楽しいので、自分の考えていることをそのまま林さんに伝えた。
優はアルバイトを禁止されている今、何とかして家で収益を得たいと考えていた。
多分動画でお金を稼ぐことはそんなに甘くはない。
けれど、以前からチャンスがあればやってみたいと思っていたことの一つだった。
それを聞いて林さんは、なるほど、うまくいけばいいね。笑顔で了解してくれた。
林さんはそう言うと、先ほどからパソコンに打ち込んでいた文章をプリントアウトして優の前に差し出した。
契約書だった。
契約内容は、住み込みのハウスキーパーとして林さん宅で働く、期間は半年間。というものだった。
洗濯や掃除、家事の一切をお願いします。
食事は朝食のみ、夕飯は家で食べると言った時だけ用意してくれれば構わない。食材、消耗品などにかかった費用は払います。給料も支払うので、他のアルバイトはしないという条件。
ただし、月に30万円は僕には厳しいので、給料は10万円それは君が貯金してもいいし欲しいものを買うのに使ってもかまわない君の給料だ。
今まで一人暮らしで優が使っていた金額は10万円ほどだった。
アルバイトで月に入ってくる収入は平均して13万円ほど。その中から税金やその他いろんなものを引かれ家賃光熱費などを支払うと月々自由に使えるお金は、3万円から4万円ほどになる。
その中から食費や交通費を捻出し、いつも暮らしはギリギリだった。
貯金は、できても月に1万円が限界。
洋服や鞄、仕事に必要な靴などは全てリサイクルショップで購入し1000円以上のものは買ったことがなかった。
生活費が全て必要ないこの条件は、優にとっては天国だ。普通ではありえない好条件。
林さんはいったい何を考えているのだろう。
正直、男性の一人暮らしの掃除や洗濯などたかが知れている。一人でも十分やれるだろう。この部屋に初めて入った時も部屋は綺麗で片付いていた。
いわゆる、気の毒なΩの子に救いの手を差し伸べる系の人なのか。パパ活している子がよく使う「支援お願いします」に答えてくれたパパみたいな感覚なのだろうか。
けれど月に30万円は僕には厳しいともいっている。彼はサラリーマンだからそれほど余裕資金があるわけじゃないだろう。それを私に使うメリットってなんだろう。
優は契約書とにらめっこし、じっくり何度も読み返した。
そして頷くと。
「この条件でお受けします。ただし、給料としていただいた金額プラス、今回現金で渡してもらった10万円は、私の借金として、後に余裕ができれば林さんにお返しする。という文言を付け足していただければ問題ないです」
「借用書だね。金銭借用書」
優は「はい」と返事した。
「今回それを書くのであれば、私文書になるわけだけど、お金を貸す相手の信頼性が高ければ十分役に立つので、僕の職業的にこの借用書は非常に有効性がありますよ。とだけ伝えておきましょう」
なんだかよく分からない難しいことを林さんは話しながら、とにかく書くよ、これで契約完了だね笑顔でそう言った。
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日曜日、さすがに家にいるのに自分の分だけ料理を作るわけにはいかないからと林さんにお願いした。
「あの、自分の分も作るので一人増えただけの手間はたいしてかかりません。どうぞできるだけ夕食は一緒に食べてください。質素な物はなるべく出しませんので……」
そう言うと、林さんはそれじゃ一緒に食材を買いに行こうかと買い物に付き合ってくれた。
昨日、お店に辞めることを伝えた。中谷さんにも来週が最後ですとお礼を言った。
その事を林さんに報告する。
ゲイクラブを辞め今後半年間、林さんにお世話になるつもりでいます。と彼に報告した。
「分かりました。じゃあ半年間よろしく」
林さんは笑顔でそう言うと、これからは勉強に専念してねと優しく励ましてくれた。
クラブのオーナーは給料に色を付けて退職金代わりにと渡してくれた。
優はこう見えて人気があった。話しが上手い訳でも、愛想が良い訳でもなく、ただ若く顔が可愛いという理由だけでお客さんからの指名を取っていた。
後はお客さんの話を聞きながら頷いていただけでお金がもらえた。
時々触ってくるお客さんはいたが、上手くあしらう方法を早いうちに身に着けた。今考えると有り難いアルバイトだったのかもしれない。お酒が苦手だったのでそこが辛かったが。
最近のゲイクラブのキャストの情報はネットで拡散される。あの子は誰とでも寝るとか、自分はあの子とやった、とかすぐに噂は広まる。
枕営業などしたことのない優は、清楚で性的交渉を持たない。性的関係に関して身が固いという点である意味高嶺の花のように思われていたようだ。そこも人気の一つだった。
もう多分二度とああいうアルバイトはしないだろうけど、コミュニケーション能力が身についた事に関しては、勉強になったと思う。
マンションに帰ってくると優は早速準備を始めた。
林さんが何か手伝うよと言ってくれたが、いろいろ自分で試してみたいのでと丁重にお断りした。
フードプロセッサーを初めて使ってカボチャのポタージュスープを作った。これは画期的な器具だと思った。これからはコーンポタージュスープだってビシソワーズだって何だって自宅で作れる。
チキンと野菜をグリルで焼いて、作り置きできるひじきの煮物や、切り干し大根の煮物なんかも小鉢に入れて食卓へ並べた。
「こんなに頑張って夕食を作ってくれなくても構わない。普段通りでいいよ」
たくさんの手の込んだ料理を前に、林さんが少し気まずそうに優に言う。
「そんなに頑張ってってわけではなく、使ってみたい道具がたくさんあったのでつい作りすぎてしまいました」
実際、林さんのマンションのキッチは、料理好きにとっては憧れの場所だった。
「僕は外食することも多い、気を使わないで……」
林さんはそう言うと食べた食器を流しに運んだ。急いで、僕がやりますので申し出たが、これぐらいは自分でやらせてと言ってくれた。
「お願いがあります。調理をしている様子を、スマホで撮影して、動画に上げたいのですがいいですか?」
優は林さんに聞いてみた。
「えーとそれは SNS に載せたいってこと?構わないけど身バレしないようにだけは気をつけてください。住所の特定は避けたいからね。個人情報に注意するのであれば僕は構わないよ」
駄目だと言われる覚悟をしていたが、以外にもOKしてくれた。林さんは寛大だ。
自分の料理をするモチベーションを上げるにももってこい。
料理をするのは好きだし、この台所を使ってたくさん料理を作るのが楽しいので、自分の考えていることをそのまま林さんに伝えた。
優はアルバイトを禁止されている今、何とかして家で収益を得たいと考えていた。
多分動画でお金を稼ぐことはそんなに甘くはない。
けれど、以前からチャンスがあればやってみたいと思っていたことの一つだった。
それを聞いて林さんは、なるほど、うまくいけばいいね。笑顔で了解してくれた。
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