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聖女の日々19

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 シャルル王子は私の言葉にショックを受けたような顔をしたが、すぐにきゅっと唇を結んで再び私を強い眼差しで見据えた。

「……父上の、許可が取れれば良いのですね?」

「それならば、私が断る理由はありませんから」

「わかりました。ーー待っていて下さい。必ず父上を説得して、貴女の憂いをはらってみせます」

 ……シャルル王子が何と言っても、ライオネル王はけして譲らない気がするけれど。

「……ありがとうございます」

 とりあえずもう一度お礼を言って、緩んだ手を静かに遠ざけて、再びシャルル王子に背を向けた。

 背中には、焼け付くようなシャルル王子の視線を感じていた。

 ……もし、私がアシュリナだったら。
 向けられるシャルル王子の想いを、こんな風に拒絶しただろうかと、ふと思う。

 彼女は正しく平等な【聖女】であろうとするあまり、特別な存在を作らないようにしていた。
 周りもそんな彼女の気持ちを尊重し、一定の距離を常に保っていた。

 ……でも、アシュリナの記憶を引き継ぐ私には、分かる。彼女は本当は、特別な愛情をずっと欲していた。
 自身で作り上げた壁を壊して、愛情を注いでくれる相手が現れることを、心の奥底では望んでいた。

 もし、あの時代、あの場所にシャルル王子がアシュリナの傍にいて、今と同じ想いを向けてくれたならば。「私」は、彼の想いを受け入れていたのかもしれない。

 でも、「私」は、「ディアナ」だから。
 シャルル王子の好意を嬉しく思いこそしても、その気持ちに応えようとは思わない。



「……父様。お待たせ」

 だって私にはもう、「特別」な家族がいるのだから。

「全然待ってないよ。ディアナ。目的は果たせたかい?」

「うん。ちゃんと、聞きたいことは聞けたよ」

「なら、よかった。……じゃあ、もう帰ろうか。今日は、厨房を貸してもらって、母さんが夕飯を作ってくれるって言っていたぞ。きっと今頃、ディアナが帰ってくるのを、首を長くして待っているはずだ」 

「わあ、嬉しい。……母さんの料理、久しぶりだ」

「私達を森に迎えに来た日以来だものな。城の料理は、豪華で美味しいが、やっぱり私達には母さんの料理が一番だよ。……ディアナの料理も美味いけどな」
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