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連載2

決戦の時17

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 引っ張っても、押しても、指にはまった指輪はピクリとも動かなかった。
 必死に指輪を抜こうとする私を眺めながら、予言者が目を細める。

「安心してください。役割を果たせば、ちゃんと指輪は外れるようになります」

「だから、それじゃあ私だけが!」

「お兄様を置いていくのが嫌なら、絶体絶命の危機に陥らないように、慎重に行動なさってください。貴女は存外無茶をしますから」

 そう言って予言者は、指輪のはまっている方の手を取った。

「聖女様。……私はこの聖堂で、貴女が【災厄の魔女】を打ち倒して帰還するのを、ずっとお待ちしてます。だから、必ず私のもとに帰って来てください」

「………」

「その時は全てをお話しします。私が貴女に隠している、全ての真実を」

 予言者の唇が、そっと指輪の上に落とされる。
 主に忠誠を誓う、騎士のような口づけ。
 初代聖女も、同じように彼に口づけられたのだろうか。
 そう思ったら、何だか言葉が出てこなくて。
 何も言わずに傍らで微笑む初代聖女の像を、しばらく黙って見つめていた。



「ーーくそっ! 抜けない!」 

「兄様、痛い。指、いい加減痛いよぉ……」

「ご、ごめん。ディアナ。大丈夫か?」

 指輪の説明を聞くなり、力づくで指輪を抜こうとしてきた兄様を半泣きで睨みつけると、兄様はばつが悪そうに私の手を離した。

「くそっ、予言者め。よくもこんなものを、ディアナに……」

「危機的な状況で、私一人しか転移されないなんてひどいよね。そんな場面で兄様を残していくなんて、私絶対……」

「……いや、それはどうでもいいが」

「え?」

 兄様は呆れたように頭を掻きながら続ける。

「別にお前が一人で転移されたとしても、俺が【黎明】に主に認められていれば、問題ないだろ。剣が俺を、必ずお前のもとに導いてくれるんだから」

「あ」

 【黎明】の特殊能力のこと、すっかり頭から抜けてしまっていた。
 ……まあ、でも実際その状況で、兄様が【黎明】の主に認められているとは限らないから、完全に安心はできないけど。

「なら、どうして兄様、そんなに怒っていたの? 兄様も私も、ピンチの時に聖堂に逃げることができるなら、この指輪はとてもいい贈り物だと思うけど」

 私の言葉に、兄様は心底不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

「指輪の機能自体はありがたい。ディアナの安全性が確保されたからな。……だが」

「だが?」

「よりにもよって、なんで左手の薬指なんだ! 左手の薬指は婚約指輪をはめる指だろう!」
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