上 下
206 / 224
連載2

感謝と謝罪2

しおりを挟む
「あの子?」

 次の瞬間。真っ白な空間の中から、一人の女の子が現れる。
 月を溶かしたような、白銀の髪。
 夜明け前の空のような、ダークブルーの瞳。
 今にも泣き出しそうな表情で、私を見つめているのは……。

「……アシュリナ!」

 私がその名を呼んだ瞬間、ダークブルーの瞳は決壊して、ぼろぼろと大粒の涙が流れ落ちた。

「ディアナ……ごめんなさい。私、ずっとあなたに謝りたかったの」

「……謝る?」

「ずっとあなたの中で、見ていたわ。私が使命を果たせずに、記憶を引き継がせてしまったせいで、あなたがずっと苦しんできたのを」

 しゃくりあげながら、アシュリナは両手で顔を覆おった。

「ごめんなさい……ごめんなさい、ディアナ……私がこんな駄目な聖女じゃなければ、あなたが苦しむことはなかったのに……あなたが全てを背負うこともなかったのに……ごめんなさい」

 震える声で、謝罪を繰り返すアシュリナの姿に胸が締め付けられた。

 聖女の役目にも、アシュリナの記憶にも苦しめられなかったといえば嘘になる。

 でも……。

「……アシュリナは、駄目な聖女なんかじゃないよ」

 泣くアシュリナに駆け寄り、その体を抱きしめる。

「だってアシュリナは自分を犠牲にしながら、たくさんの人を救ってきたでしょう? 他の人の為にあんなに頑張ってきたでしょう?」

 夢であるはずなのに、アシュリナの温かい体温が伝わって来て、それだけで泣いてしまいそうになった。

 けして叶わない願いだとはわかっていたけど……アシュリナの過去の記憶を見る度に、本当はずっとこの体を抱き締めたいと思っていた。

 私が口にできるめいっぱいの温かい言葉をかけてあげたいと思っていた。

「私はあなたが私の前世であることを、誇りに思う
よ」

 人の為に身を削って尽くしてきたのに、最後は助けた人々に裏切られて短い生涯を終えたアシュリナが、泣きたいくらいに愛おしかったから。

「誰があなたを否定しても、あなた自身が自分を認められなくても、私は、私だけはあなたを肯定するよ。あなたは素晴らしい人だったって、言い続けるよ。だって私はあなた以外では、他の誰よりあなたのことを知っているから」

「…………」

「だから、謝らないで。アシュリナ。泣かないで。……私、あなたの笑顔が見たいの」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:1,874pt お気に入り:2

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:37,624pt お気に入り:2,379

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:217

石女と呼ばれますが......

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,840pt お気に入り:46

ある国の王の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,286pt お気に入り:99

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,487pt お気に入り:6,132

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:134,503pt お気に入り:8,235

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。