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第二章 彼女

サイコな殺人事件

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母親はオレがハナっから弁当を食べないのを分かっていて、敢えて楓とは違う中身の弁当を作っていたのだ。

まんまと母親の罠にかかってしまった。

トイレで吐いたせいか、まだ胃がムカムカする。
もっと前から楓とのLINEやり取りを消去すれば良かった、と後悔した。

「何で勝手にオレのスマホを見るんだよ?」

そうは言ってみたものの、普段スマホなんて滅多に見ないオレが楓とLINEをやるようになってからは、いつでもどこでもスマホを弄っているからバレて当然なんだが、いくら親子とはいえ、勝手にスマホを見ていいってワケじゃない。

「だって気になるじゃない?私の愛する息子がどんな女と連絡を取り合ってるかって」

そう言って、タバコの火を消した。

悪びれる様子も無い。

「どんな相手って…中学の時の同級生で大学が一緒だという事だけだ」


「そう、同級生だった娘なの…で、もうそのお嬢さんとはセックスしたの?」

母親はテーブルに戻り、白ワインを口に含んだ。

「何でいきなりそういう展開になるんだよ?彼女でも何でもないのに」

楓に対してそういう気持ちは全く無い。
むしろプラトニックのままでもいいと思っている。

「でしょうね。何せあなたはまだ恋愛を経験してないだろうから」

テーブルには冷めてしまったグラタンと食べかけのペペロンチーノが残ってる。

母親はラップをかけて冷蔵庫に閉まった。

「ねぇ亮輔。あなたそのお嬢さんの事が好きなの?」

母親はオレの前に立ち、オレの手を掴んで自分の秘部に押し当てた。

スケスケのランジェリーの上からでも濡れていた。楓に対する嫉妬心からくるものなのか、それともムラムラしているからなのか…

「悪いけど、吐いたばっかりで気持ち悪くてそんな気になれないんだよ」

オレは部屋に入った。

まだ胃が逆流しているような感じだ。

ベッドに横になると、スマホの着信ランプが点滅していた。

楓からLINEがきていた。

【今日は楽しかったね!また行こうね(ヨロシク!の絵文字)】

あぁ、何故か楓からのLINEがくると腹の苦しさも幾分か和らぐ。

【こちらこそ、またヨロシク!】

すぐに既読の表示になり、その後は楓とのLINEのやり取りをしばらく続けた。

だが、ドアの向こうで何やら呻くような声が聞こえる。

「何やってんだよ、一体!」

オレはドアを開けると、母親がソファーで横になり、玩具でオナニーをしていた。

玩具を腟内に挿れ、もう片方の手で乳首を刺激し、喘いでいる。

…同じ女なのに、どうしてこうも違うのだろうか。

片や淫乱な性欲の塊の女、そしてもう一人はその正反対で清楚な女。

女って一体どういう生物なのか?とワケが分からなくなってくる。
この母親はともかくとして、楓も結婚して子供が生まれ、子育てに一段落がついた頃、セックスレスになったらああやって自分で自分を慰めるのだろうか…

いや、違う!楓はそんな女じゃない。

この母親が異常なだけだ。

己の性欲の解消をする為に実の息子と肉体関係を持つなんて、そんな非現実的な妄想のような出来事を、母親自ら、現実に行うなんて…

オレはオナニーに耽っている母親を尻目にドアを閉め、再び楓とLINEをした。




翌朝、オレはいつもの時間に家を出て学校へ向かった。

満員電車の中で楓とLINEでやり取りして、一人悦に入っていた。


今一番の楽しみは楓と一緒にいる時だ。
だから、会えない時間はこうやってLINEをしている。


電車を降りる手前で楓から
【またお弁当作ってくるから一緒に食べよう】
と送られてきた。

あぁ…オレは何て幸せなんだろう。

少なくともこの満員電車の中で朝から疲れきって居眠りしているサラリーマン達よりも、オレの方がよっぽど幸せだ、と優越感に浸っていた。

とは言え、講義を受けていると、先程のサラリーマンと一緒で口を半開きにしながら、思わずヨダレを垂らしそうにな程、居眠りをしている。
こんなんで大学卒業出来るんだろうか、ふとそんな事が頭をよぎった。







昼になり、ヒロトと食堂へ行き、いつも座っている窓際の席でラーメンを食べていた時だった。

「昨日のニュース観たかよ?」

オレは普段からあまりテレビを観ていない。


「ニュース?何かあったのか?」

どうせ大した事じゃないだろう、コイツの話は。

「お前観ていないのかよ?」

ヒロトは呆れた顔して大盛りのカレーを食べていた。

「おい、食いながら喋るなよ。
メシ粒が飛ぶだろうが!で、どんなニュースなんだよ?」

食うか、喋るかどっちかにしろよ、ったく。

大した事じゃないのは分かっているが、一応聞いてみた。

「お前たまにはニュースぐらい観ろよなぁ。昨日、都内で殺人事件があったんだけど、殺され方がかなりヤバいんだよ」

ヤバい?

「ヤバいって、どんな殺され方なんだよ?」

殺人事件?それが何だって言うんだ、一体。


ヒロトはカレーを食べる手を止めて話を続けた。

「場所はこの学校からそれほど離れていない一軒家の中で3人の死体が発見されたんだけど、3人とも身体中の関節全部が外され、首には絞められた跡があって、一人は頸椎がへし折られてたって言ってたぞ」

身体中の関節を全て外されたって…

「それ、格闘技やってるヤツじゃなきゃ出来ないだろ?それにしても全ての関節を外すって、かなりイカれた犯行だな」

昨日そんなニュースが大々的に報じられていたのか…

「だろ?ニュースじゃ柔道とか柔術、総合格闘技の経験者じゃないかって、格闘技の専門家がコメントしてたけど、それにしてもどうやって家の中にいた3人全員の関節を外して殺すんだろ」

オレたちは一応格闘技の経験者だ。

だが、ヒロトの言うように、一度に3人の関節を外して絞殺するなんて、いくら格闘技の経験者でも、そんな芸当は出来ないはず。

「だから警察は近辺の格闘技ジムを片っ端から調べてるみたいだぜ」

随分と酷い殺し方をするもんだ。

だが、オレはヒロトからその事を言われても、あぁ、そうなんだ。ぐらいにしか思わなかった。

オレには関係無い、と。
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