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第11章:逆転だぁ!

ドラゴンの悪い癖攻撃!

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 1552年4月下旬
 上野国厩橋城大広間
 長野道安
(松の父。政賢のお爺様)


 まさかこの城にやってくるとは思わなんだ。
 あの阿呆管領が上座に座っている。

 左手大広間の奥には長尾景虎殿の家臣が並び、儂ら上野の者は右庭を背にしておる。全く儂の城が乗っ取られたようじゃ。
 亡き父が草葉の陰で泣いておろう。

「では上様に置かれては、長野一族はお咎めなし所領安堵という仕置でよろしいのですな」

 景虎殿が確認をする。
 既定路線ではあるが、この確認が大事じゃ。

 後に文にて確認を取るが、越後長尾家の裏書のような宣言をすることにより、いくら管領が反故にしようとしても、自分の権力を取り戻してくれた者の約束を反故にはできまい。
 しようものなら今度は越後が怒る。

「仕方あるまい。代わりに安中と小幡だけは絶対に許さぬ。必ずや捕らえるか首を取って参れ」

 既に両名は恭順の旨の使者を遣わして伝えてあるも管領の怒りは収まらぬ。

 側近の温井があろうことか憲当の嫡男、龍若丸を連れて北条へ向かう途中、小幡の者に斬られた。その時に抵抗した龍若丸を誤って殺してしまったらしい。
 それをもみ消そうとしたことが管領に伝わったのだ。

 関東管領は烈火のごとく怒った。
 そのことの結果としてこのような沙汰となった。

「大胡殿。此度は馳走、有難し。城攻めの手腕を期待しておりますぞ」

「軍神との誉れ高きお方にお見せできるようなものはござらぬが、できうる限りの成果を上げまする」

 その後、5月上旬、総勢8000の我が方の布陣を見て、戦わず安中は北条へ、小幡は武田に落ちていった。

 しかし政賢の手の者が先回りし、小幡は惜しくも逃したが安中の爺は執念深く幾重にも敷かれた包囲網を逃れることができず自刃。
 首は管領の元へ届けられ、あ奴を満足させたのである。

 そしてそれを見ていた政賢も密かに嬉しそうにしていたのが気になったが。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1552年5月上旬
 厩橋城
 長野政影
(政賢のボディーガード。決してムフフな関係ではない)


 この部屋には長尾景虎殿と殿、景虎殿の小姓、それに某がいる。

 殿と景虎殿の前には酒と肴が置かれた膳が置かれている。某と景虎殿の小姓がそれぞれの主君へ酌をしている。

 勿論殿へ注ぐ酒は異様に薄められ、水も密かに用意してある。あまり飲まれると真っ赤になって倒れてしまわれるからだ。

「この肉はいつもの干し肉とは違いますな。如何様な作り方をされるかお伺いしたいが」

「それは、ろーすとびーふと名付けました。桜の木の切り屑で燻した牛の肉の赤身でござる。お気に召されたかな」

「なかなか良いものじゃな。この漬けるタレも珍しい。ひしおの類かの」

「そちらは最近やっと作れました。醤油と申します」

「ほほう。あとで製造方法を伺ってもよろしいかな」

「それは蔵田屋に任せております。越後でも作れます故、あとで蔵田屋に作るように申し付けてくだされ」

 蔵田屋で委託生産することにより、ここでも殿の収入となる。
 そこまで諸大名は知らぬであろう。

「いつもの桐の箱。大変面白きものを頂き、感謝いたす。
 あのような物があろうとは思いも寄らなんだ。
 今、京より絵師を呼んでおる所」

「それは良いことにございまする。某にはとんとわからぬ故、今手元にいる絵師を越後に向かわせてもよいのではと思うていたところ。越後がその手の文化の中心となることも一興かと」

 よく分からぬが、殿が京から呼び寄せた、珍奇なる絵を描くことを好む絵師に指示し、色事の絵を描かせていたことは存じている。

 しかし、こうも景虎殿が喜ぶ絵とは一体如何なる物なのか?
 知りたくもあるが、危険な香りしかしない。

 現にこの席に臨むにあたり、殿から尋常ではない表情にて、
「もし景虎ちゃんが少しでも僕に近寄ってきたら、気を発して退散させて~~~
 %:@>$#w~~~
 何かあったら楓ちゃんに申し訳ない~~」
 と、異様な声を上げながら泣きついてこられた。

 某はいつもの父の形見である脇差の代わりに、敵と相対する時に着用する斧のような分厚い脇差を腰に刺している。

 無礼にならなければよいが……

「して今宵の一番の肴、館林の戦の話をお伺いしたい。種子島を大量に使ったというが、如何様にお使いになられたかお伺いしてもよろしいかな?」

「某は大したことはしてござらぬ。家臣に気が利く者がいて、うまく北条方の殿を射撃で崩したまで」

「その種子島を用意し、武将に兵を練らせるのは将としての力量。ご謙遜なされるな。その備えの移動も素早かったと聞いておるが」

「なに、九郎判官くろうほうがん様(源義経)の真似をしたまでにて。向かわせた小さな備えをすべて騎馬にし申した。それに火縄銃を持たせたまでのこと」

 景虎殿がしきりに頷き、次々に質問してくる。

「先だっての安中と小幡の城を攻められれば、実際の威力や有用性を議論できたのじゃが、すぐに城を打ち捨て落ちていきおったので良い機会を逃した。
 種子島の一番の取り柄は甲冑を射抜く力かの?」

「いいえ。その大きな音にございます。
 慣れておらぬ若しくは腹の座っておらぬ兵はそれだけで戦の気合を削がれますし、音に慣れておらぬ馬は驚いて混乱し申す。
 そこへ突っ込めば敵の備えを打ち破れます」

(なるほど。胆が据わっておればよいか。そのようにすれば高価な種子島を買わずに済む。問題は数を揃えられると大きな音がさらに……谷合たにあいでも……)

 色々と考えておられるようだ。

「そろそろ酒が回ってきました。お開きにいたしましょう」

 殿は盃で水を飲みながら酔った振りをする。
 なにやら殿が怯え出した。
 景虎殿の眼が座り出した。
 口元が少し緩んでいる。

 何か危険な兆候を察した。
 某は思いきり気合を入れ、それを景虎殿へぶつける。
 気づいたようだ。
 少し素面に戻ったようで、お開きと相成った。


 殿は
「助かったよ~~。
 危険だ、やっぱりアル中は危険だぁ。
 それにあの趣味何とかしてくれ~~。
 それ使ってご機嫌取ったのは僕だけど……
 僕はノンケだあああああ」

 と、自陣へ帰るときに小声で叫んでおられた。


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