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第13章:氏康君、首もらっちゃうよ♪【北条編佳境】

熱血ミニットマン

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 1553年11月下旬
 上野国箱田城
 吉三
(武蔵から歩き巫女に誑かされ……げふんげふん、移住してきた農民)


 このお城から見る眺めは景色が良い。
 西の櫓に物見として上がることもあるが、大利根の流れの向こうに榛名の山並みがとても綺麗だ。

 このお城は利根川東岸の30間以上ある断崖絶壁の上にある。
 お城の北西5町あたりにこの付近じゃあ珍しい浅瀬があり河の流れが緩い。

 よく俺も用事で向こう岸へその浅瀬をかちで渡る。その徒渡しを守るのがこの箱田城だと教わった。

 俺は、元は武蔵の百姓だ。食えるものが無くなってこちらへ流れてきた。普通じゃあそんな奴は野垂れ死ぬか野盗に身を持ち崩す。
 物乞いで生きられるほど甘くはない。

 そのような坂東に
「開墾したらその田畑をくれ、年貢は3年間なし。開墾する間の半年はお救い米が出る」
 などという噂が流れた。

 馬鹿なガセだ。
 と思ったが、
 それでも藁にも縋る気持ちで大胡に行ってみた。

 そこでその話が本当だと知った。あれよあれよという間に、箱田の南の新田を開拓する一団に入っていた。

 それが5年前。

 今では毎年年貢を納めても4石は自分の物になる。荒越しは牛馬耕、草刈りは草刈り機のおかげで重労働が遥かに楽だから実入りがいい。
 畑の麦を売れば6人は養える収入だ!

 嫁も貰えた。
 嫁が内職をすることとなり、益々家計が楽になった。5年前逃散した者がこんなに裕福な暮らしを手に入れられるとは!

 しかし今年に入り、武蔵を地獄に落とした北条が、ここ大胡を狙って攻めてきた。
 ここをまたあの地獄に変えるつもりか!!??

 俺は後備の訓練を受けた。
 受けた訓練はたった1月だったが、自分の家族、そしてこの豊かになった生活をまた地獄に追い落とすために攻めてくる北条が許せねぇ。

 この箱田城はあまり危険ではないが重要な城だと、信州から移住してきたお侍に聞いた。

 だがいつ何時、襲われるか分からねぇ。
 今日も鉄砲に弾を込める訓練「」を黙々とする。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 上泉城
 庄吉(荻窪の大百姓で村長の長男)


 ここ上泉城は最後の砦だ。

 ここを抜かれれば俺の故郷、
 大胡だ。


 昔からうちの一族が汗水垂らして小さな谷合に溜め池を作って水田を作り、稲を植えてきた。年貢を納めて残った米も、村長という立場上無駄使いせずに、いざという時の種籾として取っておく。

 なるべく村の皆が出挙すいこ(年利200%程度での種籾の貸付)の世話にならぬようにするのも村長の役目だ。
 毎年かつかつで暮らしていた。

 それが10年前、殿さんが変わり俺たちの生活が一変した。1か月もしないうちにその殿さんが、うちの集落に巡回と称してやってきた。
 でっけえお侍に付き添われて、なんだかちっせえ童がひゅるひゅると回りながら遊ぶような態度でこう言った。

「みんな~。最初がつらくて段々良くなるのが本当の正しい道だよん。最初からうまくいく方法はう~そ~!
 だから3年辛抱してね。石の上にも3年! 
 3年後には米も2倍近く採れるから安心してね~」

 この小さいのが大胡のお殿様か。

 ほんとかよ? 
 と思ったが、村長をしている親父の庄兵衛は「庄屋」と名付けられた役目を申し渡され、武士扱いを受けるようになった。

 その後の村の発展は目を見張るものであった。本当に米が今までの倍は採れるようになり田畑も2倍に広がった。
 人も増え、村はこれからも大きくなるだろう。

 そんな村を束ねるのは親父だ。
 大変な役目だと思うのだが。

 武士らしいことを一つもしていないと言って、武士の扱いを固辞しているのだ。
 普段は苗字など恥ずかしくて名乗りたくないと言って名乗らないが、歴とした「荻窪」という苗字が昔からある。

 だから俺が今度の戦で武功を立てる。
 武功を立てられなくてもいい。
 この城をきちんと守り抜くことが自分の誉れだ。

 荻窪の地をずっと耕してきた者として、ここを通す訳には行かぬ。
 後ろには俺らの集落がある。

 これを何としても守る。
 これが次の村長である俺が、最初にやる仕事だ!

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