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第28章:泥沼の忍城

忍城・10

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 吾妻幸信
(なんだ結構、冷静沈着じゃん)


「敵。弓兵近づきます! 
 2町! 矢、来ます!」

 始まったな。
 弓兵を先頭に遠くから矢を射掛ける。
 当たり前だ。

 こちらは軽装だと
 まさか、品川の敗戦の経験を生かさないと思っているのか? 

 大胡も舐められたもんだぜ。殿の「ぴーでーしーえー」とかいう総括。
 あれで常に大胡は進化し続ける。

「第1分隊先頭に矢が集中! 無傷です!」

 当たり前だ。
 佐竹殿の鉄人隊と同じ重装甲を前面だけ臨時につけた。
 それも射撃姿勢で前面になる左脛と右太腿。

 両の二の腕を中心にだ。顔面と関節以外は殆ど覆われている。

「狙撃開始。敵1名死傷。勢いが削がれました。前進を指示した敵物頭の顔面に2射目的中。
 敵弓兵、怯えています!」

 いい調子だ。

 このまま以前ならばこの2人は矢に襲われ重傷だ。
 だが今回は……

 どがが~ん!

 逃げる際に紐を引いたのだ。

 勢いを取り戻した敵兵が追い打ちをかける間合いを狙い、左右に突き刺してあった『大剣』が爆発した。

 周囲に猛煙を吐き出し、それと共に半円形に鉄玉が飛んだ。
 鉄玉の威力は少ない。
 だが「何かが飛んでくる」という恐怖は敵に恐慌状態をもたらした。




 その隙に難なく2名は逃げかえる。

 この『大剣』
 別に剣のような形はしていない。

 だが大剣を振り回したかのように、半円形に敵をなぎ倒す『のを夢に見た』という殿の言葉から始まった兵器開発。

 またもや冬木様が酒場で皆に泣きついていた。
 良い知恵はないかと。

 指向性のある爆発で大量の鉄玉を飛ばす。
 やるとすれば喇叭状に広がった大筒で打ち出すしかない。

 だがそれでは持ち運びができない。
 殿に言わせれば
「これは持ち運びできる地雷~」
 という事らしい。

 皆が困った。

 だがこれがあれば捨て奸が『捨て』ではなくなる。
 敵の意表を突く。
 また煙幕にもなるから撤退は遥かに容易となる。



 そこへ一緒に酒を飲んでいた水梨村の申仁という工夫が好きなやつが
「片方だけ鉄板付けたらどうだ? 反対側は錫箔みちょうみたいにすぐ破れるものつけてさぁ」
 とぐでんぐでんになって適当な事を言った。

 その途端に冬木様は飛び上がり申仁に飛びついて涙と涎をこすりつけた後、よろけながら研究所へ走って行った。

 あぶねえから見に行ったが一人でありあわせの材料で1号試作品を作っちまいやがった。

 翌日、青い顔をしながら足元に中の物をまき散らさないように桶を用意しつつも、殿の前で試作1号の試験を行った。

 2間程の長さの紐を勢いよく引っ張ると火打石が火花を散らし、発火薬と導火線、炸薬に火が付き猛煙が上がった。

 成功した。
 鉄玉は大した威力がなかったが、この猛煙が大事。
 それが今、実戦でモノを言っている。

 捨て奸は捨て石ではなくなったのだ。
 全員無傷。

「よしっ!
 撤収。西へ逃げるぞ!」

 先程索敵に出した兵が見つけた、まだ通れる細い道を通って西へ兵を逃がしつつ、冬木様の青い顔に感謝した。

 その後この方式は、水梨申仁方式(注)と呼ばれることになった。

 なぜかまた殿は腹を抱えて笑い続けていたが、まあいつものことだな。




 注)
 ミスナイ・シャルディン効果
 指向性地雷の原理です。
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