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レオニール様は、静かにスプーンを置きました。
その青い瞳が、まっすぐに私を見つめています。
何か言わなければと、思うのに言葉が出てきません。
彼の視線を受け、私の体は固まってしまいます。
こんなものは食事ではないと、そう怒っているのでしょうか。
公爵家で向けられた冷たい視線が、ふと頭をよぎりました。
私の心臓が、きゅうっと小さく縮こまります。
「…おかわりを」
「え?」
静寂を破ったのは、彼の低く落ち着いた声でした。
今、なんとおっしゃったのでしょうか。
きっと、何かの聞き間違いに違いありません。
私が呆然としていると、彼はもう一度はっきりと告げました。
「おかわりを、くれ」
「! はい、ただいま!」
私は弾かれたように立ち上がりました。
空になった器を手に取って、急いで厨房へと駆けだします。
扉の向こう側では、ゲルトさんや侍女たちが息を殺して様子をうかがっていたようです。
私が顔を出すと、みんなびくっと体を震わせました。
「あ、あの、アニエス様…辺境伯様は…」
年配の侍女が、おそるおそる私に尋ねてきます。
私は満面の笑みで、彼女に答えました。
「ええ、おかわりですって!」
その言葉に、その場にいた全員の顔がぱっと輝きました。
まるで、戦の勝利報告を聞いた兵士たちのようです。
私は急いで鍋の前に戻りました。
温め直したスープを、器になみなみと注いでいきます。
そして、再びレオニール様の待つ食堂へと運びました。
彼は黙ってそれを受け取ると、また静かに食べ始めます。
その姿は、本当に美味しそうに食事をする人の姿でした。
私も自分の席に戻り、ようやく自分の分のスープに口をつけました。
うん、とても美味しいです。
ジャガイモの優しい甘みと、カブのほのかな苦みを感じます。
干し肉から出た塩気と旨味が、全体の味を見事に引き締めています。
私が持ってきたハーブの爽やかな香りが、ふわりと鼻に抜けていきました。
王都で食べる豪華な料理とは、もちろん違います。
でも、これはこれで、最高のごちそうです。
冷えた体に染み渡る、温かくて優しい味でした。
長いテーブルの両端に座り、私とレオニール様は無言でスープを飲み続けます。
気まずい雰囲気ではなく、不思議と心地よい時間でした。
彼が二杯目のスープを飲み干したのを、私は静かに見届けます。
そして、おそるおそる口を開きました。
「あの…お口に合いましたでしょうか」
彼はしばらく黙っていました。
そして、まっすぐに私を見て、こう言います。
「ああ。今まで食べたどんなものより、美味かった」
飾り気のない、実直な言葉でした。
その一言だけで、私の心はじんわりと温かくなります。
この人のために、もっと美味しいものを作りたい。
心の底から、そう思いました。
「お前は、どこで料理を習ったのだ」
「習ったというよりは…趣味で、ずっと厨房にこもっていたのです」
「そうか」
彼はそれ以上、何も聞きませんでした。
ただ、その青い瞳の色が、初めて会った時よりも少しだけ柔らかくなったように見えます。
その夜、私はぐっすりと眠りました。
新しいベッドは少し硬かったですが、少しも気になりません。
翌朝、私は誰よりも早く目を覚ましました。
早速、厨房へと向かいます。
今日の朝食は、何にしようでしょうか。
食材庫を覗くと、昨日と変わらずカブとジャガイモが置いてあります。
うん、予想通りでした。
私は腕まくりをして、調理を開始します。
昨日のポタージュの残りに、細かく刻んだカブの葉を加えました。
そして、ジャガイモは薄く、本当に薄く切っていきます。
「アニエス様、おはようございます。何をなさっておられるのですか?」
昨日見かけた年配の料理長、マルタが不思議そうな顔で入ってきました。
「おはよう、マルタ。朝食の準備よ」
「と、とんでもないことです!そのようなこと、我々がやりますのに…」
「いいのよ。私がやりたいだけだから。それより、少し手伝ってくれる?」
「は、はい!なんなりと!」
私はマルタに、薄切りにしたジャガイモに塩を振って一枚ずつ丁寧に並べるようにお願いしました。
そして、自分は大きなフライパンに油をひきます。
この世界の油は、動物性の脂を溶かしたラードが主流のようです。
これも、いずれは植物性の油に変えていきたいところです。
フライパンが温まったところで、ジャガイモのスライスを並べていきました。
じゅう、と心地よい音が厨房に響き渡ります。
「これは…?」
「ガレット、という料理よ。ジャガイモのお焼きみたいなものね」
こんがりと焼き色がつくまで、じっくりと火を通していきます。
チーズがあれば最高ですが、今は我慢するしかありません。
発酵食品の知識を応用すれば、ヤギの乳からチーズを作ることもできるはずです。
それも、今後の課題リストに入れておきましょう。
ジャガイモの香ばしい匂いが、厨房中に広がっていきました。
出勤してきた他の料理人たちも、なんだなんだと集まってきます。
「なんて良い匂いだ…」
「ジャガイモを、焼いているだけなのか?」
彼らの興味津々な視線を感じながら、私は次々とガレットを焼き上げていきました。
食堂へ行くと、レオニール様はすでに来ていました。
テーブルの上には、温かいスープと山盛りのガレットが並んでいます。
「おはようございます、レオニール様」
「…ああ」
彼は、テーブルの上の料理を不思議そうに見ています。
「これは、ジャガイモか?」
「はい。ガレットです。どうぞ、熱いうちに召し上がってください」
彼は言われた通り、フォークでガレットを一切れ口に運びました。
その瞬間、彼の動きがまた止まります。
外はカリカリで、中はもちもちとしています。
ジャガイモの甘みと、岩塩の塩気が絶妙に合わさっていました。
単純でありながら、素材の味を最大限に引き出した料理です。
彼は、また無言で食べ進めていきます。
私も自分の席に座り、朝食をいただきました。
うん、美味しいです。
この世界のジャガイモは、前世のものよりでんぷん質が多いようです。
もちもちとした食感が、とても強いです。
これは、色々な料理に応用できそうです。
食事を終えると、レオニール様がぽつりと言いました。
「…お前は、本当に何者なのだ」
「アニエス・ド・ヴェルフォールですが、何か」
「そういうことではない。なぜ、こんなものが作れる」
「工夫、次第ですよ。どんな食材にも、美味しい食べ方はたくさんありますから」
私の言葉に、彼は何か考え込んでいるようでした。
私は、この機会を逃す手はないと考えます。
「あの、レオニール様。お願いがあるのですが」
「なんだ」
「この領地のことを、もっと知りたいのです。畑や、岩塩の採掘場、森や川。この目で、見てみたいのです」
辺境伯夫人が、領地の視察をしたい。
突拍子もない願いだということは、自分でも分かっています。
普通の令嬢なら、城の中で刺繍でもしているのが当たり前でしょう。
彼は、呆れるでしょうか。それとも、怒るでしょうか。
レオニール様は、しばらく私の顔をじっと見ていました。
その青い瞳の奥で、どんな感情が渦巻いているのか私には読み取れません。
やがて、彼は短く答えました。
「…分かった。明日、案内しよう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
私は思わず、声を弾ませます。
やった、これで、本格的な現地調査ができます。
『キングダム・オブ・グルメ』でも、マップの探索は基本中の基本でした。
隠された資源や、特殊な地形があります。
それらを見つけることが、攻略の鍵になるのです。
私の反応が意外だったのか、レオニール様は少しだけ目を見開いていました。
そして、ほんの少しだけ口元が緩んだように見えます。
気のせいかもしれませんが、もしそうなら、嬉しいことです。
翌日、私はレオニール様とゲルトさん、そして数人の護衛騎士と共に、城を出ました。
馬に乗るのは初めてでしたが、レオニール様が大人しい馬を用意してくれたおかげで、なんとか乗りこなせます。
まず向かったのは、城の南に広がる畑でした。
どこまでも続く広大な畑ですが、そこに植えられているのは、やはりカブとジャガイモだけです。
土は乾いて色も薄く、生えている作物も、どこか元気がないように見えました。
「これが、この領地の生命線だ」
レオニール様が、馬上から畑を見下ろしながら言いました。
「冬の間、我々はこれを食べて凌ぐ」
「…毎年、同じ作物を?」
「ああ。他に、この寒さで育つものはないからな」
「なるほど…」
ゲームの知識が、私の頭の中で警鐘を鳴らしていました。
これは、連作障害に違いありません。
同じ土地で同じ作物を育て続けると、土の栄養が偏って、病気や害虫が発生しやすくなります。
この畑は、まさにその状態に陥りかけているのです。
「あの、レオニール様」
「なんだ」
「もし、この畑で今よりもたくさんの収穫ができるようになったら…嬉しくありませんか?」
「…どういう意味だ」
彼の声に、警戒の色が混じります。
「例えば、ですが。土にも休息が必要なのです。たまには違う作物を植えたり、栄養を与えたりすることで、土はもっと元気になるはずです」
「違う作物だと?言ったはずだ。ここでは、これ以外育たない」
「いいえ、そんなことはありません。寒さに強い麦や、豆もあります。私が王都から持ってきた種を使えば、きっと…」
「…お前は、農業の知識もあるのか」
レオニール様は、疑うような目で私を見ました。
まずい、少し喋りすぎたかもしれません。
前世の知識があるなんて、言えるはずもないのです。
「い、いえ!本で読んだだけです!美食のためには、食材の研究も欠かせませんので!」
私は慌てて言い訳をしました。
彼は納得したのか、していないのか、ただ「ふん」と鼻を鳴らしただけでした。
ですが、彼は私の提案を、頭ごなしに否定はしません。
それだけでも、大きな進歩です。
次に訪れたのは、岩塩の採掘場でした。
ごつごつとした岩山をくり抜いた、巨大な洞窟。
壁のあちこちが、キラキラと白く輝いています。
あれが、岩塩の結晶なのです。
「すごい…」
私は思わず、感嘆の声を漏らしました。
こんなに豊富な岩塩鉱山があるなんて、これは、とてつもない資源です。
「この塩のおかげで、我々は冬を越せる」
レオニール様が言いました。
塩漬けにして、肉や魚を保存するのでしょう。
でも、それだけではもったいないです。
この良質な塩を使えば、もっと色々なものが作れます。
ハム、ベーコン、ソーセージ。
チーズやバターだって、作れるはずです。
私の頭の中には、次々と新しいレシピが浮かんできました。
「レオニール様、この塩は、外の国にも売っているのですか?」
「いや。輸送にかかる費用が、大きすぎる。それに、これだけの量を管理するのも難しい」
なるほど、物流の問題です。
ゲームで何度も直面した課題で、これも、改善の余地がありそうです。
視察を終え、私たちは城への帰り道につきます。
空を見上げると、太陽がだいぶ傾いていました。
その時、森の中から、白い影がさっと走り抜けるのが見えます。
「あれは…!」
「雪ウサギですな。素早いので、なかなか捕まりませんが」
ゲルトさんが言いました。
雪のように白い毛皮を持つ、美しいウサギです。
寒い土地に住むだけあって、その肉は脂が乗って美味しいと、図鑑には書かれていました。
「なんとかして、捕まえられませんかね」
私がぽつりと呟くと、騎士の一人が笑いました。
「ご冗談を、奥様。あれを捕まえるのは、弓の名手でも至難の業でございます」
「そうでしょうか。ウサギには、ウサギの好きなものがあるはずです。例えば、特定の木の実とか…」
私の言葉に、騎士たちはきょとんとしています。
『キングダム・オブ・グルメ』では、動物を捕まえるのに罠と餌を使うのは基本でした。
雪ウサギは、甘酸っぱい『ルビーベリー』という赤い実が大好物だという設定だったはずです。
そして、そのルビーベリーは、日当たりの良い崖っぷちに生えていることが多いです。
「この近くに、赤い実がなる低い木が生えている場所はありませんか?」
私が尋ねると、レオニール様が眉をひそめました。
「…峠の向こうの崖に、似たような木があったはずだ。なぜ、それを」
「きっと、そこに罠を仕掛ければ捕まえられると思います」
私の自信満々な物言いに、その場にいた全員が、半信半疑といった顔をしていました。
まあ、無理もありません。
私はただの、料理好きの地味な令嬢なのですから。
私には、確かな手応えがありました。
この辺境の土地こそ、私の知識を活かす最高の舞台なのだと。
その青い瞳が、まっすぐに私を見つめています。
何か言わなければと、思うのに言葉が出てきません。
彼の視線を受け、私の体は固まってしまいます。
こんなものは食事ではないと、そう怒っているのでしょうか。
公爵家で向けられた冷たい視線が、ふと頭をよぎりました。
私の心臓が、きゅうっと小さく縮こまります。
「…おかわりを」
「え?」
静寂を破ったのは、彼の低く落ち着いた声でした。
今、なんとおっしゃったのでしょうか。
きっと、何かの聞き間違いに違いありません。
私が呆然としていると、彼はもう一度はっきりと告げました。
「おかわりを、くれ」
「! はい、ただいま!」
私は弾かれたように立ち上がりました。
空になった器を手に取って、急いで厨房へと駆けだします。
扉の向こう側では、ゲルトさんや侍女たちが息を殺して様子をうかがっていたようです。
私が顔を出すと、みんなびくっと体を震わせました。
「あ、あの、アニエス様…辺境伯様は…」
年配の侍女が、おそるおそる私に尋ねてきます。
私は満面の笑みで、彼女に答えました。
「ええ、おかわりですって!」
その言葉に、その場にいた全員の顔がぱっと輝きました。
まるで、戦の勝利報告を聞いた兵士たちのようです。
私は急いで鍋の前に戻りました。
温め直したスープを、器になみなみと注いでいきます。
そして、再びレオニール様の待つ食堂へと運びました。
彼は黙ってそれを受け取ると、また静かに食べ始めます。
その姿は、本当に美味しそうに食事をする人の姿でした。
私も自分の席に戻り、ようやく自分の分のスープに口をつけました。
うん、とても美味しいです。
ジャガイモの優しい甘みと、カブのほのかな苦みを感じます。
干し肉から出た塩気と旨味が、全体の味を見事に引き締めています。
私が持ってきたハーブの爽やかな香りが、ふわりと鼻に抜けていきました。
王都で食べる豪華な料理とは、もちろん違います。
でも、これはこれで、最高のごちそうです。
冷えた体に染み渡る、温かくて優しい味でした。
長いテーブルの両端に座り、私とレオニール様は無言でスープを飲み続けます。
気まずい雰囲気ではなく、不思議と心地よい時間でした。
彼が二杯目のスープを飲み干したのを、私は静かに見届けます。
そして、おそるおそる口を開きました。
「あの…お口に合いましたでしょうか」
彼はしばらく黙っていました。
そして、まっすぐに私を見て、こう言います。
「ああ。今まで食べたどんなものより、美味かった」
飾り気のない、実直な言葉でした。
その一言だけで、私の心はじんわりと温かくなります。
この人のために、もっと美味しいものを作りたい。
心の底から、そう思いました。
「お前は、どこで料理を習ったのだ」
「習ったというよりは…趣味で、ずっと厨房にこもっていたのです」
「そうか」
彼はそれ以上、何も聞きませんでした。
ただ、その青い瞳の色が、初めて会った時よりも少しだけ柔らかくなったように見えます。
その夜、私はぐっすりと眠りました。
新しいベッドは少し硬かったですが、少しも気になりません。
翌朝、私は誰よりも早く目を覚ましました。
早速、厨房へと向かいます。
今日の朝食は、何にしようでしょうか。
食材庫を覗くと、昨日と変わらずカブとジャガイモが置いてあります。
うん、予想通りでした。
私は腕まくりをして、調理を開始します。
昨日のポタージュの残りに、細かく刻んだカブの葉を加えました。
そして、ジャガイモは薄く、本当に薄く切っていきます。
「アニエス様、おはようございます。何をなさっておられるのですか?」
昨日見かけた年配の料理長、マルタが不思議そうな顔で入ってきました。
「おはよう、マルタ。朝食の準備よ」
「と、とんでもないことです!そのようなこと、我々がやりますのに…」
「いいのよ。私がやりたいだけだから。それより、少し手伝ってくれる?」
「は、はい!なんなりと!」
私はマルタに、薄切りにしたジャガイモに塩を振って一枚ずつ丁寧に並べるようにお願いしました。
そして、自分は大きなフライパンに油をひきます。
この世界の油は、動物性の脂を溶かしたラードが主流のようです。
これも、いずれは植物性の油に変えていきたいところです。
フライパンが温まったところで、ジャガイモのスライスを並べていきました。
じゅう、と心地よい音が厨房に響き渡ります。
「これは…?」
「ガレット、という料理よ。ジャガイモのお焼きみたいなものね」
こんがりと焼き色がつくまで、じっくりと火を通していきます。
チーズがあれば最高ですが、今は我慢するしかありません。
発酵食品の知識を応用すれば、ヤギの乳からチーズを作ることもできるはずです。
それも、今後の課題リストに入れておきましょう。
ジャガイモの香ばしい匂いが、厨房中に広がっていきました。
出勤してきた他の料理人たちも、なんだなんだと集まってきます。
「なんて良い匂いだ…」
「ジャガイモを、焼いているだけなのか?」
彼らの興味津々な視線を感じながら、私は次々とガレットを焼き上げていきました。
食堂へ行くと、レオニール様はすでに来ていました。
テーブルの上には、温かいスープと山盛りのガレットが並んでいます。
「おはようございます、レオニール様」
「…ああ」
彼は、テーブルの上の料理を不思議そうに見ています。
「これは、ジャガイモか?」
「はい。ガレットです。どうぞ、熱いうちに召し上がってください」
彼は言われた通り、フォークでガレットを一切れ口に運びました。
その瞬間、彼の動きがまた止まります。
外はカリカリで、中はもちもちとしています。
ジャガイモの甘みと、岩塩の塩気が絶妙に合わさっていました。
単純でありながら、素材の味を最大限に引き出した料理です。
彼は、また無言で食べ進めていきます。
私も自分の席に座り、朝食をいただきました。
うん、美味しいです。
この世界のジャガイモは、前世のものよりでんぷん質が多いようです。
もちもちとした食感が、とても強いです。
これは、色々な料理に応用できそうです。
食事を終えると、レオニール様がぽつりと言いました。
「…お前は、本当に何者なのだ」
「アニエス・ド・ヴェルフォールですが、何か」
「そういうことではない。なぜ、こんなものが作れる」
「工夫、次第ですよ。どんな食材にも、美味しい食べ方はたくさんありますから」
私の言葉に、彼は何か考え込んでいるようでした。
私は、この機会を逃す手はないと考えます。
「あの、レオニール様。お願いがあるのですが」
「なんだ」
「この領地のことを、もっと知りたいのです。畑や、岩塩の採掘場、森や川。この目で、見てみたいのです」
辺境伯夫人が、領地の視察をしたい。
突拍子もない願いだということは、自分でも分かっています。
普通の令嬢なら、城の中で刺繍でもしているのが当たり前でしょう。
彼は、呆れるでしょうか。それとも、怒るでしょうか。
レオニール様は、しばらく私の顔をじっと見ていました。
その青い瞳の奥で、どんな感情が渦巻いているのか私には読み取れません。
やがて、彼は短く答えました。
「…分かった。明日、案内しよう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
私は思わず、声を弾ませます。
やった、これで、本格的な現地調査ができます。
『キングダム・オブ・グルメ』でも、マップの探索は基本中の基本でした。
隠された資源や、特殊な地形があります。
それらを見つけることが、攻略の鍵になるのです。
私の反応が意外だったのか、レオニール様は少しだけ目を見開いていました。
そして、ほんの少しだけ口元が緩んだように見えます。
気のせいかもしれませんが、もしそうなら、嬉しいことです。
翌日、私はレオニール様とゲルトさん、そして数人の護衛騎士と共に、城を出ました。
馬に乗るのは初めてでしたが、レオニール様が大人しい馬を用意してくれたおかげで、なんとか乗りこなせます。
まず向かったのは、城の南に広がる畑でした。
どこまでも続く広大な畑ですが、そこに植えられているのは、やはりカブとジャガイモだけです。
土は乾いて色も薄く、生えている作物も、どこか元気がないように見えました。
「これが、この領地の生命線だ」
レオニール様が、馬上から畑を見下ろしながら言いました。
「冬の間、我々はこれを食べて凌ぐ」
「…毎年、同じ作物を?」
「ああ。他に、この寒さで育つものはないからな」
「なるほど…」
ゲームの知識が、私の頭の中で警鐘を鳴らしていました。
これは、連作障害に違いありません。
同じ土地で同じ作物を育て続けると、土の栄養が偏って、病気や害虫が発生しやすくなります。
この畑は、まさにその状態に陥りかけているのです。
「あの、レオニール様」
「なんだ」
「もし、この畑で今よりもたくさんの収穫ができるようになったら…嬉しくありませんか?」
「…どういう意味だ」
彼の声に、警戒の色が混じります。
「例えば、ですが。土にも休息が必要なのです。たまには違う作物を植えたり、栄養を与えたりすることで、土はもっと元気になるはずです」
「違う作物だと?言ったはずだ。ここでは、これ以外育たない」
「いいえ、そんなことはありません。寒さに強い麦や、豆もあります。私が王都から持ってきた種を使えば、きっと…」
「…お前は、農業の知識もあるのか」
レオニール様は、疑うような目で私を見ました。
まずい、少し喋りすぎたかもしれません。
前世の知識があるなんて、言えるはずもないのです。
「い、いえ!本で読んだだけです!美食のためには、食材の研究も欠かせませんので!」
私は慌てて言い訳をしました。
彼は納得したのか、していないのか、ただ「ふん」と鼻を鳴らしただけでした。
ですが、彼は私の提案を、頭ごなしに否定はしません。
それだけでも、大きな進歩です。
次に訪れたのは、岩塩の採掘場でした。
ごつごつとした岩山をくり抜いた、巨大な洞窟。
壁のあちこちが、キラキラと白く輝いています。
あれが、岩塩の結晶なのです。
「すごい…」
私は思わず、感嘆の声を漏らしました。
こんなに豊富な岩塩鉱山があるなんて、これは、とてつもない資源です。
「この塩のおかげで、我々は冬を越せる」
レオニール様が言いました。
塩漬けにして、肉や魚を保存するのでしょう。
でも、それだけではもったいないです。
この良質な塩を使えば、もっと色々なものが作れます。
ハム、ベーコン、ソーセージ。
チーズやバターだって、作れるはずです。
私の頭の中には、次々と新しいレシピが浮かんできました。
「レオニール様、この塩は、外の国にも売っているのですか?」
「いや。輸送にかかる費用が、大きすぎる。それに、これだけの量を管理するのも難しい」
なるほど、物流の問題です。
ゲームで何度も直面した課題で、これも、改善の余地がありそうです。
視察を終え、私たちは城への帰り道につきます。
空を見上げると、太陽がだいぶ傾いていました。
その時、森の中から、白い影がさっと走り抜けるのが見えます。
「あれは…!」
「雪ウサギですな。素早いので、なかなか捕まりませんが」
ゲルトさんが言いました。
雪のように白い毛皮を持つ、美しいウサギです。
寒い土地に住むだけあって、その肉は脂が乗って美味しいと、図鑑には書かれていました。
「なんとかして、捕まえられませんかね」
私がぽつりと呟くと、騎士の一人が笑いました。
「ご冗談を、奥様。あれを捕まえるのは、弓の名手でも至難の業でございます」
「そうでしょうか。ウサギには、ウサギの好きなものがあるはずです。例えば、特定の木の実とか…」
私の言葉に、騎士たちはきょとんとしています。
『キングダム・オブ・グルメ』では、動物を捕まえるのに罠と餌を使うのは基本でした。
雪ウサギは、甘酸っぱい『ルビーベリー』という赤い実が大好物だという設定だったはずです。
そして、そのルビーベリーは、日当たりの良い崖っぷちに生えていることが多いです。
「この近くに、赤い実がなる低い木が生えている場所はありませんか?」
私が尋ねると、レオニール様が眉をひそめました。
「…峠の向こうの崖に、似たような木があったはずだ。なぜ、それを」
「きっと、そこに罠を仕掛ければ捕まえられると思います」
私の自信満々な物言いに、その場にいた全員が、半信半疑といった顔をしていました。
まあ、無理もありません。
私はただの、料理好きの地味な令嬢なのですから。
私には、確かな手応えがありました。
この辺境の土地こそ、私の知識を活かす最高の舞台なのだと。
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勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
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「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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