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私の言った「誠意」という言葉の本当の意味が分からず、レオニール様たちは、まだ戸惑った表情を浮かべていました。
「アニエス様、誠意を見せるとは、具体的にどうなさるおつもりなのですか。」
ゲルトさんが、待ちきれないというように、私に尋ねてきます。
私は、にっこりと微笑んで、これから実行する計画のあらましを、ゆっくりと話し始めました。
「まず、王都へ送る食料についてです。もちろん、私たちが冬を越すために必死で蓄えたカブやジャガイモを送るわけにはいきません。」
「そんなことをしてしまえば、相手の思う壺ですわ。」
「うむ、それは当然のことだ。絶対に渡すわけにはいきません。」
レオニール様が、力強く頷いて同意してくれました。
「そこで、私たちが代わりに送るのは、これです。」
私は、会議室の隅に置いてあった、小さな樽の蓋をゆっくりと開けました。
その瞬間、むわりとした、鼻をつく酸っぱい匂いが部屋中に広がります。
なんとも言えない、ひどい匂いでした。
樽の中に入っていたのは、黒く変色してしまった、カブの漬物のようなものだったのです。
「うっ、こ、これは。なんというひどい匂いですかな!」
ボードワンさんが、思わず自分の鼻を強くつまみました。
ゲルトさんも、顔を思いきりしかめています。
「これは、保存食の試作品を作っている時に、偶然できてしまった失敗作なのです。」
「栄養はありますが、とにかく苦くて、そして酸っぱくて、とても食べられたものではありません。」
これは、本当に、たまたま出来てしまったものでした。
塩の分量を大きく間違えてしまい、発酵が進みすぎてしまったのです。
「これを、『辺境の厳しい冬を乗り越えるための、伝統的で貴重な保存食』という名目で、見栄えのする立派な樽にぎっしりと詰めて、王都へ送るのです。」
私のとんでもない提案に、三人は、ぽかんと口を開けたまま固まってしまいました。
やがて、一番最初に、我に返ったのはレオニール様でした。
彼は、最初こそひどく驚いていましたが、すぐに私の考えを理解したようです。
その口元に、かすかな笑みが浮かぶのが見えました。
「なるほどな、確かに要求には応えた、という形にはなるわけですか。」
「そして、これを食べた王太子やお前の姉は、とんでもなくひどい目に遭う、と。なかなか面白い嫌がらせですね。」
「ええ、ほんのささやかな、お返しですわ。」
ゲルトさんも、ようやく状況を理解できたようでした。
彼は、まるでいたずらが成功した子供のように、にやりと意地悪く笑います。
「ははは、これは面白いことですな。王都のひ弱な貴族たちが、これを食べてどんな顔をするのか、ぜひ見てみたいものです。」
しかし、レオニール様は、すぐに真剣な顔つきに戻りました。
「だが、アニエス。これだけでは、ただの嫌がらせの仕返しにしかなりません。」
「その場しのぎにはなっても、根本的な解決にはならないでしょう。相手は、また何か、別の文句をつけてくるに違いありません。」
彼の指摘は、その通りでした。
さすがは、この辺境の地をずっと治めてきた領主様です。
私は、その言葉を待っていましたとばかりに、こくりと頷きました。
「おっしゃる通りです、レオニール様。先ほどの提案は、ほんの時間稼ぎです。」
「そして、相手に少しだけ仕返しをするための、前菜に過ぎません。私の本当の狙いは、また別のところにあります。」
「ほう、申してみなさい。聞かせてもらいましょうか。」
「私たちは、この王都の食糧不足という、またとない機会を逆に利用するのです。」
「この危機を利用して、私たちヴァインベルクの新しい産業を、王都に、そして、この国全体に大々的に売り込むチャンスにしますわ。」
私の言葉に、今度こそ、レオニール様も、ゲルトさんも、ボードワンさんも目をまん丸くしました。
悪いことを、逆に良いことに変えるのです。
守ってばかりいるのではなく、こちらから攻めに転じます。
「王都へは、先ほどの『誠意の保存食』と一緒に、レオニール様のお名前で特別な使いを派遣します。」
「そして、王太子殿下に、このように申し上げるのです。」
私は、まるで役者のように、芝居がかった口調で続けました。
「『辺境の食料事情も、実は大変厳しくなっております。これ以上の食料をささげることは、誠に心苦しいのですが非常に困難でございます。』」
「『しかし、この度、我が領地で、奇跡的に発見された、全く新しい食材がございます。その名は、霜降りトロール。』」
「『この最高の美味を、王太子殿下と、王家の皆様にこそ、ぜひ一度お試しいただきたく、ささげます』と。」
「なんと、それは素晴らしいですな。」
ボードワンさんが、感心したように声を漏らしました。
「食料を要求してきた相手に、逆に、こちらの商品を売り込むというのですな。しかも、無料で味を試させることで、その価値を認めさせようというお考えですか。」
「ええ、あの霜降りトロールの肉の味を知ってしまえば、王都の食通を気取った方々も、きっと腰を抜かすに違いありません。」
「一度でも、あの味を知ってしまえば、もう後戻りはできませんわ。」
ゲルトさんも、興奮した様子で身を乗り出してきました。
「確かに、その通りです。あの肉の味なら、どんな相手をも黙らせる力があります。」
「素晴らしい作戦ですぞ、アニエス様。」
レオニール様は、黙って腕を組み、私の話をずっと聞いていました。
その青い瞳が、知的な光を宿して、きらりと輝いています。
「面白い、実に、面白い作戦だ。だが、相手が、我々の申し出に素直に応じてくれるでしょうか。」
「王太子のプライドが、それを許すとは思えません。」
「はい、そこで、もう一つ、仕掛けを用意いたします。」
私は、人差し指を立ててみせました。
「王都には、王族以外にも、大きな力を持つ大商人や、社交界で有名な食通の貴族たちがいるはずです。」
「公式にお届けする品とは別に、彼らにだけ、『特別なルート』を使って、最高級の霜降りトロールのステーキ肉を、こっそりと届けるのです。」
「口コミを狙う、ということですか。」
「その通りです、王宮の中からではなく、外から、うわさを広めるのです。」
「『ヴァインベルクに、とてつもなく美味い肉があるらしい』という、うわさをです。王太子殿下が、いくら意地を張ろうとしても、世間の声の力には逆らえませんわ。」
私の細かい計画に、レオニール様も、感心したようにため息を漏らしました。
「お前は、本当に、恐ろしい女ですね。」
それは、私にとって最高の褒め言葉でした。
「同時に、私たちの苦しい状況を、公式に訴えるための資料も準備します。」
「ボードワンさんにお願いしたいのですが、先日まとめた会計帳簿を元に、報告書を作成していただけますか。」
「我が領の状況を、数字で示す報告書です。『今回の食料提供によって、財政と蓄えが、どれほど危機的になるか』という内容にしてください。」
「同情を誘えるように、少しだけ、大げさに書いてくださると、なお助かります。」
「お任せください、アニエス先生。あなたの編み出した新しい帳簿のつけ方で、誰が見ても、説得力のある資料をすぐさま作成してご覧にいれますとも。」
ボードワンさんは、すっかりやる気に満ちあふれています。
こうして、私たちの反撃計画の、それぞれの役割分担が決まりました。
レオニール様が、王都へ派遣する使いの人選と、護衛の騎士たちの準備を担当します。
ゲルトさんが、騎士団に協力を仰ぎ、霜降りトロールの肉を、安全に、最高の状態で王都へ届けるための輸送ルートの確保をします。
ボードワンさんが、公式報告書の作成をします。
そして、私が、王都へ送る二種類の品物、つまり、最低の『誠意の保存食』と、最高の『霜降りトロール肉』の準備を、それぞれ担当することになりました。
会議は、始まった時の重苦しい雰囲気とはまったく違い、皆の熱気と希望に満ちていました。
会議が終わると、私たちはすぐさまそれぞれの準備に取り掛かりました。
私は、マルタが待っている厨房へと急いで向かいます。
「さあ、マルタ。腕によりをかけて、王都の方々を、心から『おもてなし』する準備を始めましょうか。」
「はい、アニエス様。どのようなお料理にいたしましょうか。」
私とマルタは、顔を見合わせてにっこりといたずらっぽく笑い合いました。
「アニエス様、誠意を見せるとは、具体的にどうなさるおつもりなのですか。」
ゲルトさんが、待ちきれないというように、私に尋ねてきます。
私は、にっこりと微笑んで、これから実行する計画のあらましを、ゆっくりと話し始めました。
「まず、王都へ送る食料についてです。もちろん、私たちが冬を越すために必死で蓄えたカブやジャガイモを送るわけにはいきません。」
「そんなことをしてしまえば、相手の思う壺ですわ。」
「うむ、それは当然のことだ。絶対に渡すわけにはいきません。」
レオニール様が、力強く頷いて同意してくれました。
「そこで、私たちが代わりに送るのは、これです。」
私は、会議室の隅に置いてあった、小さな樽の蓋をゆっくりと開けました。
その瞬間、むわりとした、鼻をつく酸っぱい匂いが部屋中に広がります。
なんとも言えない、ひどい匂いでした。
樽の中に入っていたのは、黒く変色してしまった、カブの漬物のようなものだったのです。
「うっ、こ、これは。なんというひどい匂いですかな!」
ボードワンさんが、思わず自分の鼻を強くつまみました。
ゲルトさんも、顔を思いきりしかめています。
「これは、保存食の試作品を作っている時に、偶然できてしまった失敗作なのです。」
「栄養はありますが、とにかく苦くて、そして酸っぱくて、とても食べられたものではありません。」
これは、本当に、たまたま出来てしまったものでした。
塩の分量を大きく間違えてしまい、発酵が進みすぎてしまったのです。
「これを、『辺境の厳しい冬を乗り越えるための、伝統的で貴重な保存食』という名目で、見栄えのする立派な樽にぎっしりと詰めて、王都へ送るのです。」
私のとんでもない提案に、三人は、ぽかんと口を開けたまま固まってしまいました。
やがて、一番最初に、我に返ったのはレオニール様でした。
彼は、最初こそひどく驚いていましたが、すぐに私の考えを理解したようです。
その口元に、かすかな笑みが浮かぶのが見えました。
「なるほどな、確かに要求には応えた、という形にはなるわけですか。」
「そして、これを食べた王太子やお前の姉は、とんでもなくひどい目に遭う、と。なかなか面白い嫌がらせですね。」
「ええ、ほんのささやかな、お返しですわ。」
ゲルトさんも、ようやく状況を理解できたようでした。
彼は、まるでいたずらが成功した子供のように、にやりと意地悪く笑います。
「ははは、これは面白いことですな。王都のひ弱な貴族たちが、これを食べてどんな顔をするのか、ぜひ見てみたいものです。」
しかし、レオニール様は、すぐに真剣な顔つきに戻りました。
「だが、アニエス。これだけでは、ただの嫌がらせの仕返しにしかなりません。」
「その場しのぎにはなっても、根本的な解決にはならないでしょう。相手は、また何か、別の文句をつけてくるに違いありません。」
彼の指摘は、その通りでした。
さすがは、この辺境の地をずっと治めてきた領主様です。
私は、その言葉を待っていましたとばかりに、こくりと頷きました。
「おっしゃる通りです、レオニール様。先ほどの提案は、ほんの時間稼ぎです。」
「そして、相手に少しだけ仕返しをするための、前菜に過ぎません。私の本当の狙いは、また別のところにあります。」
「ほう、申してみなさい。聞かせてもらいましょうか。」
「私たちは、この王都の食糧不足という、またとない機会を逆に利用するのです。」
「この危機を利用して、私たちヴァインベルクの新しい産業を、王都に、そして、この国全体に大々的に売り込むチャンスにしますわ。」
私の言葉に、今度こそ、レオニール様も、ゲルトさんも、ボードワンさんも目をまん丸くしました。
悪いことを、逆に良いことに変えるのです。
守ってばかりいるのではなく、こちらから攻めに転じます。
「王都へは、先ほどの『誠意の保存食』と一緒に、レオニール様のお名前で特別な使いを派遣します。」
「そして、王太子殿下に、このように申し上げるのです。」
私は、まるで役者のように、芝居がかった口調で続けました。
「『辺境の食料事情も、実は大変厳しくなっております。これ以上の食料をささげることは、誠に心苦しいのですが非常に困難でございます。』」
「『しかし、この度、我が領地で、奇跡的に発見された、全く新しい食材がございます。その名は、霜降りトロール。』」
「『この最高の美味を、王太子殿下と、王家の皆様にこそ、ぜひ一度お試しいただきたく、ささげます』と。」
「なんと、それは素晴らしいですな。」
ボードワンさんが、感心したように声を漏らしました。
「食料を要求してきた相手に、逆に、こちらの商品を売り込むというのですな。しかも、無料で味を試させることで、その価値を認めさせようというお考えですか。」
「ええ、あの霜降りトロールの肉の味を知ってしまえば、王都の食通を気取った方々も、きっと腰を抜かすに違いありません。」
「一度でも、あの味を知ってしまえば、もう後戻りはできませんわ。」
ゲルトさんも、興奮した様子で身を乗り出してきました。
「確かに、その通りです。あの肉の味なら、どんな相手をも黙らせる力があります。」
「素晴らしい作戦ですぞ、アニエス様。」
レオニール様は、黙って腕を組み、私の話をずっと聞いていました。
その青い瞳が、知的な光を宿して、きらりと輝いています。
「面白い、実に、面白い作戦だ。だが、相手が、我々の申し出に素直に応じてくれるでしょうか。」
「王太子のプライドが、それを許すとは思えません。」
「はい、そこで、もう一つ、仕掛けを用意いたします。」
私は、人差し指を立ててみせました。
「王都には、王族以外にも、大きな力を持つ大商人や、社交界で有名な食通の貴族たちがいるはずです。」
「公式にお届けする品とは別に、彼らにだけ、『特別なルート』を使って、最高級の霜降りトロールのステーキ肉を、こっそりと届けるのです。」
「口コミを狙う、ということですか。」
「その通りです、王宮の中からではなく、外から、うわさを広めるのです。」
「『ヴァインベルクに、とてつもなく美味い肉があるらしい』という、うわさをです。王太子殿下が、いくら意地を張ろうとしても、世間の声の力には逆らえませんわ。」
私の細かい計画に、レオニール様も、感心したようにため息を漏らしました。
「お前は、本当に、恐ろしい女ですね。」
それは、私にとって最高の褒め言葉でした。
「同時に、私たちの苦しい状況を、公式に訴えるための資料も準備します。」
「ボードワンさんにお願いしたいのですが、先日まとめた会計帳簿を元に、報告書を作成していただけますか。」
「我が領の状況を、数字で示す報告書です。『今回の食料提供によって、財政と蓄えが、どれほど危機的になるか』という内容にしてください。」
「同情を誘えるように、少しだけ、大げさに書いてくださると、なお助かります。」
「お任せください、アニエス先生。あなたの編み出した新しい帳簿のつけ方で、誰が見ても、説得力のある資料をすぐさま作成してご覧にいれますとも。」
ボードワンさんは、すっかりやる気に満ちあふれています。
こうして、私たちの反撃計画の、それぞれの役割分担が決まりました。
レオニール様が、王都へ派遣する使いの人選と、護衛の騎士たちの準備を担当します。
ゲルトさんが、騎士団に協力を仰ぎ、霜降りトロールの肉を、安全に、最高の状態で王都へ届けるための輸送ルートの確保をします。
ボードワンさんが、公式報告書の作成をします。
そして、私が、王都へ送る二種類の品物、つまり、最低の『誠意の保存食』と、最高の『霜降りトロール肉』の準備を、それぞれ担当することになりました。
会議は、始まった時の重苦しい雰囲気とはまったく違い、皆の熱気と希望に満ちていました。
会議が終わると、私たちはすぐさまそれぞれの準備に取り掛かりました。
私は、マルタが待っている厨房へと急いで向かいます。
「さあ、マルタ。腕によりをかけて、王都の方々を、心から『おもてなし』する準備を始めましょうか。」
「はい、アニエス様。どのようなお料理にいたしましょうか。」
私とマルタは、顔を見合わせてにっこりといたずらっぽく笑い合いました。
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ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
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