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翌朝の空気は、冬の訪れを告げていました。
まるで刃物のように、肌を刺す冷たさです。
辺りは、厳かな雰囲気に満ちていました。
城の中庭には、まだ夜の闇が残る早朝にもかかわらず多くの人々が集まっています。
王都へと旅立つ、特使一行の門出を見送るためです。
私も、夫であるレオニール様と並んでその中心に立っていました。
目の前には、副団長のバルトルト殿が愛馬の上から深々と体を折り曲げています。
彼の後ろには、この領地の誇る護衛騎士たちが一糸乱れぬ隊列を組んでいました。
彼らは、出発の時を待っています。
「では、辺境伯様、アニエス様。辺境の民の思いを胸に、行って参ります。」
「うむ、頼んだぞバルトルト。お前の双肩に、このヴァインベルクの未来がかかっている。道中、くれぐれも油断するな。」
レオニール様が、力強く激励の言葉を送りました。
その言葉には、最大限の信頼が込められています。
次に、私がそっと一歩前に進み出ました。
「バルトルト殿、王都に着きましたらこれをしかるべき方々へお願いいたしますわ。」
私は、彼に二つの分厚い包みを渡します。
一つは、霜降りトロールの最高級ヒレ肉が何重にも麻布で包まれたものでした。
もう一つは、王都の有力商人や大貴族の名前が書かれた秘密のリストです。
彼らは、特に影響力が強く食にうるさいことで有名でした。
「承知いたしました、アニエス様のその深いお考え。このバルトルトが、命に懸けて必ずや成し遂げてご覧にいれます。」
バルトルト殿は、その実直な眼差しで私の目をまっすぐに見つめて力強く頷きました。
彼は、私の計画の全てを完全に理解してくれています。
最後に私は、一人の若い料理人に声をかけました。
彼は、特別仕様の荷馬車の御者の隣に緊張した面持ちで控えています。
今回の重要な任務のために、私が特別に指名した厨房で一番腕の良い料理人です。
「ジャン、あなたには今回の計画で最も大事な役目があります。王都の、何も知らない方々にこのお肉の本当の美味しさを伝えてきてちょうだい。」
私は彼に、昨夜心を込めて用意した羊皮紙をそっと手渡します。
それには、最高のステーキの調理法が詳細に記されていました。
「は、はい、アニエス様。このジャン・ピエールが、我が料理人人生の全てを懸けて最高のステーキを焼き上げてみせます。」
彼は、極度の緊張で顔を真っ赤にしながらもはっきりとそう答えました。
その声は、少し震えています。
これで、私が直接できることは全て終わりました。
全ての準備は、万端です。
「出発。」
レオニール様の、低くよく通る号令が中庭に厳かに響き渡ります。
バルトルト殿は、馬上から私たちに最後の一礼をしました。
そして鮮やかな手綱さばきで馬首を返し、ゆっくりと城門へと向かいます。
精鋭の護衛騎士たちと、二台の荷馬車がそれに静かに続きました。
二台の馬車は、見た目も役割も全く異なります。
一台は、立派な彫刻の施された樽がこれみよがしに積まれた華やかな馬車でした。
もう一台は、大量の氷雪が詰め込まれた質素で頑丈な作りの馬車です。
私たちは、その一行の姿が丘の向こうに見えなくなるまで見送っていました。
やがて彼らは、朝靄の中へと小さくなっていきます。
「さて、と。」
一行の姿が完全に見えなくなったのを確認すると、私はくるりと踵を返しました。
私の心は、もう次へと向かっています。
「私たちも、次の仕事を始めましょうか。」
私のその言葉に、隣にいたレオニール様は少し意外そうな顔をしました。
「まだ、何かすぐにやることがあるのか。少しは、休んだらどうだ。」
「もちろんですわ、王都での戦いはバルトルト殿たちに全て任せます。私たちはこのヴァインベルクを、もっと豊かにするための戦いを一日たりとも休むわけにはいきません。」
私は、前を向いたままにっこりと微笑みました。
すると彼が、不意に私の冷たくなった手を取ります。
そしてその、武人らしい大きくて分厚い手で私の手を優しく力強く包み込みました。
「ああ、そうだな。お前の言う通りだ。行こう、アニエス。俺も、お前と共に戦おう。」
彼の、突然のその行動に私の心臓がまた大きく跳ねました。
でもその、無骨な手の温もりがとても心地よく頼もしく感じられます。
特使の一行が出発してから、城はいつもの日常を取り戻しました。
しかし、そこに流れる空気は以前とは明らかに違っています。
使用人たちも騎士たちも、誰もがそわそわとしていました。
王都へ届けられた、私たちの二つの爆弾が今頃どうなっているのかと。
期待と、ほんの少しの不安を胸に秘めていたのです。
でも、私は少しも心配していませんでした。
あの霜降りトロールの肉の味は、本物です。
本物の持つ力は、いつだってあらゆる小細工や悪意を乗り越えるものなのですから。
私は、気持ちをすっぱりと切り替えました。
そして、かねてから計画していた新しいプロジェクトに取り掛かることにします。
それは、甘いものに乏しいこのヴァインベルク辺境領に新しい甘みという文化をもたらすことでした。
この世界には、まだサトウキビから作られる砂糖というものがほとんど普及していません。
貴族たちが口にする甘いものといえば、南の国から輸入される高価な果物でした。
あるいは、それ以上に貴重な蜂蜜くらいしかありません。
しかし、この寒冷なヴァインベルクでは果物はほとんど採れませんでした。
崖に自生する、ルビーベリーが唯一の例外です。
しかしあれは、甘みよりも酸味が強すぎました。
そこで私が目をつけたのは、この土地に有り余るほど存在するありふれた食材でした。
「ジャガイモ、でございますか。アニエス様、まさかこれでお菓子をお作りになるのですか。」
マルタが、心底不思議そうに首を傾げました。
厨房の、大きな作業台の上には先日収穫されたばかりの山のようなジャガイモが積まれています。
「ええ、このジャガイモからでんぷんという魔法の粉を取り出すの。そして、甘くて美味しいお菓子を作るのよ。」
「でんぷん、それは一体どのような粉なのでしょうか。」
マルタだけでなく、周りにいた若い料理人たちもきょとんとしています。
私は、言葉で説明するよりも実際に彼らに実演して見せることにしました。
まず、山積みのジャガイモを皆で綺麗に洗います。
そして、一つ一つ丁寧に皮を剥いていきました。
それを、ひたすらおろし金で細かくすりおろしていきます。
地味で、大変に根気のいる作業です。
でも私は、こういう黙々と続ける作業が大好きでした。
すりおろして、どろどろになったジャガイモを大きな麻布の袋に目一杯詰め込みます。
そしてその袋を、清浄な水で満たした巨大な桶の中で何度も力強く揉んでいきました。
すると、真っ白く濁った水が袋の布目からじわじわと染み出してきます。
「まあ、水が牛乳のように白くなっていきますわ。」
料理人たちから、素朴な驚きの声が上がりました。
この、白く濁った水こそがでんぷんを豊富に含んだ魔法の水なのです。
この水を、いくつもの大きな桶に溜めて一日二日と置いておきました。
すると、桶の底に雪のように真っ白な粉がゆっくりと沈殿します。
これこそが、ジャガイモのでんぷんすなわち片栗粉の原石でした。
上澄みの、透明な水をそっと慎重に捨てます。
底に残った、湿ったでんぷんを板の上に薄く広げました。
そしてそれを、日当たりの良い窓辺で丁寧に時間をかけて乾かしていきます。
数日後、私たちの手元には大量の上質な片栗粉が出来上がりました。
まるで高級な化粧品のように、白くきめ細かい粉です。
「すごい、あの泥のついたジャガイモからこんなに美しい粉が生まれるなんて。」
マルタは、その粉を指先にとって感触を確かめながら心底感動しているようでした。
「さて、マルタ。ここからが、本番よ。」
私は、この魔法の粉を使って早速新しいお菓子を作ることにしました。
深めの鍋に、水と出来立ての片栗粉を入れます。
そこに、先日収穫したばかりのルビーベリーをたっぷりと加えていきました。
そして暖炉の、弱火で焦げ付かないようにゆっくりとかき混ぜながら練り上げていきます。
最初は、白く濁っていた液体が熱が加わるにつれて次第に透明感を帯びてきました。
ルビーベリーの、鮮やかな色がじわじわと溶け出します。
全体が、まるで溶けたルビーのような美しい深紅色に染まっていきました。
とろりとした、強い粘り気が出てきたら火から下ろします。
そしてそれを、濡らした平たい木のバットに素早く流し込み冷たい地下室で冷やし固めました。
しばらくして、完全に固まったものを菱形に切り分けます。
それは、一口サイズでした。
仕上げに、その表面に少しだけ乾かした片栗粉を優しくまぶします。
まるで、化粧をするようです。
「さあ、できたわ。ヴァインベルク風の、『わらび餅』よ。」
もちろん、本物のわらび粉は使っていません。
ジャガイモのでんぷんで作った、もどき料理です。
でもその見た目は、ガラス細工のようにぷるぷると瑞々しく輝いていてとても美味しそうでした。
私は、まず自分で一つまんで口に運びます。
ひんやりとして、もちもちとした今までにない独特の食感でした。
ルビーベリーの、爽やかな甘酸っぱい風味が口の中にいっぱいに広がります。
うん、これは想像以上の傑作です。
「さあ、皆も遠慮しないで食べてみて。」
私がにっこりと勧めると、料理人たちはそれを一つずつ口に運びました。
彼らは、おそるおそるです。
次の瞬間、厨房のあちこちから喜びの歓声が上がりました。
それは、今まで聞いたこともないような声です。
「おいしい、なんですのこのぷるぷるもちもちとした不思議な食感は。」
「甘くて、酸っぱくてまるで夢の国のお菓子のようですわ。」
「これなら、城の子供たちもきっと大喜びしますわね。」
皆、この土地で初めて生まれた新しいお菓子の誕生に心から大喜びでした。
そこへ、ひょっこりと厨房の入り口から子供たちが何人か顔を覗かせます。
彼らは、城で働く使用人たちの子供でした。
厨房から、ふんわりと漂ってくる甘い香りに誘われてきたのでしょう。
「アニエス様。それ、なあに。とっても、いい匂いがする。」
一番小さな、そばかすの可愛い女の子が私のエプロンの裾をくいっと引っ張りました。
それは、遠慮がちでした。
私は、優しく微笑みかけるとそっとしゃがみこんで彼女の幼い目線に合わせます。
そして、出来立てのわらび餅を一つ彼女の小さな口にそっと入れてあげました。
女の子の栗色の目は、きらきらと輝きます。
まるで夜空の星のように、美しく見えました。
その瞳は、驚きで大きく見開かれます。
まるで刃物のように、肌を刺す冷たさです。
辺りは、厳かな雰囲気に満ちていました。
城の中庭には、まだ夜の闇が残る早朝にもかかわらず多くの人々が集まっています。
王都へと旅立つ、特使一行の門出を見送るためです。
私も、夫であるレオニール様と並んでその中心に立っていました。
目の前には、副団長のバルトルト殿が愛馬の上から深々と体を折り曲げています。
彼の後ろには、この領地の誇る護衛騎士たちが一糸乱れぬ隊列を組んでいました。
彼らは、出発の時を待っています。
「では、辺境伯様、アニエス様。辺境の民の思いを胸に、行って参ります。」
「うむ、頼んだぞバルトルト。お前の双肩に、このヴァインベルクの未来がかかっている。道中、くれぐれも油断するな。」
レオニール様が、力強く激励の言葉を送りました。
その言葉には、最大限の信頼が込められています。
次に、私がそっと一歩前に進み出ました。
「バルトルト殿、王都に着きましたらこれをしかるべき方々へお願いいたしますわ。」
私は、彼に二つの分厚い包みを渡します。
一つは、霜降りトロールの最高級ヒレ肉が何重にも麻布で包まれたものでした。
もう一つは、王都の有力商人や大貴族の名前が書かれた秘密のリストです。
彼らは、特に影響力が強く食にうるさいことで有名でした。
「承知いたしました、アニエス様のその深いお考え。このバルトルトが、命に懸けて必ずや成し遂げてご覧にいれます。」
バルトルト殿は、その実直な眼差しで私の目をまっすぐに見つめて力強く頷きました。
彼は、私の計画の全てを完全に理解してくれています。
最後に私は、一人の若い料理人に声をかけました。
彼は、特別仕様の荷馬車の御者の隣に緊張した面持ちで控えています。
今回の重要な任務のために、私が特別に指名した厨房で一番腕の良い料理人です。
「ジャン、あなたには今回の計画で最も大事な役目があります。王都の、何も知らない方々にこのお肉の本当の美味しさを伝えてきてちょうだい。」
私は彼に、昨夜心を込めて用意した羊皮紙をそっと手渡します。
それには、最高のステーキの調理法が詳細に記されていました。
「は、はい、アニエス様。このジャン・ピエールが、我が料理人人生の全てを懸けて最高のステーキを焼き上げてみせます。」
彼は、極度の緊張で顔を真っ赤にしながらもはっきりとそう答えました。
その声は、少し震えています。
これで、私が直接できることは全て終わりました。
全ての準備は、万端です。
「出発。」
レオニール様の、低くよく通る号令が中庭に厳かに響き渡ります。
バルトルト殿は、馬上から私たちに最後の一礼をしました。
そして鮮やかな手綱さばきで馬首を返し、ゆっくりと城門へと向かいます。
精鋭の護衛騎士たちと、二台の荷馬車がそれに静かに続きました。
二台の馬車は、見た目も役割も全く異なります。
一台は、立派な彫刻の施された樽がこれみよがしに積まれた華やかな馬車でした。
もう一台は、大量の氷雪が詰め込まれた質素で頑丈な作りの馬車です。
私たちは、その一行の姿が丘の向こうに見えなくなるまで見送っていました。
やがて彼らは、朝靄の中へと小さくなっていきます。
「さて、と。」
一行の姿が完全に見えなくなったのを確認すると、私はくるりと踵を返しました。
私の心は、もう次へと向かっています。
「私たちも、次の仕事を始めましょうか。」
私のその言葉に、隣にいたレオニール様は少し意外そうな顔をしました。
「まだ、何かすぐにやることがあるのか。少しは、休んだらどうだ。」
「もちろんですわ、王都での戦いはバルトルト殿たちに全て任せます。私たちはこのヴァインベルクを、もっと豊かにするための戦いを一日たりとも休むわけにはいきません。」
私は、前を向いたままにっこりと微笑みました。
すると彼が、不意に私の冷たくなった手を取ります。
そしてその、武人らしい大きくて分厚い手で私の手を優しく力強く包み込みました。
「ああ、そうだな。お前の言う通りだ。行こう、アニエス。俺も、お前と共に戦おう。」
彼の、突然のその行動に私の心臓がまた大きく跳ねました。
でもその、無骨な手の温もりがとても心地よく頼もしく感じられます。
特使の一行が出発してから、城はいつもの日常を取り戻しました。
しかし、そこに流れる空気は以前とは明らかに違っています。
使用人たちも騎士たちも、誰もがそわそわとしていました。
王都へ届けられた、私たちの二つの爆弾が今頃どうなっているのかと。
期待と、ほんの少しの不安を胸に秘めていたのです。
でも、私は少しも心配していませんでした。
あの霜降りトロールの肉の味は、本物です。
本物の持つ力は、いつだってあらゆる小細工や悪意を乗り越えるものなのですから。
私は、気持ちをすっぱりと切り替えました。
そして、かねてから計画していた新しいプロジェクトに取り掛かることにします。
それは、甘いものに乏しいこのヴァインベルク辺境領に新しい甘みという文化をもたらすことでした。
この世界には、まだサトウキビから作られる砂糖というものがほとんど普及していません。
貴族たちが口にする甘いものといえば、南の国から輸入される高価な果物でした。
あるいは、それ以上に貴重な蜂蜜くらいしかありません。
しかし、この寒冷なヴァインベルクでは果物はほとんど採れませんでした。
崖に自生する、ルビーベリーが唯一の例外です。
しかしあれは、甘みよりも酸味が強すぎました。
そこで私が目をつけたのは、この土地に有り余るほど存在するありふれた食材でした。
「ジャガイモ、でございますか。アニエス様、まさかこれでお菓子をお作りになるのですか。」
マルタが、心底不思議そうに首を傾げました。
厨房の、大きな作業台の上には先日収穫されたばかりの山のようなジャガイモが積まれています。
「ええ、このジャガイモからでんぷんという魔法の粉を取り出すの。そして、甘くて美味しいお菓子を作るのよ。」
「でんぷん、それは一体どのような粉なのでしょうか。」
マルタだけでなく、周りにいた若い料理人たちもきょとんとしています。
私は、言葉で説明するよりも実際に彼らに実演して見せることにしました。
まず、山積みのジャガイモを皆で綺麗に洗います。
そして、一つ一つ丁寧に皮を剥いていきました。
それを、ひたすらおろし金で細かくすりおろしていきます。
地味で、大変に根気のいる作業です。
でも私は、こういう黙々と続ける作業が大好きでした。
すりおろして、どろどろになったジャガイモを大きな麻布の袋に目一杯詰め込みます。
そしてその袋を、清浄な水で満たした巨大な桶の中で何度も力強く揉んでいきました。
すると、真っ白く濁った水が袋の布目からじわじわと染み出してきます。
「まあ、水が牛乳のように白くなっていきますわ。」
料理人たちから、素朴な驚きの声が上がりました。
この、白く濁った水こそがでんぷんを豊富に含んだ魔法の水なのです。
この水を、いくつもの大きな桶に溜めて一日二日と置いておきました。
すると、桶の底に雪のように真っ白な粉がゆっくりと沈殿します。
これこそが、ジャガイモのでんぷんすなわち片栗粉の原石でした。
上澄みの、透明な水をそっと慎重に捨てます。
底に残った、湿ったでんぷんを板の上に薄く広げました。
そしてそれを、日当たりの良い窓辺で丁寧に時間をかけて乾かしていきます。
数日後、私たちの手元には大量の上質な片栗粉が出来上がりました。
まるで高級な化粧品のように、白くきめ細かい粉です。
「すごい、あの泥のついたジャガイモからこんなに美しい粉が生まれるなんて。」
マルタは、その粉を指先にとって感触を確かめながら心底感動しているようでした。
「さて、マルタ。ここからが、本番よ。」
私は、この魔法の粉を使って早速新しいお菓子を作ることにしました。
深めの鍋に、水と出来立ての片栗粉を入れます。
そこに、先日収穫したばかりのルビーベリーをたっぷりと加えていきました。
そして暖炉の、弱火で焦げ付かないようにゆっくりとかき混ぜながら練り上げていきます。
最初は、白く濁っていた液体が熱が加わるにつれて次第に透明感を帯びてきました。
ルビーベリーの、鮮やかな色がじわじわと溶け出します。
全体が、まるで溶けたルビーのような美しい深紅色に染まっていきました。
とろりとした、強い粘り気が出てきたら火から下ろします。
そしてそれを、濡らした平たい木のバットに素早く流し込み冷たい地下室で冷やし固めました。
しばらくして、完全に固まったものを菱形に切り分けます。
それは、一口サイズでした。
仕上げに、その表面に少しだけ乾かした片栗粉を優しくまぶします。
まるで、化粧をするようです。
「さあ、できたわ。ヴァインベルク風の、『わらび餅』よ。」
もちろん、本物のわらび粉は使っていません。
ジャガイモのでんぷんで作った、もどき料理です。
でもその見た目は、ガラス細工のようにぷるぷると瑞々しく輝いていてとても美味しそうでした。
私は、まず自分で一つまんで口に運びます。
ひんやりとして、もちもちとした今までにない独特の食感でした。
ルビーベリーの、爽やかな甘酸っぱい風味が口の中にいっぱいに広がります。
うん、これは想像以上の傑作です。
「さあ、皆も遠慮しないで食べてみて。」
私がにっこりと勧めると、料理人たちはそれを一つずつ口に運びました。
彼らは、おそるおそるです。
次の瞬間、厨房のあちこちから喜びの歓声が上がりました。
それは、今まで聞いたこともないような声です。
「おいしい、なんですのこのぷるぷるもちもちとした不思議な食感は。」
「甘くて、酸っぱくてまるで夢の国のお菓子のようですわ。」
「これなら、城の子供たちもきっと大喜びしますわね。」
皆、この土地で初めて生まれた新しいお菓子の誕生に心から大喜びでした。
そこへ、ひょっこりと厨房の入り口から子供たちが何人か顔を覗かせます。
彼らは、城で働く使用人たちの子供でした。
厨房から、ふんわりと漂ってくる甘い香りに誘われてきたのでしょう。
「アニエス様。それ、なあに。とっても、いい匂いがする。」
一番小さな、そばかすの可愛い女の子が私のエプロンの裾をくいっと引っ張りました。
それは、遠慮がちでした。
私は、優しく微笑みかけるとそっとしゃがみこんで彼女の幼い目線に合わせます。
そして、出来立てのわらび餅を一つ彼女の小さな口にそっと入れてあげました。
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<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
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怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
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