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私の提案は、とても驚くような内容でした。
商人たちは、今度こそすっかり驚いてしまったようでした。
彼らはただ、ぽかんと口を開けて私を見つめています。
会議室には、暖炉の薪がぱちぱちと爆ぜる音だけが響いていました。
一番最初に沈黙を破ったのは、体格のいい中年の商人でした。
彼はこの辺境で、一番大きな商会の主であるゲオルグさんです。
「お、奥様。現物支給と申されますと、それは一体どういうことですかな。まさか、カブやジャガイモで支払えと仰るのでは…」
彼の声は、少しだけ震えていました。
無理もありません。
霜降りトロールの肉は、金貨にすればとてつもない価値になります。
それに見合うだけの、カブやジャガイモを用意するなど不可能です。
私は彼の勘違いを正すため、にっこりと微笑みました。
「いいえゲオルグさん、わたくしが欲しいのはカブやジャガイモではありませんわ」
「では、一体何を…」
「わたくしたちヴァインベルクに、今本当に必要なものです。
金貨では決して、買うことのできない価値あるものを求めています」
私の言葉に、商人たちはますます混乱しているようでした。
ボードワンさんだけが、何かを察したようにふむと頷いています。
私は、ゆっくりと説明を始めました。
「例えば王都には、腕の良い職人がたくさんいるはずです。
鍛冶師や革なめし職人、腕の良い大工もいるでしょう」
「はあ、それはもちろん…」
「彼らを家族ごと、このヴァインベルクへ移住させていただくのです。
それが、代金の一つです」
「しょ、職人を、でございますか!?」
商人たちから、驚きの声が上がりました。
「ええ。それから、この土地では育たない作物の種や果樹の苗木も必要です。
南の国でしか採れない、珍しい香辛料も欲しいですわね」
「な、なるほど…!」
「ヤギや鶏などの家畜も、もっと数を増やしたいです。
それから医学や建築に関する、最新の書物も手に入れたいです」
私はよどみなく、欲しいもののリストを挙げていきました。
それはこのヴァインベルクを、豊かにするために必要なものばかりです。
商人たちは、最初こそ呆気にとられていました。
しかし私の話を聞くうちに、その目にだんだんと知的な光が宿り始めます。
彼らも、立派な商売人です。
私の、本当の狙いに気づき始めたようでした。
「つまり奥様は、金という一時的な利益ではありません。
このヴァインベルクの、未来そのものを手に入れようとされているのですな」
ゲオルグさんが、感心したように声を漏らしました。
「その通りですわ。職人が増えれば、新しい産業が生まれます。
新しい作物が育てば、食文化はもっと豊かになるでしょう。
家畜が増えれば、肉だけでなく乳や卵も手に入ります。
知識が増えれば、人々の暮らしはもっと便利で安全なものになるのです」
「そ、そうなれば…!」
「ええ。このヴァインベルクの価値は、今よりもずっと高まります。
霜降りトロールの肉だけでなく、他にもたくさんの特産品を王都へ売ることができるでしょう。
それは皆さん商人にとっても、悪い話ではないはずですわ」
私の言葉に、商人たちは顔を見合わせました。
そしてやがて、その顔には興奮の色が浮かび始めます。
「す、すごい…!なんと、壮大なご計画だ…!」
「目先の利益ばかり考えていた、自分が恥ずかしい…!」
「これぞまさしく、生きた金の遣い方というものだ!」
会議室の空気は、完全に変わりました。
皆、私の計画に心から賛成してくれたようです。
その目には新しい商売への野心と、この土地の未来への希望が燃え盛っていました。
「皆さんの、お力をお貸しいただけますか」
私がそう言うと、商人たちは一斉に立ち上がりました。
そしてその場で、深々と私に頭を下げたのです。
「お任せください、アニエス様!」
「我々ヴァインベルク商人が、総力を挙げてこの計画を成功させてみせますぞ!」
その力強い言葉に、私は満足して頷きました。
こうして王都との本格的な経済戦争の、骨子は固まったのです。
私たちは、ただ商品を売るだけではありません。
王都から富や人材を吸い上げて、この辺境の地を豊かにしていくのです。
それは、一方的な搾取ではありません。
王都には最高の娯楽を、そしてヴァインベルクには確かな未来をもたらします。
まさしく、双方にとって利益のある取引でした。
会議が終わった後で、私は一人で城のテラスに出ていました。
冷たい風が、火照った頬に心地よいです。
遠くには雪を頂いた山脈が、夕日に照らされて赤く染まっていました。
「見事な、手綱さばきだったな」
不意に、後ろから声が聞こえました。
振り返ると、レオニール様が静かに立っています。
「会議の様子は、隣の部屋で聞かせてもらった」
「まあ、盗み聞きですの?」
「人聞きの悪いことを言うな。お前のことだから、何か面白いことをするだろうと思ってな」
彼はそう言って、悪戯っぽく笑いました。
そして私の隣に並んで、夕焼けの空を眺めます。
「お前は、本当に面白いことを考える。俺には、到底思いつきもしなかった」
「わたくしはただ、ゲームをしているような感覚なのです。
どうすればこのマップを、もっと面白く攻略できるかと」
「げえむ…?それは、どういう意味だ」
「ふふ、こちらの話ですわ」
私は、少しだけはぐらかすように笑いました。
いつか彼に、私の秘密を話せる日が来るのでしょうか。
私たちはしばらくの間、黙って美しい景色を眺めていました。
やがて、彼がぽつりと言います。
「ありがとうアニエス。お前が、俺の妻で本当に良かった」
そのあまりにもまっすぐな言葉に、私の心臓は大きく跳ねました。
私は、どう返事をすればよいのか分かりません。
ただ燃えるような夕焼けに負けないくらい、顔が熱くなるのを感じていました。
次の日から、城下町はにわかに活気づき始めます。
商人たちが王都との新しい取引の、準備を始めたからでした。
霜降りトロールの肉を、安全に輸送するための特別な荷馬車が何台も作られます。
腕利きの職人たちは、夜通し作業を進めていました。
彼らの顔に、疲れの色はありません。
むしろ新しい時代の幕開けに、立ち会える喜びに満ちあふれているようでした。
私も、じっとしてはいられません。
王都から新しい人材や物資が届く前に、受け入れ態勢を整えておく必要がありました。
私はまず、城下町の一角にある空き家を改装することに決めます。
そこを新しく移住してくる、職人たちのための住居兼工房にするのです。
「棟梁、ここの壁は取り払って広い一つの空間にしてくださいな」
「へい、親方。承知しました」
私は職人たちに混じって、自らも槌を振るいました。
古い壁を壊し、新しい柱を立てていきます。
泥と汗にまみれて働くのは、とても気持ちの良いものでした。
城の子供たちも、面白がって手伝ってくれます。
彼らは小さな手で、釘を運んだり木くずを掃除したりしました。
「アニエス様、見て!こんなにたくさん集めたよ!」
「まあ、ありがとう。本当に、助かるわ」
そんなたわいないやり取りが、私の心を温かくします。
数日後、そこには見違えるように立派な建物が完成しました。
日当たりが良く、風通しも考えられた快適な空間です。
鍛冶師のための、大きな炉も設置しました。
革職人のための、水場も完備されています。
「ふう、これでいつお客様が来ても大丈夫ね」
私は完成した工房を眺めて、満足のため息をつきました。
次に、私は畑へと向かいます。
新しい作物の種や、苗木を植えるための準備をしなければなりません。
農夫たちと、一緒に土を耕しました。
新しく開発した、鋤や馬鍬が大活躍します。
作業は、驚くほど順調に進んでいきました。
堆肥をたっぷりとすき込んだ畑は、ふかふかのベッドのようです。
いつでも、新しい命を迎え入れる準備ができていました。
そんな忙しくも、充実した毎日が過ぎていきます。
王都へ特使が出発してから、十日ほど経ったある日のことです。
見張りの兵士から、大きな声で報告がありました。
「申し上げます!王都の方角より、大規模な隊商がこちらへ向かっております!」
「なんですって!?」
私は作業の手を止めて、レオニール様と顔を見合わせました。
早すぎる、帰還です。
何か、トラブルでもあったのでしょうか。
一瞬、不安がよぎります。
しかし、すぐにその考えを打ち消しました。
大丈夫、きっとうまくいくはずです。
私たちは、急いで城門へと向かいました。
やがて丘の向こうから、長い隊列が見え始めます。
それは、バルトルト殿たちが率いるものではありませんでした。
先頭に立つのは、見覚えのあるヴァインベルク商人の旗です。
そしてその後ろには、数えきれないほどの荷馬車が続いていました。
荷馬車には、人や家畜や見たこともない資材が満載でした。
まるで、一つの村が丸ごと引っ越してきたかのような光景でした。
城門の前で待っていた私たちの前に、隊商が到着します。
先頭の馬から、商人のゲオルグさんが誇らしげな顔で降り立ちました。
「アニエス様、ただいま戻りました!早速、最初のお荷物をお届けに上がりましたぞ!」
彼はそう言って、深々と頭を下げます。
その顔は長旅の疲れも見せず、喜びに輝いていました。
「まあゲオルグさん、これは一体…?」
「へへ、王都の貴族どもは我々の言い値で食いついてきました。
彼らは霜降りトロールの肉を手に入れるためなら、どんな交換条件でも飲むようです」
彼はそう言って、後ろの荷馬車を親指で示しました。
「まずはこちら、王都で一番と評判の鍛冶師一家でございます。
それからあちらは、腕利きの革なめし職人です」
「まあ…!」
「南の国の珍しい果樹の苗木も、手に入れて参りました。
それからあちらの樽には、最高級の麦酒が入っております。
もちろん、鶏やヤギもたくさんおりますぞ」
ゲオルグさんの説明に、私だけでなくレオニール様も圧倒されていました。
周りにいた領民たちも、ただ呆然と眺めています。
これが、私の計画の最初の成果なのです。
ヴァインベルクは金貨を一枚も使うことなく、これだけの富と人材を手に入れたのでした。
私の胸に、熱いものがこみ上げてきます。
「ありがとうゲオルグさん、本当に素晴らしいお仕事でしたわ」
「いえいえ、これも全てアニエス様のおかげでございます。
さあ旦那方、こちらが我らがヴァインベルクの救世主アニエス様だ。
ご挨拶なさい」
ゲオルグさんに促されて、一人の屈強な男が前に進み出ました。
年の頃は、四十代くらいでしょうか。
その腕は丸太のように太く、顔にはいくつもの火傷の痕があります。
彼が、王都一の鍛冶師なのでしょう。
彼は私の前に来ると、無言で片膝をつきました。
そして、その厳つい顔を深く下げたのです。
「お初にお目にかかります奥様、俺はグスタフと申します。
今日からこの地に骨を埋める覚悟で、やって参りました」
その声は、低くそして力強い響きを持っていました。
彼の瞳には新しい土地での仕事に対する、確かな決意が宿っています。
私はその手を取って、彼を立ち上がらせました。
「ようこそヴァインベルクへ。グスタフさん、あなたの力を貸してくださいな」
商人たちは、今度こそすっかり驚いてしまったようでした。
彼らはただ、ぽかんと口を開けて私を見つめています。
会議室には、暖炉の薪がぱちぱちと爆ぜる音だけが響いていました。
一番最初に沈黙を破ったのは、体格のいい中年の商人でした。
彼はこの辺境で、一番大きな商会の主であるゲオルグさんです。
「お、奥様。現物支給と申されますと、それは一体どういうことですかな。まさか、カブやジャガイモで支払えと仰るのでは…」
彼の声は、少しだけ震えていました。
無理もありません。
霜降りトロールの肉は、金貨にすればとてつもない価値になります。
それに見合うだけの、カブやジャガイモを用意するなど不可能です。
私は彼の勘違いを正すため、にっこりと微笑みました。
「いいえゲオルグさん、わたくしが欲しいのはカブやジャガイモではありませんわ」
「では、一体何を…」
「わたくしたちヴァインベルクに、今本当に必要なものです。
金貨では決して、買うことのできない価値あるものを求めています」
私の言葉に、商人たちはますます混乱しているようでした。
ボードワンさんだけが、何かを察したようにふむと頷いています。
私は、ゆっくりと説明を始めました。
「例えば王都には、腕の良い職人がたくさんいるはずです。
鍛冶師や革なめし職人、腕の良い大工もいるでしょう」
「はあ、それはもちろん…」
「彼らを家族ごと、このヴァインベルクへ移住させていただくのです。
それが、代金の一つです」
「しょ、職人を、でございますか!?」
商人たちから、驚きの声が上がりました。
「ええ。それから、この土地では育たない作物の種や果樹の苗木も必要です。
南の国でしか採れない、珍しい香辛料も欲しいですわね」
「な、なるほど…!」
「ヤギや鶏などの家畜も、もっと数を増やしたいです。
それから医学や建築に関する、最新の書物も手に入れたいです」
私はよどみなく、欲しいもののリストを挙げていきました。
それはこのヴァインベルクを、豊かにするために必要なものばかりです。
商人たちは、最初こそ呆気にとられていました。
しかし私の話を聞くうちに、その目にだんだんと知的な光が宿り始めます。
彼らも、立派な商売人です。
私の、本当の狙いに気づき始めたようでした。
「つまり奥様は、金という一時的な利益ではありません。
このヴァインベルクの、未来そのものを手に入れようとされているのですな」
ゲオルグさんが、感心したように声を漏らしました。
「その通りですわ。職人が増えれば、新しい産業が生まれます。
新しい作物が育てば、食文化はもっと豊かになるでしょう。
家畜が増えれば、肉だけでなく乳や卵も手に入ります。
知識が増えれば、人々の暮らしはもっと便利で安全なものになるのです」
「そ、そうなれば…!」
「ええ。このヴァインベルクの価値は、今よりもずっと高まります。
霜降りトロールの肉だけでなく、他にもたくさんの特産品を王都へ売ることができるでしょう。
それは皆さん商人にとっても、悪い話ではないはずですわ」
私の言葉に、商人たちは顔を見合わせました。
そしてやがて、その顔には興奮の色が浮かび始めます。
「す、すごい…!なんと、壮大なご計画だ…!」
「目先の利益ばかり考えていた、自分が恥ずかしい…!」
「これぞまさしく、生きた金の遣い方というものだ!」
会議室の空気は、完全に変わりました。
皆、私の計画に心から賛成してくれたようです。
その目には新しい商売への野心と、この土地の未来への希望が燃え盛っていました。
「皆さんの、お力をお貸しいただけますか」
私がそう言うと、商人たちは一斉に立ち上がりました。
そしてその場で、深々と私に頭を下げたのです。
「お任せください、アニエス様!」
「我々ヴァインベルク商人が、総力を挙げてこの計画を成功させてみせますぞ!」
その力強い言葉に、私は満足して頷きました。
こうして王都との本格的な経済戦争の、骨子は固まったのです。
私たちは、ただ商品を売るだけではありません。
王都から富や人材を吸い上げて、この辺境の地を豊かにしていくのです。
それは、一方的な搾取ではありません。
王都には最高の娯楽を、そしてヴァインベルクには確かな未来をもたらします。
まさしく、双方にとって利益のある取引でした。
会議が終わった後で、私は一人で城のテラスに出ていました。
冷たい風が、火照った頬に心地よいです。
遠くには雪を頂いた山脈が、夕日に照らされて赤く染まっていました。
「見事な、手綱さばきだったな」
不意に、後ろから声が聞こえました。
振り返ると、レオニール様が静かに立っています。
「会議の様子は、隣の部屋で聞かせてもらった」
「まあ、盗み聞きですの?」
「人聞きの悪いことを言うな。お前のことだから、何か面白いことをするだろうと思ってな」
彼はそう言って、悪戯っぽく笑いました。
そして私の隣に並んで、夕焼けの空を眺めます。
「お前は、本当に面白いことを考える。俺には、到底思いつきもしなかった」
「わたくしはただ、ゲームをしているような感覚なのです。
どうすればこのマップを、もっと面白く攻略できるかと」
「げえむ…?それは、どういう意味だ」
「ふふ、こちらの話ですわ」
私は、少しだけはぐらかすように笑いました。
いつか彼に、私の秘密を話せる日が来るのでしょうか。
私たちはしばらくの間、黙って美しい景色を眺めていました。
やがて、彼がぽつりと言います。
「ありがとうアニエス。お前が、俺の妻で本当に良かった」
そのあまりにもまっすぐな言葉に、私の心臓は大きく跳ねました。
私は、どう返事をすればよいのか分かりません。
ただ燃えるような夕焼けに負けないくらい、顔が熱くなるのを感じていました。
次の日から、城下町はにわかに活気づき始めます。
商人たちが王都との新しい取引の、準備を始めたからでした。
霜降りトロールの肉を、安全に輸送するための特別な荷馬車が何台も作られます。
腕利きの職人たちは、夜通し作業を進めていました。
彼らの顔に、疲れの色はありません。
むしろ新しい時代の幕開けに、立ち会える喜びに満ちあふれているようでした。
私も、じっとしてはいられません。
王都から新しい人材や物資が届く前に、受け入れ態勢を整えておく必要がありました。
私はまず、城下町の一角にある空き家を改装することに決めます。
そこを新しく移住してくる、職人たちのための住居兼工房にするのです。
「棟梁、ここの壁は取り払って広い一つの空間にしてくださいな」
「へい、親方。承知しました」
私は職人たちに混じって、自らも槌を振るいました。
古い壁を壊し、新しい柱を立てていきます。
泥と汗にまみれて働くのは、とても気持ちの良いものでした。
城の子供たちも、面白がって手伝ってくれます。
彼らは小さな手で、釘を運んだり木くずを掃除したりしました。
「アニエス様、見て!こんなにたくさん集めたよ!」
「まあ、ありがとう。本当に、助かるわ」
そんなたわいないやり取りが、私の心を温かくします。
数日後、そこには見違えるように立派な建物が完成しました。
日当たりが良く、風通しも考えられた快適な空間です。
鍛冶師のための、大きな炉も設置しました。
革職人のための、水場も完備されています。
「ふう、これでいつお客様が来ても大丈夫ね」
私は完成した工房を眺めて、満足のため息をつきました。
次に、私は畑へと向かいます。
新しい作物の種や、苗木を植えるための準備をしなければなりません。
農夫たちと、一緒に土を耕しました。
新しく開発した、鋤や馬鍬が大活躍します。
作業は、驚くほど順調に進んでいきました。
堆肥をたっぷりとすき込んだ畑は、ふかふかのベッドのようです。
いつでも、新しい命を迎え入れる準備ができていました。
そんな忙しくも、充実した毎日が過ぎていきます。
王都へ特使が出発してから、十日ほど経ったある日のことです。
見張りの兵士から、大きな声で報告がありました。
「申し上げます!王都の方角より、大規模な隊商がこちらへ向かっております!」
「なんですって!?」
私は作業の手を止めて、レオニール様と顔を見合わせました。
早すぎる、帰還です。
何か、トラブルでもあったのでしょうか。
一瞬、不安がよぎります。
しかし、すぐにその考えを打ち消しました。
大丈夫、きっとうまくいくはずです。
私たちは、急いで城門へと向かいました。
やがて丘の向こうから、長い隊列が見え始めます。
それは、バルトルト殿たちが率いるものではありませんでした。
先頭に立つのは、見覚えのあるヴァインベルク商人の旗です。
そしてその後ろには、数えきれないほどの荷馬車が続いていました。
荷馬車には、人や家畜や見たこともない資材が満載でした。
まるで、一つの村が丸ごと引っ越してきたかのような光景でした。
城門の前で待っていた私たちの前に、隊商が到着します。
先頭の馬から、商人のゲオルグさんが誇らしげな顔で降り立ちました。
「アニエス様、ただいま戻りました!早速、最初のお荷物をお届けに上がりましたぞ!」
彼はそう言って、深々と頭を下げます。
その顔は長旅の疲れも見せず、喜びに輝いていました。
「まあゲオルグさん、これは一体…?」
「へへ、王都の貴族どもは我々の言い値で食いついてきました。
彼らは霜降りトロールの肉を手に入れるためなら、どんな交換条件でも飲むようです」
彼はそう言って、後ろの荷馬車を親指で示しました。
「まずはこちら、王都で一番と評判の鍛冶師一家でございます。
それからあちらは、腕利きの革なめし職人です」
「まあ…!」
「南の国の珍しい果樹の苗木も、手に入れて参りました。
それからあちらの樽には、最高級の麦酒が入っております。
もちろん、鶏やヤギもたくさんおりますぞ」
ゲオルグさんの説明に、私だけでなくレオニール様も圧倒されていました。
周りにいた領民たちも、ただ呆然と眺めています。
これが、私の計画の最初の成果なのです。
ヴァインベルクは金貨を一枚も使うことなく、これだけの富と人材を手に入れたのでした。
私の胸に、熱いものがこみ上げてきます。
「ありがとうゲオルグさん、本当に素晴らしいお仕事でしたわ」
「いえいえ、これも全てアニエス様のおかげでございます。
さあ旦那方、こちらが我らがヴァインベルクの救世主アニエス様だ。
ご挨拶なさい」
ゲオルグさんに促されて、一人の屈強な男が前に進み出ました。
年の頃は、四十代くらいでしょうか。
その腕は丸太のように太く、顔にはいくつもの火傷の痕があります。
彼が、王都一の鍛冶師なのでしょう。
彼は私の前に来ると、無言で片膝をつきました。
そして、その厳つい顔を深く下げたのです。
「お初にお目にかかります奥様、俺はグスタフと申します。
今日からこの地に骨を埋める覚悟で、やって参りました」
その声は、低くそして力強い響きを持っていました。
彼の瞳には新しい土地での仕事に対する、確かな決意が宿っています。
私はその手を取って、彼を立ち上がらせました。
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ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
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