動物園の飼育員さん、神様の手違いで死んだので、代わりに最強の魔物たちを育てることになりました~会話できるので、子育ては楽勝です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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俺は、ガンツさんが作ってくれた調理器具の前に立っていた。
これは、ただの道具ではない。
漆黒の包丁は、手に持つだけで不思議な力が湧いてくるようだ。
その刃は、闇を固めたように鈍く光っている。
漆黒の鍋も、負けず劣らずの存在感を放っていた。
どんな強力な火力にも、平然と耐えられそうな頑丈さを感じる。
これは、まさに最強の調理器具だ。

「よし、クマ子。今からお前に、特大のステーキを焼いてやるからな」

俺がそう声をかけると、別館の中庭で待機していたクマ子が嬉しそうに立ち上がった。
『ごしゅじんさま! 本当ですか! わたし、昨日からずっとお腹を空かせて待っていたんです!』
クマ子は大きな体を揺らし、期待に満ちた目をこちらに向けている。
その期待に、全力で応えなければならない。
俺は市場で特別に仕入れてきた、魔物の肉の塊を取り出した。
それは、大人の男が抱えるほどの大きさがある。
普通の包丁では、刃がこぼれてしまいそうな硬い表皮と筋に覆われていた。

「まずは、このやっかいな筋を丁寧に切らないと……」

俺は漆黒の包丁を構え、そっと肉に当ててみた。
力を入れるつもりは、全くなかった。
だが、包丁は自らの重みだけで、肉の塊へと吸い込まれていく。
まるで熱いナイフが、冷たいバターを切るかのようだ。
スッ、スッ、と軽やかな音だけが響く。
あれほど硬く見えた筋も、分厚い骨さえも、すべてが簡単に切れていく。

「おお……! すごい切れ味だ……! ガンツさん、ありがとう!」

俺は、思わず感動の声を上げていた。
この包丁の性能は、俺の想像をはるかに超えている。
これさえあれば、あの硬いガラクの実を砕くのも、朝飯前だろう。
俺たちの食生活と、魔物たちの健康管理が格段に楽になる。

「ルビ! 火力調整の練習を始めるぞ! この鍋を温めてくれるか?」
『はーい! まかせて、ユウ! わたし、もう完璧だもん!』

ルビが、嬉しそうに尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
彼女は最近、ガンツさんの指導のおかげで、火力調整が楽しくて仕方ないらしい。
俺が漆黒の鍋を中庭の頑丈な石畳に置くと、ルビは一度、深呼吸をした。
その小さな体に、ドラゴンの力が満ちていく。

『いくよ! さいしょは、とろび! ふー……』

ルビの小さな口から、制御された小さな炎が吐き出された。
それは、鍋の底を優しく撫でるような、完璧な火加減だ。
ガンツさんに鍛えられただけあって、そのコントロールは芸術的ですらある。

「よし、ルビ、本番だ! ステーキを焼くぞ! 最強の強火、お願い!」
『りょうかい! わたしの、さいきょうかえん! ふおおおー!』

ルビが勢いよく炎を噴き出すと、鍋が一瞬で灼熱の温度に達した。
万年ゴケ鉄とオリハルコンで作られた鍋は、ドラゴンの炎を受けても、全く動じない。
むしろ、その熱を喜んでいるようにさえ見える。
俺は、分厚く切り分けた肉を、熱せられた鍋に放り込んだ。

ジュワアアアアアアアッ!

すさまじい音が鳴り響き、肉の焼ける香ばしい匂いが中庭いっぱいに広まった。
その匂いに誘われて、コロとぷるんも、家の中から慌てて飛び出してくる。

『わー! すごくいいにおい! ユウ、ずるい!』
『ユウ、わたしのぶんもある!? もちろん、あるよね!?』
『(ぷるぷる、ぷるるる!)』(←興奮で激しく震えている)

「ははは、もちろん、みんなの分もちゃんとあるぞ」

俺は手際よく肉の両面を焼き、漆黒の包丁で食べやすい一口大に切り分けた。
そして、一番大きな皿に山盛りにしたステーキを、クマ子の前にそっと差し出す。

「さあ、クマ子。お待たせ。すごく熱いから、気をつけて食べろよ」
『は、はい! いただきます!』

クマ子は、緊張した面持ちで目の前のステーキを見つめている。
彼女は、ゆっくりと顔を近づけた。
そして、その大きな口で、山盛りの肉をがぶりと一口で平らげた。
もぐ、もぐ、と大きな顎が数回動く。
次の瞬間、クマ子の大きな目が、カッと見開かれた。

『な……! な……! おいしいいいいいいいいいいいい! な、なにこれ! お肉が! お肉が、口の中で、とろけるんですけど! わたし、こんな美味しいもの、生まれて初めて食べました!』

クマ子は、中庭に響き渡るほどの声で絶叫した。
その凄まじい声は、アリストンの町中に響いたかもしれない。
クマ子は、興奮のあまりその場をぐるぐると回り始めた。
巨体が動くたびに、地面がわずかに揺れている。

「ははは、よかった。気に入ってくれたみたいだな」
「それも、ガンツさんの鍋と、ルビの火加減のおかげだ」
『ちがいます! ごしゅじんさまの腕です!』
『ごしゅじんさまは……最高のネイリストであり、世界一のシェフです!』

クマ子は、嬉しさのあまり、大きな瞳から涙を流して俺を褒めたたえた。
いや、俺は本当にただ焼いただけなんだが。
ルビ、コロ、ぷるんも、自分たちの分のステーキ(小さめに切ったやつ)を夢中で食べている。

『んー! このお肉、いつもよりずっとやわらかい!』
『おいしいね、ルビ! ユウは天才だね!』
『(ぷるぷる! おかわり!)』

みんなが満足そうに食べてくれると、俺も飼育員として鼻が高い。
やっぱり、質の良い食事は、健康な生活の基本だ。

その日の午後。
俺は、次の仕事を探すために、一人でギルドを訪れていた。
ルビとコロは、ステーキを食べて満足したのか、別館でぐっすり昼寝をしている。
クマ子は、中庭でうっとりと、ガンツさんに磨いてもらった自分の爪を眺めていた。
俺がギルドの建物に入ると、冒険者たちが「あ、来たぞ」とささやきながら道をあける。
もう、この反応にも、すっかり慣れてしまった。

「こんにちは、ドリンさん。今日も何か、仕事はありますか?」

俺が執務室を訪ねると、ドリンさんは大きなため息をついた。
彼の机の上には、胃薬らしき小瓶が、昨日よりも明らかに増えている。

「……ユウ殿か。おはよう。……お主の『子供たち』は、今日は一緒ではないのか?」
「あ、みんなは別館で留守番です。ステーキでお腹がいっぱいで、寝てしまいました」
「……ステーキ、か」

ドリンさんが、またどこか遠い目をした。
彼は壁に貼られた無数の依頼書を、じっと見つめている。

「うーむ。Fランクのお主には、少し早いかもしれんが……」
「これしか、今のところ『素材採取』の依頼が残ってなくてな」

ドリンさんが指差したのは、Bランクと書かれた依頼書だった。
「『グリフォンの卵の殻』を採取してほしい、という依頼だ」

「グリフォン、ですか?」

俺は、動物園で飼育していたワシやタカの姿を思い出した。
猛禽類は、本当に格好いいんだよな。

「そうだ。非常に凶暴で、空を自由に飛ぶ魔物だ。巣は険しい岩山にある」
「普通の冒険者では、巣に近づくことすら難しい」
「ドリンさん、Bランクなんて、俺には無理ですよ」

俺がそう正直に言うと、ドリンさんは困った顔をした。
「そうなんだがな……。実は、この依頼、ガンツのじいさんからなんだ」
「え? ガンツさんから?」
「ああ。ルビ殿の炎を見て、何か新しい合金のアイデアが浮かんだらしい」
「その合金を作るのに、どうしてもグリフォンの卵の殻が、触媒として必要だそうだ」
「『ユウなら、なんとかするだろう』と、ガンツのじいさんが、無茶を言ってきてな……」

「なるほど。ガンツさんの頼みなら、断れませんね」

俺は、あの偏屈だが腕は確かな鍛冶屋の、嬉しそうな顔を思い出した。
彼には、調理器具やクマ子の爪のことで、大きな世話になった恩がある。

「でも、グリフォンか……。卵の殻って、カルシウムが豊富なんですよ」
「動物園では、砕いて鳥の餌に混ぜたりしてましたね」
「栄養満点なんだ」

「……お主、グリフォンを前にして、餌の心配をしているのか?」
「はい。野生の子たちは、ちゃんと栄養が取れているか、少し心配です」
「分かりました、ドリンさん。その依頼、引き受けます!」
「グリフォンさんたちの、健康診断もしてきますね!」

俺が元気よくそう宣言すると、ドリンさんは、ついに机に突っ伏してしまった。
「……もう、知らん……。勝手にしてくれ……」

ドリンさんの弱々しい声に見送られ、俺はギルドを後にした。
周りの冒険者たちが、俺を信じられないという目で見ている。

「おい、マジかよ。あのFランク、今度はBランク依頼を受ける気か?」
「しかも、相手は空の王者グリフォンだぞ」
「死にに行くようなものだ。無謀すぎるにもほどがある」

俺はそんな声に構わず、足早に別館へと急いだ。
野生のグリフォンに会える。
楽しみだな。
飼育員として、血が騒ぐというものだ。

「ルビ、コロ、ぷるん! 起きろ!」
「ピクニックに行くぞ! 楽しい山登りだ!」

俺がそう大声で叫ぶと、三匹は嬉しそうに飛び起きた。
俺たちは、グリフォンが住むという岩山へ向かって、元気に出発したのだった。
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