動物園の飼育員さん、神様の手違いで死んだので、代わりに最強の魔物たちを育てることになりました~会話できるので、子育ては楽勝です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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俺たちは、アリストンの町から西へ向かい、半日ほど歩いていた。
ドリンさんにもらった手書きの地図によると、この先にある険しい岩山が、グリフォンの巣らしい。
ルビとコロは、久しぶりの長距離の散歩に、大はしゃぎだった。

『ユウ、見て! あの蝶々、変な模様してる! こっちでも見たことないやつだ!』
『待てー! わたしが先にお山のてっぺんに着くぞ! ユウも早く!』

二匹は、俺の周りを元気いっぱいに走り回っている。
ぷるんは、いつも通り俺の頭の上が定位置だ。
適度な揺れが、どうやら気持ちいいらしい。
『(ぷるぷる、すー……)』
すぐに、寝てしまったようだ。

やがて、目の前に巨大な岩山がその姿を現した。
木々はほとんど生えておらず、ゴツゴツとした茶色い岩肌がむき出しになっている。
見上げると、その頂上付近に、鳥の巣のようなものが、かすかに見えた。

「おお……。あれが、グリフォンの巣か。すごいな、あんな崖の上に作るなんて」

動物園でも、猛禽類は高い場所を好む習性があった。
外敵から身を守るための、本能なんだろう。
俺は、感心しながらその険しい岩山を見上げた。
これは、登るのが大変そうだ。

「よし、登るぞ。みんな、岩が崩れやすいから、怪我しないようにな」
『はーい!』
『わたし、こんな崖、へっちゃらだもん! トカゲの力、見せてあげる!』

ルビはトカゲの本領発揮だ。
小さな手足の吸盤を使って、岩肌をぺたぺたと器用に登っていく。
コロも、犬とは思えない驚異的な跳躍力で、足場から足場へと軽やかに飛び移っていく。
俺も、元飼育員として鍛えた体力で、二匹に負けないように慎重に登り始めた。

しばらく登り続けると、目的の巣が目の前に見えてきた。
下から見た時よりも、想像以上に巨大だ。
大きな木の枝や、何かの動物の骨らしきもので、頑丈に作られている。
その巣の中央には、二頭の大きなグリフォンがいた。
一頭は翼を広げて、こちらを威嚇している。
もう一頭は、巣の隅で丸くなって、苦しそうにしていた。

『グギャアアアアアッ!』

俺たちの姿を認めると、翼を広げたグリフォンが、かん高い声で叫んだ。
すさまじい威圧感だ。
鋭い鷲の頭に、力強いライオンの胴体。
まさに、伝説の生き物そのものだ。
やっぱり、かっこいい。

「こんにちは、グリフォンさん。俺はユウ。怪しい者じゃなく、ただの飼育員です」

俺は、言語理解のスキルを使って、優しく話しかけた。
『!?』
グリフォンは、驚いたようにピタリと動きを止めた。
『に、人間が……。我々の言葉を、話している……?』

「はい。今日は、皆さんに健康診断に来ました」
「そして、もしよければ、そこの古い卵の殻を、少し分けてもらえませんか?」

俺がそう言うと、威嚇していたグリフォン(オスだろうか)が、さらに激しく叫んだ。

『グギャア! 帰れ、人間! この巣に近づくな!』
『これは、我々の大事なものだ! 誰にもやらん!』

「そう怒らないでください。俺は、戦いに来たんじゃありません」

俺はゆっくりと、両手を上げて敵意がないことを示す。
そして、巣の隅で丸くなっている、もう一頭のグリフォンに目を向けた。
おそらく、メスのグリフォンだ。
彼女は、どう見ても様子がおかしい。
美しいはずの羽のツヤが、ひどく悪かった。
それに、呼吸も浅く、なんだか苦しそうだ。

「……(おや? あの子、もしかして……)」

俺は、飼育員としての目で、メスのグリフォンを注意深く観察する。
『うぅ……。お腹がすいた……。体が、だるい……』
『こんなことでは、元気な卵が産めない……』

メスのグリフォンの、弱々しい心の声が頭に響いてきた。
なるほど。
これは、典型的な栄養失調だ。
しかも、彼女は巣の隅にある、古い卵の殻を、必死につついていた。
『か、硬い……。食べられない……。でも、カルシウムを取らないと、体が……』

ビンゴだ。
典型的な、カルシウム不足。
産卵期を控えた鳥類に、よくある症状だ。
動物園でも、ダチョウやエミューで、何度もこの症状を経験した。

「あの、旦那さん」
俺は、オスグリフォンに優しく話しかけた。
『旦那!? 誰が旦那だ! 人間ふぜいが!』
「奥さん、かなりお疲れのようですよ。栄養が足りていません」
『なっ!? わ、分かっている! 分かっているとも!』
「特に、カルシウムが不足しています。だから、あんなに殻を食べたがるんですよ」
『そ、そんなこと、お前に言われなくても……!』

オスグリフォンは、図星を指されたのか、焦ったように声を荒げる。
どうやら、彼も妻の体調を心配していたらしい。
でも、どうしていいか分からなかったようだ。
猛禽類は、プライドが高いからな。

「……よし。こういう時は、これに限る」

俺はリュックから、いつもの特製栄養ペーストを取り出した。
これは、ガンツさんの鍋で作った、最新の改良版だ。
ガラクの実が、いつもより細かくすり潰されていて、栄養の吸収率が上がっている。

「奥さん。これ、すごく栄養がありますよ。よかったら、どうぞ」

俺はペーストを大きな葉っぱの皿に盛り付け、そっとメスグリフォンの前に差し出した。
『な、なんだ、これは……? 見たことないが、すごく、いい匂いがする……』
メスグリフォンは、警戒しながらも、ペーストの匂いに強く惹かれているようだ。
『よせ、妻よ! 人間の罠だ! 食べてはならん!』
オスグリフォンが、慌てて止めようとする。

「大丈夫ですよ。毒なんて入ってません。ほら、俺が証明します」

俺は、自分の指にペーストを少しつけて、ぺろりと舐めてみせた。
「うん、我ながら美味しくできた」
『(ぷるぷる! ぷるるるる!)』(←俺の頭の上で「それ、私の!」と激しく抗議している)

その様子を見て、メスグリフォンは、ついにペーストに顔を近づけた。
そして、恐る恐る、ペロリと一口。
その瞬間、彼女の目が、大きく見開かれた。

『こ……! これは……!』
『美味しい! 美味しすぎる! そして、体の奥から、力が、みなぎってくる……!』

メスグリフォンは、我を忘れたように、ペーストに食らいついた。
あっという間に、葉っぱの皿は空っぽになった。

『あ……。羽が、ツヤツヤになってきた……』
『体も、軽い……! あなた、人間、すごいわ!』

メスグリフォンは、すっかり元気を取り戻したようだ。
オスグリフォンも、信じられないという顔で、元気になった妻と俺を交互に見ている。

「よかった。元気になって」
「旦那さんも、どうです? まだたくさんありますよ」
『む、むぅ……。わ、我も、一口だけ、もらおう……』

オスグリフォンも、プライドを捨ててペーストを食べた。
もちろん、彼も大絶賛だった。

「あの、それで、この古い殻ですが……」
「これ、もう要りませんよね? 栄養は、ちゃんとペーストで取れますから」

俺が巣の隅に積まれた、古い卵の殻の山を指差す。
オスグリフォンは、慌てて首を縦に振った。

『も、持っていけ! 全部持っていけ!』
『その代わり……その、ペーストとやらを、また、持ってきてはくれんか……? 妻のために』

「もちろんです! 定期的に、栄養指導に来ますね!」

俺は、Sランク素材だという「グリフォンの卵の殻」を、持ってきた大きな袋いっぱいに詰めた。
グリフォン夫婦は、とても嬉しそうだ。
これで、ガンツさんへの恩返しもできる。

「さて、それじゃあ、俺たちはこれで失礼します」

俺が帰ろうとすると、オスグリフォンが俺の服を、その鋭いくちばしで優しく掴んだ。

『待て、ユウ殿!』
「え? 殿?」
『命の恩人に、こんな険しい山を、徒歩で帰させるわけにはいかない』
『我々が、町の近くまで送っていこう! さあ、背中に乗れ!』

「ええ!? 本当ですか! やったー!」

俺は、ルビとコロと一緒に、オスグリフォンの広くてふかふかした背中に乗せてもらった。
メスグリフォンも、一緒についてきてくれるらしい。

『うわー! たかい! すごい眺め!』
『ユウ、わたしたち、本当に空を飛ぶの!?』
『(ぷるぷる!)』(←いつの間にか起きて、興奮している)

「いくぞ! しっかり掴まってろ!」

グリフォンは、力強く翼を広げた。
そして、大空へと、一気に舞い上がった。
眼下には、さっきまで苦労して登った岩山や森が、まるで地図のように広がっている。

「すごい! すごいぞ、みんな! 俺たち、空を飛んでる!」
『キャッホー! わたし、ドラゴンより速いかも!』

俺たちの興奮した声が、青い空に響き渡った。
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