動物園の飼育員さん、神様の手違いで死んだので、代わりに最強の魔物たちを育てることになりました~会話できるので、子育ては楽勝です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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目の前にいるのは、きらびやかなドレスを着た少女だった。
金色の髪は太陽の光を浴びて輝いている。
瞳は透き通るような青色をしていた。
彼女は俺の手を握りしめ、興奮した様子で鼻息を荒くしている。
周りにいる侍女たちが、真っ青な顔で止めに入ろうとしていた。

「ひ、姫様! いけません!」
「そのような、得体の知れない獣に近づいては!」
「もし怪我でもされたら、国の一大事です!」

侍女たちの悲鳴のような声も、この少女には届いていないようだった。
彼女の視線は、俺の後ろにいるクマ子たちに釘付けだ。
その目は、ボルスさんと同じ、いやそれ以上に欲望に満ちていた。
ただ、その欲望の方向性が少し違う気がする。
彼女は、純粋に「触りたい」という情熱だけで動いているようだ。

「ええい! お黙りなさい!」
「わたくしは今、伝説のモフモフを目の前にしているのです!」
「これを触らずして、何が王族ですか!」

少女は侍女たちを一喝すると、俺の方に向き直った。
そして、スカートを摘んで優雅にお辞儀をした。

「申し遅れましたわ」
「わたくしは、このグランセル王国の第一王女、リリアナです」
「以後、お見知り置きを。……さあ、挨拶は済みましたわね?」

リリアナ姫は、自己紹介を早口で終わらせた。
そして、ターゲットを定めたようにクマ子に近づいていく。
クマ子は、突然のことに驚いて後ずさりした。

『ごしゅじんさま、この人間の子はなんですか?』
『なんだか、すごく熱い視線を感じるのですが……』

「大丈夫だ、クマ子。悪い人じゃなさそうだ」
「ただ、ちょっと動物が好きなだけだと思うぞ」

俺がそう言うと、リリアナ姫はクマ子の目の前で立ち止まった。
そして、震える手をゆっくりと伸ばした。
その手は、クマ子のピカピカに磨き上げられた黒い毛並みに触れた。
その瞬間、姫の体から力が抜けたようだった。

「……はぁぁ……」
「な、なんという手触り……!」
「最高級のシルク? いえ、それ以上の滑らかさ……」
「それに、この弾力……。指が吸い込まれていくようですわ……」

リリアナ姫は、うっとりとした顔でクマ子のお腹に顔を埋めた。
ドレスが汚れるのもお構いなしだ。
侍女たちが「ひぃぃ!」と悲鳴を上げて卒倒しそうになっている。
クマ子は、最初は戸惑っていたが、すぐに満更でもない顔になった。

『あら、この子、なかなか分かっているじゃない』
『わたしの美しさが、人間にも伝わるのね』
『もっと撫でていいわよ。そこ、気持ちいいから』

クマ子がゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
リリアナ姫は、その振動さえも心地よいらしい。
彼女はしばらくクマ子を堪能すると、次はコロの方を見た。

「まあ! こちらの白いワンちゃんも素敵!」
「なんて凛々しいお顔立ちなのかしら!」

『ワンちゃんじゃないもん! フェンリルだもん!』
『でも、撫でてくれるなら、許してあげる!』

コロは尻尾を振って、リリアナ姫に飛びついた。
姫はコロを抱きしめ、その白い毛並みに頬擦りをした。

「ああ……幸せ……」
「わたくし、このために生まれてきたのかもしれません……」

「あの、リリアナ姫。そろそろ王様がお待ちでは?」

俺が恐る恐る声をかけると、姫はハッとして顔を上げた。
顔中が毛だらけだが、とても幸せそうだ。

「そうですわね。お父様が首を長くして待っておられます」
「ユウ様、案内いたしますわ。ついてきてくださいまし」

リリアナ姫は立ち上がり、パンパンとドレスを払った。
そして、当然のように俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

「え? あの、姫様?」

「エスコートをお願いしますわ、モフモフ使い様」
「さあ、参りましょう」

俺は困惑しながらも、姫に引かれて城門をくぐった。
後ろでは、ベルドさんたち騎士団が、安堵と疲労の入り混じった顔をしている。
ドリンさんが言っていた「粗相のないように」という言葉が頭をよぎる。
でも、これは俺のせいじゃない。
向こうから絡んできたんだから、不可抗力だ。

城の中は、外見以上に広くて豪華だった。
高い天井には、美しい絵画が描かれている。
床には、ふかふかの赤い絨毯が敷き詰められていた。
廊下の両側には、煌びやかな鎧や壺が飾られている。
すれ違う兵士や使用人たちは、俺たちを見ると壁際に寄って深く頭を下げた。

「すごいですね。迷子になりそうです」

「ふふ、慣れればどうということはありませんわ」
「わたくしの庭みたいなものですもの」

リリアナ姫は楽しそうに笑っている。
ルビとコロは、初めて見るお城の中に興味津々だ。

『ユウ、あの鎧、中身が入ってないよ!』
『動かないのかな? つっついてもいい?』

『ダメだぞ、ルビ。壊したら大変だ』
『見るだけにしておけ』

俺は小声で注意しながら、廊下を進んだ。
クマ子も、絨毯の感触を確かめるように、のっしのっしと歩いている。
その巨大な体が通るたびに、飾られている壺がカタカタと揺れた。
使用人たちは、クマ子の姿を見て息を飲んでいる。
だが、姫様が先導している手前、悲鳴を上げるわけにはいかないらしい。
顔を引きつらせながら、必死に笑顔を作っていた。

「ここが、謁見の間ですわ」

長い廊下の突き当たりに、巨大な扉があった。
金色の彫刻が施された、重厚な扉だ。
扉の前には、近衛兵と思われる精鋭たちが立っていた。
彼らは俺たちを見ると、敬礼をして扉をゆっくりと開けた。
ギギギ、と重い音がして、中から眩しい光が溢れ出してきた。

「さあ、入りましょう。お父様が待っています」

俺たちは、リリアナ姫に続いて中へと足を踏み入れた。
そこは、体育館がいくつも入りそうなほど広い空間だった。
一番奥には、一段高い台座があり、そこに立派な玉座が置かれている。
そして、その玉座には、一人の男が座っていた。
立派なひげを蓄え、豪華な王冠を被った威厳ある男性だ。
彼が、この国の国王なのだろう。
左右には、大臣や貴族らしき人々がずらりと並んでいる。
彼らの視線が一斉に俺たちに向けられた。
俺は緊張で喉が渇くのを感じた。
だが、後ろにいるみんなが不安にならないよう、堂々と胸を張って歩いた。
飼育員として、どんな時でも動物たちを安心させるのが俺の役目だ。

玉座の前まで進むと、リリアナ姫が手を離して前に出た。

「お父様! 連れてまいりましたわ!」
「この方が、噂のモフモフ使い……いえ、飼育員のユウ様です!」

国王は、ゆっくりと俺を見下ろした。
その目は鋭く、全てを見透かすような力強さがある。
俺はその場に片膝をつき、最敬礼のポーズをとった。
これはベルドさんに道中、みっちりと教え込まれた作法だ。
ルビたちも、俺の真似をしてちょこんと座った。
クマ子も、優雅にカーテシー(お辞儀)をした。
ツバサは俺の肩で翼を畳んで頭を下げた。
ぷるんは、俺の頭の上で平べったくなった。

「面を上げよ」

国王の重々しい声が響いた。
俺はゆっくりと顔を上げた。
国王と目が合った。
彼はしばらく俺をじっと見ていたが、やがて口元を緩めた。

「よく来たな、ユウよ」
「そなたの活躍は、余の耳にも届いておる」
「アリストンの危機を救い、伝説の魔獣たちを手なずけたとな」

「はっ。過分なお言葉、恐縮です」
「私はただ、動物たちのお世話をしているだけに過ぎません」

俺が答えると、周りの貴族たちがざわめいた。

「動物だと……? あれが動物か?」
「どう見ても凶悪な魔獣だろう……」
「だが、あのように大人しく従っている……」
「信じられん……」

国王は手を挙げて、ざわめきを制した。

「謙遜するでない」
「その熊の毛並み、そしてワイバーンの落ち着き様を見れば分かる」
「そなたは、本物の『飼い主』だ」

国王はそこまで言うと、少し身を乗り出した。
その威厳ある表情が、少しだけ崩れたように見えた。
困惑と、期待が入り混じったような顔だ。
まるで、病気のペットを抱えた飼い主が、獣医にすがるような目だった。

「ユウよ。余がそなたを呼んだのは、他でもない」
「我が国が抱える、ある『悩み』を解決してほしいからだ」
「この悩みは、国中の獣使いや魔導師たちが束になっても、解決できなかった」
「もはや、そなたしか頼れる者がおらんのだ」

「悩み、ですか?」
「動物に関することであれば、何なりと」

俺が即答すると、国王は深く頷いた。
そして、隣に立っていた宰相に目配せをした。
宰相が進み出て、一枚の大きな絵図を広げた。
そこには、王城の裏にあると思われる、巨大な庭園が描かれていた。
そして、その中心に、一匹の獣の姿が描かれていた。
それは、白く輝く体毛を持ち、背中から翼を生やした、巨大なライオンのような生き物だった。

「これは……?」

「我が国の守護聖獣、『天上の獅子(セレスティアル・ライオン)』だ」
「代々、王家を守り続けてきた伝説の聖獣なのだが……」

国王は、苦しげに言葉を濁した。
どうやら、ただ事ではないらしい。
俺は、飼育員としての勘が働いた。
守護聖獣と呼ばれるほどの生き物が、問題を抱えている。
それはきっと、討伐依頼などではない。
もっと繊細な、ケアが必要な問題なのだろう。

「その聖獣様が、どうかされたのですか?」

俺が尋ねると、国王は重い口を開いた。

「……うむ。実はな」
「ここ数ヶ月、全く食事を摂らんのだ」
「そして、近づく者すべてに牙を剥き、手がつけられん」
「このままでは、聖獣は衰弱死してしまう」
「そうなれば、我が国の威信に関わるだけでなく、何より……」

国王はチラリとリリアナ姫を見た。
姫は、悲しそうな顔で俯いていた。

「リリアナが、悲しむのだ」
「あの子は、幼い頃から聖獣と仲が良かった」
「だが今は、あの子でさえ近づけない」

なるほど、事情は読めた。
ペットが急にご飯を食べなくなり、凶暴化した。
飼い主としては、一番心配な状況だ。
俺は立ち上がり、力強く言った。

「お任せください、陛下」
「その聖獣様、俺が必ず元気にしてみせます」
「拒食の原因を突き止め、適切なケアをすれば、きっと良くなります」

「おお……! 頼もしい言葉だ!」
「では、頼んだぞ! ユウよ!」

こうして俺は、国の命運をかけた、聖獣の飼育を任されることになった。
周りの貴族たちは、「本当に大丈夫か?」「食い殺されるぞ」と囁いている。
だが、俺には自信があった。
言葉が通じれば、きっと分かり合えるはずだ。
俺たちは、国王の案内で、聖獣がいるという庭園へと向かった。
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