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第二十九話 緊張してくるわたし

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わたしは今、殿下に提供された部屋のベッドの上に座っている。

先程風呂に行き、体を洗った。

そして、湯船の中で体の疲れを癒してきた。

少し疲れがとれた気がする。

これから殿下と二人で食事をする。

殿下に失礼のないように、体を念入りに洗ったつもりだ。

殿下に好きになってもらえるように。

いつでも、殿下のお求めに応えられるように。

誰もが経験するお父様との触れ合いは別として、異性とは、手をつなぐことまでしかしたことのないわたし。

殿下とも、まだ手をつないだだけだ。

それより先の世界に進んで行きたいという気持ちは強いが、経験が全くないので、怖いところもある。

しかし、わたしは、殿下に心がどんどん傾いてきている。

殿下がお求めになれば、この身を捧げていきたいと思っている。

こう思ってきて、わたしは、恥ずかしい気持ちになってきた。

いや、何を期待しているのだろう。

まだ出会ったばかりなのに、殿下がわたしをいきなり求めるわけはない。

これは、女性としての身だしなみだ。

とはいっても、ついつい期待をしてしまう。

それとともに、だんだん緊張してきてきた。

わたしは、お父様以外の異性と面と向かってきちんと話すことは、経験がある方ではない。

ルアンソワ様は、わたしと話すことが好きではなかったので、そういう機会はそれほど多くはなかった。

話がうまくできなくて嫌われたらどうしょう。

話のリード自体は殿下がしてくれると思う。

でもそれに甘えていると、

「あなたと話をしていてもつまらない。もう話をしたくないし、会いたくない」

と言われてしまうかもしれない。

そして、わたしは着替えをしたものの。今まできていた旅行用の服と種類は同じだ。

殿下と食事をするのに、この服では失礼になると思う。

とは言っても、わたしはドレスを持っていない。

リランテーヌ家を追放されたわたしには用がないものだと思っていたし、荷物としても多くなるので、持ってこなかった。

ドレスを着て殿下と食事をしたかった。残念だ。

でも服で嫌われることはないとは思うのだけど……。

わたしは、ルアンソワ様に婚約を破棄されてしまった。

その為だろう。

殿下についても、わたしのことを嫌ってしまうのではないか、と思ってしまう。

しかし、殿下はそういう人ではないという気持ちも強くなってきていた。

あれだけわたしに気配りをしてくれた人だ。

話がつまらないから、服がドレスではないからと言って、すぐ嫌いになることはないとはないと思うのだけど……。

とにかく一生懸命話そう。

それでも嫌われるのであればあきらめるしかないと思う。

いろいろ悩んでもしょうがない。前に進むだけだ。

そう思っていると、ドアがノックされた。

わたしがドアを開けると、側近の一人がいた。

今日の戦いで、殿下に言われてわたしを守り、わたしたちの宿屋の手配をしていた人。

戦いを中心にしている側近と、ここにいる身の回りの世話をする側近。

どちらも二十台後半のようだが、優秀な人たちのようだ。

「お嬢様、お食事の時間です」

側近はそう伝えてくる。

「ありがとうございます」

「ご準備ができているようでしたら、お食事のお席にご案内いたします」

「申し訳ありませんが、少しだけお待ちください」

わたしは、一回部屋の中へ行き、身だしなみをもう一度整えると部屋の外に出た。

「ではお願いします」

「かしこまりました」

わたしたちは、食事する場所へ向かっていく。

殿下といい食事をして、仲良くなっていくことができますように。

わたしはそう願った。
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