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仮想空間でセカンドライフ

第20話 ひろし、先生になる

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 おじいさんたちは1時間ほどバンド練習して休憩するとイリューシュがみんなに提案をした。

「みなさん、演奏もまとまって来たので、休憩したらメインクエストに行きませんか?」

「あ、行きたいです!」
「行こう!」
「よろしくお願いします」

 こうして全員一致でメインクエストに行くことになった。

 するとアカネはベースを壁に立てかけながらイリューシュに尋ねた。

「イリューシュさん、メインクエストって具体的に何やるんすか?」

「最初はピンデチの村の入口に居るNPCの老人に話しかけて、それから洞窟へ行ってドラゴンに負けるんです」

「負けるんすか?」

「ええ。負けるといってもHPギリギリでNPCの騎士に助けてもらうんですけどね」

「あ~、なるほど。それでメインクエストが始まるって感じかぁ」

「ふふふ。でもNPCの騎士の助けを借りずにドラゴンを倒すと、一気に第1章クリアですよ」

「あ、それいいっすね! おっしドラゴン倒すぞ!」

 アカネが気合を入れると、めぐもイリューシュに尋ねた。

「そういえば話は変わるんですが、バンドのオーディションって、いつなんですか?」

「次の金曜の夜ですよ」

「え! 今日火曜だから、あと3日ですか?」

「そうなりますね。ふふふ」

「やば! 学校のオンライン課題早く終わらせて家でも練習しないと!」

 それを聞いたアカネは下を向いて首を横に振った。

「そうだったぁ~。あたしもオンライン課題やんなきゃなぁ。英語と数学が全く分かんないんだよなー」

 それを聞いたイリューシュはアカネに提案した。

「あら、もし良かったら英語と数学をお教えしましょうか」

「え、ほんとすか!」

「ええ、わたしカリフォルニアの工科大学に行ってましたので英語も数学も得意なんです」

「「えー!」」

 おじいさんとめぐが驚くとアカネが笑いながら言った。

「ってか、イリューシュさん何でもできるから、ちょっと驚かなくなってきたよ」

「「はははは」」

 すると、めぐが思い出したようにアカネに言った。

「あ、そうだ。わたし提出課題もあるんだよね。しかも、裁縫さいほうか、デッサンか、書道なの」

「あ、そうだ、あたしも課題あった! たしか課題研究とか書道とかだったなぁ」

 おじいさんはそれを聞くと、少し遠慮しながら二人に言った。

「ええと……。もしよろしければ、書道ならお教えできますよ。書道は楷書かいしょ五段を持っていましたので」

「ええっ、五段!? おじいちゃん、お願い!」
「まじか! じいちゃん頼んだ!」

「はい、よろこんで」

 こうして、めぐとアカネは最高の家庭教師と書道の先生ができた。

 ◆

 おじいさんたちはしばらくお喋りを楽しむと、家から出てメインクエストへと向かった。

 すると、家から村へ向かう道の途中でアカネが何かに気づいて声を漏らした。

「あれ? 漆黒の剣士……だよな?」

 アカネの視線の先には不自然に体操をしている漆黒の剣士がいた。

 アカネに気づいた漆黒の剣士は、緊張した表情でアカネに話しかけてきた。

「や、やぁ。偶然だなぁ、アカネ。きょ、今日は天気がいいから海を見ながら、た、体操していたんだ」

 それを聞いたアカネは吹き出して漆黒の剣士にツッコんだ。

「おいおい、天気がいいと海見ながら体操するのかよ。面白いなぁ漆、し黒、しこっ、言いづらっ!」

「え、あ、あぁ、わたしの事は何て呼んでもいいぞ。言いやすい名前で呼んでくれ」

「えっと……、じゃあ黒ちゃんでいい?」

「あ、いや、えっと、じゃあ……、それで」

「おっけー、黒ちゃん!」

 するとイリューシュが笑顔で黒ちゃんに言った。

「黒ちゃんさん、これからメインクエストに行くのですが、おひまでしたらご一緒にいかがですか?」

「え、あ、わ、わたしでよろしければ、お手伝いいたします」

「ふふふ。では一緒に行きましょう」

 こうして黒ちゃんがメンバーに加わった。

 
 おじいさんたちは黒ちゃんとフレンド申請を交換しながら村の入口へ到着すると、震えて怖がるNPCの老人を見つけた。

 みんなが老人に近づくと、老人はおもむろに話し始めた。

「あれは一体なんだったのだろうか。わしが洞窟の前を通ると聞いたことも無いような恐ろしい声が……」

 おじいさんたちは老人の話を聞いてメインクエスト第1章をスタートさせると、黒ちゃんの案内で洞窟へと向かった。

 ◆

 おじいさんたちは洞窟にたどり着くと、黒ちゃんを先頭に中へ入っていった。

 黒ちゃんはおじいさんたちに振り返ると洞窟の説明をした。

「この洞窟は迷路のようになっていますので、わたしがご案内します。洞窟の中には……」

 黒ちゃんが説明をしていると、突然待ち構えていたアンデッド・モンスターたちが数体、一斉に襲い掛かってきた。

「グルルルル!」
「グァアア!」

 すると黒ちゃんが瞬時に「き付けスキル」を発動し、アンデッド・モンスター全員をき付けて言った。

「ここは、私が! 気をつけてください!」

 黒ちゃんはそう言って剣を抜くと、力づくで剣を振り回してアンデッド・モンスターをどんどん消滅させていった。

 ズバッ ズバッ ズバッ!

 おじいさんたちも微力ながら戦いに参加すると、あっという間にアンデッド・モンスターたちは全滅していった。

『4ポイントのステータスポイントを獲得しました』

 黒ちゃんは剣を納めると、おじいさんたちに言った。

「この洞窟は、このようなアンデッドモンスターが突然現れますので、気をつけてください」

 おじいさんたちは大きく頷いて返事をすると黒ちゃんは再び先頭に立って歩き出した。


 その後も黒ちゃんが次々と敵なぎ倒しながら洞窟を進んでゆき、おじいさんたちは後ろから援護しながら黒ちゃんに付いて行った。

 そして黒ちゃんは慣れたように洞窟をスイスイ進んでゆくと、あっという間に最短距離でボスの部屋にたどり着いた。

 黒ちゃんは奥にいるドラゴンを確認すると素早く攻撃強化薬を飲み干し、剣に着火剤をふりかけながら言った。

「ドラゴンは私がメインで戦います。ドラゴンを倒した時に部屋の中に居ればクリアになりますので、みなさんは無理せず援護をお願いします」

 黒ちゃんはそう言うと剣を床の石でこすって着火させ、炎をまとわせた剣を構えながら早足でドラゴンへ近づいていった。

 カツッ カツッ カツッ カツッ カツッ……

 黒ちゃんは、凄まじい闘気とうきを放ちながらドラゴンに近づいていくと、両手剣を横に構えて静止した。

 それを見たドラゴンは羽を広げて黒ちゃんを威嚇いかくすると、大きく咆哮ほうこうした。

「ギャォォオオオオ!!」

 そして大きく息を吸い込んで黒ちゃんをにらみつけると、カッと目を見開いて激しい炎のブレスを吐いた。

 ブォォオオオオオオ!

 その激しい炎は黒ちゃんを一気に包みこんだが、黒ちゃんはニヤリと笑った。

「これしきの炎など、そよ風に等しいわ!!」

 黒ちゃんはそう叫ぶとHPを減らしながら突っ込んで行き、大きく剣を振りかぶった。

「くらえぇぇえええ!」
 ズバン!!

 そして力づくで袈裟斬けさぎりを決めると、ひるんだドラゴンに強烈なタックルを食らわせた。

「でぇぇええい!」
 ドガン!

 さらに豪快に左拳ひだりこぶしでボディブローを叩き込むと、不器用に両手剣を握りしめて一気に斬り上げた。

「おりゃぁぁああ!」
 ズバッ!!

 するとドラゴンはたまらずり、今度は爪攻撃で黒ちゃんを狙った。

 ガキン!

 しかし黒ちゃんはそれを剣で弾くと、ドラゴンに向かって渾身こんしんの突きを食らわせた。

 ドスッ!

 ギャァオオオオ!
 ドスゥゥン……

 ドラゴンは堪らず仰向けに倒れたが、しぶとく黒ちゃんに炎のブレスを吐いた。

 ブォォオオオオオオ!

 しかし、黒ちゃんは炎をよける事もせずにドラゴンに馬乗りになると、剣を突き立ててトドメを刺した。

往生おうじょうするのだ!!」
 ドスッ!

『10ポイントのステータスポイントを獲得しました』

『メインクエスト 第一章 完』

 すると黒ちゃんの戦いぶりを見ていたアカネが大喜びで黒ちゃんに言った。

「おいおい黒ちゃん、カッコ良かったぜ! ガチンコ勝負だな! 援護するヒマも無かったよ!」

 黒ちゃんは笑顔を見せて答えた。

「アカネ、こういう戦い方の良さを分かってくれるか!」

「何も考えないで攻撃するだけの脳筋のうきんプレイだよな! カッコいいよ!」

「お、おう」

 黒ちゃんは一瞬、褒められてるのかディスられてるのか戸惑ったが、アカネが嬉しそうにしてるので良しとした。

 イリューシュはそんな二人のやり取りを見ながら笑顔で言った。

「では、帰りましょうか。黒ちゃんさん、よかったら家に寄っていきませんか?」

「え、いや、わたしは……、ええと」

 するとアカネが思い出したように黒ちゃんに言った。

「あ、そうだ、あたしベース弾けるんだ。黒ちゃん聞いてってよ!」

「え、あ、そ、そういうことなら!」

 黒ちゃんは足をそろえて直立した。

 こうして、おじいさんたちはG区画の家へ戻っていった。
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