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あの日の記憶
第30話 ひろし、強敵と対峙する
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ー オーディション会場 野外ステージ ー
野外ステージにライトが灯ると、大きなステージが明るく照らし出された。
たくさんの観客が見守る中、おじいさんたちはステージに上がって準備を始めた。
アカネはベースを肩から下げると、緊張しながらめぐに言った。
「なぁ、一番目なんて聞いてないよ。試合より緊張する!」
「アカネ、わたしだって緊張するよ。でもやらなきゃ!」
「そ、そうだよな」
するとその時、アカネの前の客席から声がした。
「アカネ!」
アカネは声のしたほうを見ると、客席の一番前に黒ちゃんがいるのを見つけた。
黒ちゃんは拳を前に出してアカネを応援すると、アカネは笑顔になって少し緊張がほぐれた。
その頃おじいさんはキーボードを見つめながら呟いていた。
「ええと、ド、レ、シ、ド、そして繰り返して……、次は2回お休み。うんうん、よし」
そしてイリューシュは、ドラムの調整を終えてリラックスしていると、客席にタマシリと奥さんを見つけてドラム・スティックを振った。
タマシリと奥さんはそれに気づくと、大きく手を振り返した。
するとその時、会場にアナウンスが流れた。
『みなさーん、こんばんは! 運営のタックです! 今日は盛り上がっていきましょう!』
「「「わーーー!」」」
『最初のバンドは……ピーーーー、ガガガガ、ピーーー』
突然アナウンスがノイズに変わった。そして、急に女性の声でアナウンスが始まった。
『ごめんなさいね。このイベントは中止よ。弱いプレイヤーには死んでもらうわ』
アナウンスと同時に、ステージの左端に黒のメンバーの魔法騎士と大弓使い、そして右端に魔術武闘家と召喚魔導士が現れた。
ザワザワザワザワ……
会場がザワめくと再びアナウンスが流れた。
『この会場は黒がハッキングしたわ。もうこのイベント会場は戦闘可能区域よ』
すると、そのアナウンスを合図に黒の大弓使いが観客の1人に矢を放った。
ズドッ!
矢は観客に刺さり、なんと観客のHPをゼロにした。
「え!? うそ……、イベント会場は安全地帯だって……」
シュゥゥウウ……
観客は消滅していった。
「「「うわーーー!」」」
観客や出演者たちは、VRグラスを外してログアウトしたり、会場の外へ逃げ出したりしてパニックになった。
会場には腕に覚えがあるハイレベル・プレイヤーだけが残り、ほとんどの観客が居なくなってしまった。
その様子を見ているかのように、またアナウンスが流れた。
『ここに残っているってことは、そこにいる黒のメンバーと戦う自信があるって事ね。あなたたちを歓迎するわ』
客席にいたハイレベル・プレイヤーたちはアナウンスを聞くと、ステージから少し距離を取りながら集まって会話を交わした。
「黒がハッキングだと……」
「そのようだな」
「しかし、あのステージの上にいるプレイヤーたちは不利すぎる。助けに行くか?」
「いや待て。おれたちが黒を倒せば恨まれる可能性がある。もし黒が本当にハッキングできるとしたら、何されるか分からんぞ」
「一理あるな」
「ここは様子を見よう」
「ああ、そうだな」
ハイレベル・プレイヤーたちは様子を見守ることにした。
一方、客席にいたタマシリは奥さんをログアウトさせると、イリューシュに加勢するためにステージに上がった。
そして客席の黒ちゃんは、腕を組んでステージ上のアカネとアイコンタクトした。
『まずは、ステージの奴らを片付けてちょうだい。あのエルフはイベント優勝者だけど他は無名の雑魚よ』
ステージの上に居たイリューシュ、めぐ、アカネ、そしておじいさんはアナウンスを聞いて戦闘態勢を整えた。
そして、アナウンスを聞いた黒の魔法騎士は剣を振り上げ、戦いの口火を切った。
魔法騎士は近くに居たアカネに斬りかかると、アカネはニヤリと笑って素早く避け、魔法騎士の横へとステップした。
それを見た魔法騎士は咄嗟に水平斬りに切り替えてアカネを狙ったが、アカネは身をかがめて剣をやり過ごした。
ブンッ!
水平斬りが空を斬ると、魔法騎士は大きく踏み込んで体勢を立て直し、剣を高く振りかぶって袈裟斬りを放った。
ブワッ!
「待ってたぜ!」
アカネはそう言って一瞬黒ちゃんに視線を移すと、黒ちゃんは即座に剣に着火剤をふりかけて走り出した。
そしてアカネは魔法騎士の袈裟斬りを流れるように受け流して腕を掴むと、素早く腰を入れて美しい一本背負いに持ち込んだ。
「やぁぁああ!」
ブワッ!
魔法騎士は思いもよらぬ攻撃で宙を舞うと、そのままステージの下へと投げ飛ばされた。
投げたアカネは大声で叫んだ。
「黒ちゃん!」
「おう!!」
黒ちゃんは体を低くして地面で剣に着火すると、ステージから落ちてくる魔法騎士を下から狙った。
「おぉぉぉおおぉぉおおお!」
黒ちゃんは両手に全身全霊を込めて豪快に剣を斬り上げると、落ちてくる魔法騎士を迎え撃つかのごとく、空高く吹き飛ばした。
ズバンッ!!
「ぐあぁぁ!」
吹き飛ばされた魔法騎士はあまりの破壊力に転がりながら着地すると、慌てて剣を構えなおして黒ちゃんを睨みつけた。
黒ちゃんは押さえきれない闘気を口から吐き出すと、剣を鷲掴みにしながら魔法剣士の元へと歩いていった。
その頃、めぐとおじいさんは召喚魔導士と対峙していた。
召喚魔導士はニヤニヤと笑いながら魔法陣を出現させ、軍神・零式の上位機種「軍神・零式改」を召喚した。
それを見ためぐは急いで杖を構えて詠唱し、先手を取った。
「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」
ガガーン!
めぐが大呪文を唱えると零式改を雷が襲った。
しかし、零式改は何事も無かったように戦斧を振り上げると、勢い良くめぐに向かって振り下ろした。
ブンッ!
「きゃぁ!」
めぐは避けたものの、完全には避けきれずにダメージを受けてしまった。
おじいさんはポケットから大きめの石を取り出すと、零式改の頭を狙って力いっぱい投げつけた。
シャァァア……ガンッ!
しかし、零式はHPを減らしたものの、攻撃の手を止めなかった。
ー 会場から少し離れた駐車場 ー
おばあさんとマユとメイとナミはオーディションを見るために会場に来ていたが、会場の異変に気づいてマユのモービルに隠れていた。
マユはおじいさんたちが戦っている様子を見ながら呟いた。
「あのおじいさんと女の子あぶない! ……でも黒のメンバーが相手じゃ、わたしたち助けてあげられないよ……」
それを聞いたおばあさんがマユの視線の先を見ると、遠くでおじいさんが戦っているのが見えた。
「あっ! 」
おばあさんは思わず声を出すと、居ても立っても居られなくなってマユに言った。
「戦えなくても何か出来る事があるはずよ。そうだ、お店の薬を持ってきて戦っているみなさんに渡しましょう!」
それを聞いた3人は大きく頷き、マユはピンデチに向かってモービルを走らせた
◆
その頃、イリューシュは少し離れたところで大弓使いと対峙していた。
大弓使いは、弓を構えるイリューシュを見て地面に唾を吐くと、偉そうに言い放った。
「おまえ本当に優勝したエルフか? 大弓に昇格転職も出来ねぇヤツが? ったく、いつまで弓引いてんだよ。大弓引いてみろよ!」
大弓使いは弓を構えて矢をつがえると、低い音を響かせながら矢を放った。
しかしイリューシュは笑顔で足を踏み鳴らすと、氷の壁が現れて矢を防いだ。
ガッ!
「なっ!」
大弓使いが驚いていると、イリューシュは笑顔で言った。
「ふふふ。わたし大弓も使えるんですけど、ちょっと見た目が好みじゃなくて」
「はぁぁ!? お前、足鳴らしの氷壁は賢者のスキルじゃねぇか」
「あ、そうでしたね。賢者だった時もありました。ふふふ」
大弓使いはそれを聞くと、手に汗を握りながら弓を構えた。
野外ステージにライトが灯ると、大きなステージが明るく照らし出された。
たくさんの観客が見守る中、おじいさんたちはステージに上がって準備を始めた。
アカネはベースを肩から下げると、緊張しながらめぐに言った。
「なぁ、一番目なんて聞いてないよ。試合より緊張する!」
「アカネ、わたしだって緊張するよ。でもやらなきゃ!」
「そ、そうだよな」
するとその時、アカネの前の客席から声がした。
「アカネ!」
アカネは声のしたほうを見ると、客席の一番前に黒ちゃんがいるのを見つけた。
黒ちゃんは拳を前に出してアカネを応援すると、アカネは笑顔になって少し緊張がほぐれた。
その頃おじいさんはキーボードを見つめながら呟いていた。
「ええと、ド、レ、シ、ド、そして繰り返して……、次は2回お休み。うんうん、よし」
そしてイリューシュは、ドラムの調整を終えてリラックスしていると、客席にタマシリと奥さんを見つけてドラム・スティックを振った。
タマシリと奥さんはそれに気づくと、大きく手を振り返した。
するとその時、会場にアナウンスが流れた。
『みなさーん、こんばんは! 運営のタックです! 今日は盛り上がっていきましょう!』
「「「わーーー!」」」
『最初のバンドは……ピーーーー、ガガガガ、ピーーー』
突然アナウンスがノイズに変わった。そして、急に女性の声でアナウンスが始まった。
『ごめんなさいね。このイベントは中止よ。弱いプレイヤーには死んでもらうわ』
アナウンスと同時に、ステージの左端に黒のメンバーの魔法騎士と大弓使い、そして右端に魔術武闘家と召喚魔導士が現れた。
ザワザワザワザワ……
会場がザワめくと再びアナウンスが流れた。
『この会場は黒がハッキングしたわ。もうこのイベント会場は戦闘可能区域よ』
すると、そのアナウンスを合図に黒の大弓使いが観客の1人に矢を放った。
ズドッ!
矢は観客に刺さり、なんと観客のHPをゼロにした。
「え!? うそ……、イベント会場は安全地帯だって……」
シュゥゥウウ……
観客は消滅していった。
「「「うわーーー!」」」
観客や出演者たちは、VRグラスを外してログアウトしたり、会場の外へ逃げ出したりしてパニックになった。
会場には腕に覚えがあるハイレベル・プレイヤーだけが残り、ほとんどの観客が居なくなってしまった。
その様子を見ているかのように、またアナウンスが流れた。
『ここに残っているってことは、そこにいる黒のメンバーと戦う自信があるって事ね。あなたたちを歓迎するわ』
客席にいたハイレベル・プレイヤーたちはアナウンスを聞くと、ステージから少し距離を取りながら集まって会話を交わした。
「黒がハッキングだと……」
「そのようだな」
「しかし、あのステージの上にいるプレイヤーたちは不利すぎる。助けに行くか?」
「いや待て。おれたちが黒を倒せば恨まれる可能性がある。もし黒が本当にハッキングできるとしたら、何されるか分からんぞ」
「一理あるな」
「ここは様子を見よう」
「ああ、そうだな」
ハイレベル・プレイヤーたちは様子を見守ることにした。
一方、客席にいたタマシリは奥さんをログアウトさせると、イリューシュに加勢するためにステージに上がった。
そして客席の黒ちゃんは、腕を組んでステージ上のアカネとアイコンタクトした。
『まずは、ステージの奴らを片付けてちょうだい。あのエルフはイベント優勝者だけど他は無名の雑魚よ』
ステージの上に居たイリューシュ、めぐ、アカネ、そしておじいさんはアナウンスを聞いて戦闘態勢を整えた。
そして、アナウンスを聞いた黒の魔法騎士は剣を振り上げ、戦いの口火を切った。
魔法騎士は近くに居たアカネに斬りかかると、アカネはニヤリと笑って素早く避け、魔法騎士の横へとステップした。
それを見た魔法騎士は咄嗟に水平斬りに切り替えてアカネを狙ったが、アカネは身をかがめて剣をやり過ごした。
ブンッ!
水平斬りが空を斬ると、魔法騎士は大きく踏み込んで体勢を立て直し、剣を高く振りかぶって袈裟斬りを放った。
ブワッ!
「待ってたぜ!」
アカネはそう言って一瞬黒ちゃんに視線を移すと、黒ちゃんは即座に剣に着火剤をふりかけて走り出した。
そしてアカネは魔法騎士の袈裟斬りを流れるように受け流して腕を掴むと、素早く腰を入れて美しい一本背負いに持ち込んだ。
「やぁぁああ!」
ブワッ!
魔法騎士は思いもよらぬ攻撃で宙を舞うと、そのままステージの下へと投げ飛ばされた。
投げたアカネは大声で叫んだ。
「黒ちゃん!」
「おう!!」
黒ちゃんは体を低くして地面で剣に着火すると、ステージから落ちてくる魔法騎士を下から狙った。
「おぉぉぉおおぉぉおおお!」
黒ちゃんは両手に全身全霊を込めて豪快に剣を斬り上げると、落ちてくる魔法騎士を迎え撃つかのごとく、空高く吹き飛ばした。
ズバンッ!!
「ぐあぁぁ!」
吹き飛ばされた魔法騎士はあまりの破壊力に転がりながら着地すると、慌てて剣を構えなおして黒ちゃんを睨みつけた。
黒ちゃんは押さえきれない闘気を口から吐き出すと、剣を鷲掴みにしながら魔法剣士の元へと歩いていった。
その頃、めぐとおじいさんは召喚魔導士と対峙していた。
召喚魔導士はニヤニヤと笑いながら魔法陣を出現させ、軍神・零式の上位機種「軍神・零式改」を召喚した。
それを見ためぐは急いで杖を構えて詠唱し、先手を取った。
「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」
ガガーン!
めぐが大呪文を唱えると零式改を雷が襲った。
しかし、零式改は何事も無かったように戦斧を振り上げると、勢い良くめぐに向かって振り下ろした。
ブンッ!
「きゃぁ!」
めぐは避けたものの、完全には避けきれずにダメージを受けてしまった。
おじいさんはポケットから大きめの石を取り出すと、零式改の頭を狙って力いっぱい投げつけた。
シャァァア……ガンッ!
しかし、零式はHPを減らしたものの、攻撃の手を止めなかった。
ー 会場から少し離れた駐車場 ー
おばあさんとマユとメイとナミはオーディションを見るために会場に来ていたが、会場の異変に気づいてマユのモービルに隠れていた。
マユはおじいさんたちが戦っている様子を見ながら呟いた。
「あのおじいさんと女の子あぶない! ……でも黒のメンバーが相手じゃ、わたしたち助けてあげられないよ……」
それを聞いたおばあさんがマユの視線の先を見ると、遠くでおじいさんが戦っているのが見えた。
「あっ! 」
おばあさんは思わず声を出すと、居ても立っても居られなくなってマユに言った。
「戦えなくても何か出来る事があるはずよ。そうだ、お店の薬を持ってきて戦っているみなさんに渡しましょう!」
それを聞いた3人は大きく頷き、マユはピンデチに向かってモービルを走らせた
◆
その頃、イリューシュは少し離れたところで大弓使いと対峙していた。
大弓使いは、弓を構えるイリューシュを見て地面に唾を吐くと、偉そうに言い放った。
「おまえ本当に優勝したエルフか? 大弓に昇格転職も出来ねぇヤツが? ったく、いつまで弓引いてんだよ。大弓引いてみろよ!」
大弓使いは弓を構えて矢をつがえると、低い音を響かせながら矢を放った。
しかしイリューシュは笑顔で足を踏み鳴らすと、氷の壁が現れて矢を防いだ。
ガッ!
「なっ!」
大弓使いが驚いていると、イリューシュは笑顔で言った。
「ふふふ。わたし大弓も使えるんですけど、ちょっと見た目が好みじゃなくて」
「はぁぁ!? お前、足鳴らしの氷壁は賢者のスキルじゃねぇか」
「あ、そうでしたね。賢者だった時もありました。ふふふ」
大弓使いはそれを聞くと、手に汗を握りながら弓を構えた。
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