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白の脅威

第64話 ようこ、店の名前が決まる

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 その頃、おばあさんたちはピンデチの店で、店の名前の候補を書いて並べていた。

 名前の候補はこのようなものだった。

「ハッピーショップ」
「キラキラ道具店」
「元気商店」
「よろずや」
「便利ショップ」
「なかよし商店」
「おくすり屋さん」

「「うーん」」

 みんなが悩んでいると、お客さんが1人やってきた。

「すみません、防御強化薬5つくださーい」

「はい、いらっしゃいませ! ありがとうございます!」

 そこに居た全員が笑顔でお客さんを迎えた。

 それを見て、つられて笑顔になったお客さんは嬉しそうに答えた。

「なんだか、笑顔で元気もらっちゃったなぁ」

 おばあさんは商品を持ってくると、お客さん渡しながらお礼をした。

「そう言ってもらえると嬉しいわ。またよろしくお願いしますね」

「うんまた来るよ! はい、お金。ありがとね」

「ありがとうございました」

 その時、おばあさんは閃いてみんなに言った。

「ねぇ。お店の名前、スマイル道具店なんてどうかしら」

 それを聞いたみんなは顔を明るくして言った。

「「いいね!」」

 こうして、おばあさんたちのお店の名前は「スマイル道具店」に決まった。

 するとマユが右腕を上げながらみんなに言った

「さて、お店の名前も決まったことだし、お仕事しよう!」

「「おーー!!」」

「じゃあ……。あ、そうだ。美咲ちゃんモービル持ってたよね」

「うん」

「よかったら和代さんと一緒に砂漠地帯に行って砂漠キノコをお願いしても良い?」

「うん、わかった。一緒に行ってくる」

「ありがとう! 頼りになるよ」

「うん、まかせて」

「じゃあ、わたしとメイとナミと洋子ちゃんは森でキノコと薬草を集めたらコーシャタで2号店の買い物ね」

「「はい」」

「哲夫さんは、また店番をおねがいしても良いかなぁ」

「もちろん!」

「助かります! じゃあ、これで決まりだね。よし、後半も頑張ろー!」

「「おー!」」


 ー ピンデチの大通り ー

 美咲と和代は砂漠地帯へ行くためにピンデチの大通りを歩いていると、たくさんの場所にバスの告知がされている事に気付いた。

 ーーーーーーーーーーー
 ピンデチ・コーシャタ間往復バス就航!

 本日午後2時に最初の便が発車いたします。

 片道20プクナでご利用いただけますが、なんと14日間は運賃無料!!

 ぜひお試しください!
 ーーーーーーーーーーー

 それを見た美咲はウンウンと頷きながら和代に言った。

「バス、いいかも。バスでがあったら、おばあちゃんもおじいちゃんとコーシャタでデートできるね」

「あら。そのコーシャタっていうのは、どんな所なのかしら」

「そのまんま新宿だよ」

「あら! 新宿なつかしいわ。哲夫さんと初めてのデートで映画を見に行ったのよ」

「ふふ。映画館もあるよ」

「あらまぁ。じゃあ、今度ちょっと行ってみようかしら。うふふ」

 美咲と和代は楽しくおしゃべりをしながら村の外に出ると、美咲はビッグ・スクーターのモービルを出現させた。

 そして美咲はモービルにまたがって和代に言った。

「おばあちゃん、後ろに乗れる?」

「ええ? え、ええ。……よいしょ」

 和代は恐る恐る美咲の後ろに乗った。

「いくよ、おばあちゃん。しっかりつかまってて」

「はい」

 美咲はビッグ・スクーターを静かに発進させると、ゆっくりと加速していった。

「おばあちゃん、大丈夫?」

「ええ! すごいわね、とっても気持ちいいわ!」

「よかった」

 美咲と和代は笑顔になりながら砂漠地帯に向かった。

 ◆

 バスが運行を開始する午後2時になると、ピンデチの村の外に停車しているバスは一気に満員になった。

 そして用意した3台のバスはフル稼働になりそうだった。

 そこにいた社長は、同行した専務の大谷と嬉しそうにその様子を眺めていた。

「大谷くん、まさかこれほど需要があるとは」

「はい。調べてみると、かなりの数のプレイヤー様がピンデチ付近にいまして、皆さん新しい楽しみ方をされているようです」

「やはり、もうバトルだけでは無くなったのだな」

「はい、そのようですね」

 すると、元自衛官で運転手の山口が、同じく運転手の大槻と木下に出発の指示を出した。

「では、安全運転で行きましょう。隊列を乱さずお願いします」

「「はい!」」

 3人はバスに乗り込むと、ゆっくりとバスを出発させた。

 そして、綺麗に3台の隊列を組み、コーシャタへと向かっていった。


 バスを見送った大谷は、気になっていた事を社長に尋ねた。

「社長、そういえば大熊笹さんはバスの運行はしないのでしょうか」

「大熊笹さんには別の仕事をお願いしたんだ」

「なるほど、どんな仕事でしょうか」

「では、一緒にピンデチふれあい苑へ行こうではないか」

「はい」

 社長と大谷はピンデチふれあい苑へ向かった。

 ◆

 社長たちは時計台を過ぎてピンデチふれあい苑が見えてくると、大きな看板も見えてきた。

 ーーーーーーーーーーー
 金メダリストに柔道を教わろう!

 オリンピック金メダリスト大熊笹先生が稽古をしてくださいます。

 午後1時30分より、当ピンデチふれあい苑3階道場にて開催!

 初心者からベテランまで、ふるってご参加ください。
 ーーーーーーーーーーー

 それを見た大谷は笑顔になって社長に言った。

「なるほど、これは良いですね」

「うむ。この様な事が出来るのは、大熊笹さんくらいだからな」

 2人は話しながらピンデチふれあい苑に入って3階へ上がると、道場では大熊笹と助手の黒ちゃんが大勢の人を指導していた。

「大谷くん、ここから次の金メダリストが誕生したら嬉しいな」

「そうですね」

 2人はそう言ってしばらく見学をしていると、ひとりの女の子が道場から走って出てきた。

 そしてそのまま階段を降りていくと、それを見ていた社長と大谷は気になって一緒に階段を降りていった。

 ◆

 社長と大谷は1階まで降りてくると、食堂で柔道着を着た女の子が元気なおばあさんたちと話しているのを見つけた。

「あたし、やっぱり柔道向いてなかったみたい……。自信なくしちゃった……」

「あら、向いてないとダメかしら?」

「え?」

「あたしたちはね、みんな楽器が下手だけど現実世界でもバンドやってるのよ」

「そうなんですか?」

「ええ、音楽が好きだから下手でもやりたいの。あたしたちなんて絶対バンド向いてないわよ。でも音楽やってはダメかしら?」

「いえ、そんなことは……」

「あなた柔道が好きなんでしょ?」

「はい」

「じゃあ、向いてなくたってやればいいのよ。誰もそれを止める権利なんてないわ」

「……うん」

 女の子は少しだけ笑顔になった。

「あら、笑顔がとっても可愛いじゃないの! 今日の柔道教室だって、本当は興味があるんでしょ」

「うん」

「じゃあほら、早くいきなさい。終わっちゃうわよ!」

「うん、やっぱり行ってくる。ありがとう」

「お礼なんていいから、早く行きなさい!」

「うん!」

「楽しむのよー!」

「ありがとー!」

 柔道着を着た女の子は走って階段を駆け上った。

 その様子を見ていた社長は元気なおばあさんたちのところへ行くと頭を下げながらお礼をした。

「みなさまのご協力、感謝いたします」

「あら、社長さんじゃない。そういえばデートの事は忘れちゃったのかしら?」

「「あっはっはっはっは」」

 元気なおばあさんたちが笑うと社長は中世の騎士のように片膝をついて答えた。

「これはこれは、失礼いたしましたお姉さま方! しばらくするとコーシャタ行きのバスが戻りますのでデートへ参りましょう!」

「あら、バスでどこへ連れて行ってくれるのかしら」

「ショッピングなどはいかがでしょうか。わたしと専務の大谷がエスコートいたします」

「あらぁ、しょうがないわね。みんなエスコートしてもらいましょ!」

 社長はそれを聞くとスッと立ち上がって笑顔で会釈し、元気なおばあさんたちに言った。

「バスが戻るまでカフェでもいかがですか? おいしいスイーツがございますので」

「まぁ、さすが社長さんだわ。お誘い上手ねぇ」

「「あっはっはっは」」

 こうして社長と専務の大谷は元気なおばあさんたちを連れて村のカフェへと向かった。
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