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11 魔物の進軍

65 復活

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 2体の龍の鱗がぶつかり合い、火花を散らす。サザンの爪は司祭の堅い甲殻を貫くことは出来ず、即死効果を与えることは出来ない。だが攻撃が通らないのは司祭も同じだった。

「おかしい……! 私が研究し作り上げたこの力は無敵なはず……!」

 己の攻撃がサザンに通らないことに苛立ちを隠せない司祭。

「私は無敵でなければならないのです……!!」

「くっ……!」

 司祭は攻撃の速度を上昇させ、サザンを徐々に押し返していく。

 司祭の爪や牙はどれだけサザンに砕かれようと、新しいものがいくらでも生え続ける。それに対してサザンの体力も爪も鱗も回復能力向上の付与魔法をエンチャントしているとはいえ、司祭の再生能力には及ばなかった。

「ぐあぁっ」

「そうです! これこそ私の思い描いていた光景!」

 限界を超えたサザンの甲殻は砕け、守るものを失ったサザンの肉に司祭の爪が深々と突き刺さっていく。

「いかなる強敵であろうと、それよりもさらに強くなっていく……それこそが私の作り出した祝福の魔龍の力なのです……!!」

 司祭はここぞとばかりに攻撃を繰り返す。防御態勢を取るサザンだがその全てを防ぎきることは出来ず、徐々に傷が増えて行く。

「サザン……!」

「助けに行きましょう!」

「駄目だ」

「どうして!」

 司祭の方へ向かって行こうとするギラ。それをルカが止める。その表情は悔しさと自分自身の無力さへの怒りが入り混じったものだった。

「今俺たちが混ざったところで瞬殺されるだけだ。足手まといなんだよ……俺たちは」

 血が流れ出るほどに強く拳を握りしめるルカ。3人はただ見ていることしか出来なかった。

「これなら……どうだ……!」

 サザンはブレスを溜め、司祭へ放つ。炎の塊が司祭の首を吹き飛ばし、その身を焼く。

「やったか……?」

 動きを止めた司祭を見て一瞬勝利を想起したサザンだが、首を失った司祭の体が再び動き始めたことでその想いは霧散した。

 数秒後、司祭の首からでゅるんと新たな首が生えてくる。そして炎に焼かれた鱗も瞬く間に元通りになっていた。

「やはり最強なのですよ私は。もはや敵なしなのです。さあ、さっさと諦めなさい」

 ジリジリと司祭は歩みを進める。それなりの魔力を注ぎ込んだブレスが通用しないとわかったサザンには焦りが見えていた。そのためサザンは徐々に近づいてくる司祭から距離を取ろうと後ずさりをしていたのだが、すぐ後ろにルガレア王国の城壁が当たることでそれ以上後ろに下がれないことに気付く。いつの間にか壁際まで追い込まれていたのだ。

 司祭が逃げ場を失ったサザンに向けて腕を振り下ろした時、突然後方から魔法が放たれたのだった。

「さっきはああ言ったが、やはり黙って見ているだけなんて出来ない……。 サザン! すまん、俺にはこれしか出来ないが、今の内に!」

 司祭の後方へと周りこんでいたルカが、空気の壁を生み出し対象を拘束する風魔法を放ったのだ。

「いや、十分だ!!」

 サザンは司祭の首をがっちりと掴み、唯一甲殻で覆われていない部分である目に爪を食いこませる。即死魔法をエンチャントしてある爪攻撃によって、司祭の体は徐々に崩れ始める。

「今度こそ……っ!?」

 サザンが爪を引き抜き司祭の首を放すと、司祭の体は力なく崩れ落ちた。しかしその後、再生が始まったのだ。

「即死魔法は確かに発動したはずだ……なのに何故……!」

「……どうやら、今の私には即死すらも効かないようですねぇ」

 完全に体を再生させた司祭は体勢を立て直し、意気揚々とそう言った。

「私の再生能力は即死すらも無効化する。正真正銘、私は不死になったのです!」

 高らかに笑う司祭。サザン、ルカ、ラン、ギラの4人はその光景に絶望感を覚えたのだった。

「即死すらも効かないのか……一体どうすれば良い……? 物理攻撃はヤツの鱗に阻まれて通用しない。それにブレスは連発出来無いからヤツの再生能力の前には意味が無い……。強化魔法をエンチャントしたところで結果は同じだろうし……」

 何か無いかと考えるサザンだったが、自分に出来る攻撃手段は全て司祭には通用しないものだった。

「せめて、ヤツを一撃で消滅させられるほどの威力があれば……」

 いかに司祭の再生能力が高いと言えど、体の全てが消滅してしまえばそれ以上再生は出来ない。そのことに気付いていたサザンではあったが、今のサザンはそれだけの威力を出せる攻撃手段は持ち合わせていない。そう、今は。

「もっと威力の高い攻撃……」

 今のサザンには使えなくとも、かつてのサザンには高威力の攻撃手段があった。

「……魔力砲」

 サザンの形態の一つであった巨砲龍。その巨砲龍の持っていた魔力砲なら、司祭の体を全て消滅させられるほどの威力を出せただろう。

 しかし今のサザンには魔力砲が撃てない。

「……そうか、巨砲龍の力があれば!」

 サザンは腹側に仕舞っていた鞄から巨砲龍の鱗を取り出す。

「今更何をしようと言うのですか?」

「お前に勝てる方法がわかったんだ」

「何を世迷言を。貴方の攻撃は私には通用しない。それは既に分かっているでしょう?」

 余裕そうな表情と声色でそう語る司祭。

「取り込むには傷が必要か……うぐっ……」

「な、何をしているのです……!?」

 突然目の前で自らを攻撃するサザンに驚愕する司祭。サザンはそんな司祭を気にもせず、巨砲龍の鱗を自らの中に取り込んだ。

「この感覚……あの時と同じ!」

 サザンは眩い光りに包まれる。そして光が晴れた時、そこには巨砲龍の姿があった。数倍に巨大化した体の中心には巨大な砲塔。かつてイル・クロマを打ち倒した巨砲龍の力を、サザンは取り戻したのだ。

「な、なんなのですかその姿は!?」

「ふぅ……覚悟は出来たか?」

「くっ、姿が変わったとはいえ私の優位性は揺らがないのですよ!」

 司祭はサザンに攻撃を仕掛けるが、その攻撃は全てより強固になったサザンの甲殻に弾かれてしまう。

「な、何故……通らないのですか」

「本当は可能な限り苦しみを与えて殺したいところだが、お前の性質上それは出来ない。だから一撃で終わらせる」

 サザンは魔力を体の中心にある巨砲に集中させる。

「おっと、このまま撃つのは不味いな」

「な、放しなさいっ! くっ先程までとはパワーが……ぐあぁぁっ」

 そのまま魔力砲を撃つと万が一撃った先に街があった場合に甚大な被害が出てしまうため、サザンは司祭を掴み上空へと放り投げた。

「……魔力砲、発射!」

 凝縮された魔力砲が放たれ、司祭の体を焼く。

「い、いやだ……死にたくない……死にたくない!! 助けてくれ……! 助け……」

 放たれた魔力の塊は、司祭の何もかもを消滅させる。細胞一つ残らず消滅させられた司祭はそれ以降再生することは無かった。

「……終わったのか。鱗を使って巨砲龍の力は復活出来た。もしかしたら他の形態も復活させられるかもしれない……!」

 何故か他の形態の力が使えなくなっていたサザンにとって、この事実はとても重要なものだった。こうしてサザンは他の取引先を壊滅させるのと同時に、自らの力を復活させることも目的の一つにするのだった。

魔物の進軍 完
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