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第三章

第八話 探査魔法さえあれば、余裕で中の様子が見える!

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 ダンジョンに辿り着いたころ、俺は精神的に疲弊していた。

 まさか、マリーに続いてクロエにも洋服選びの意見を聞かれるとは思ってもいなかったよ。まぁ、俺にとって難題だったけど、上手く彼女の機嫌を悪くさせることなく、無事に終わらせることができてよかった。

「それじゃあダンジョンの中に入るとしますか。ファイヤーボール」

 いつものように火球の魔法を唱えて松明代わりにする。周囲の酸素を飲み込み、威力が上がった火の玉は、周辺を明るく照らす。

 ダンジョン内に入る準備を終え、俺が先頭になって先を進んでいく。

 中には当然魔物がおり、侵入者である俺たちを襲ってきた。けれど、攻撃を仕かけてくる魔物は、Ⅾランクの魔物ばかりだ。

 俺にとっては赤子の手をひねるようなものだったので、マリーたちの戦闘経験を積むためにも、俺はサポートに回る。

「優雅に、可憐に、大胆にですわ」

「お願い、当たって」

 マリーは鞭で、クロエは弓で魔物に攻撃する。

「エンハンスドボディー、スタビライティースピリット」

 マリーには肉体強化の魔法、エンハンスドボディーを、クロエには強制的にリラックスさせる魔法、スタビライティ―スピリットをそれぞれにかける。

 魔法の影響を受けた二人は、瞬く間に魔物を倒していく。

「ワタクシとシロウの共同作業の前には、いかなる魔物も太刀打ちできませんわね」

「まさか、私が魔物を倒す日がくるなんて、エルフなのに弓が苦手だったから、ポーターをやっていた私が」

 襲ってきた魔物を倒した二人が、口々と喜びの声を上げる。

「お疲れ、クロエは今の感覚をなるべく覚えておくように、弓は心を映す鏡だ。今まで的に当てることができなかったのは、緊張して変に力が入っていただけ、リラックスして精神を集中させれば、本来の君はあれぐらいの実力を出せる」

 俺はエルフの女の子を労う。すると彼女は小走りで駆け寄ってくると、俺の手を握ってきた。

「はい! お陰で自信がつきました。これも全てあなたのお陰です」

 クロエは緑色の瞳で俺を見ながら、尊敬している眼差しを向けて、目をキラキラさせていた。

 正直に言って、俺のほうも驚いたよ。俺はただ肩の力を抜くようにサポートしたにすぎない。けれど、それだけで彼女はあんな風に敵に必中させていた。クロエは、元から弓の才能に長けていたみたいだな。

「いや、あれはクロエの実力だ。今まではその実力の十パーセントも出せていなかっただけだよ」

「何を言っているのですか! 気づくきっかけをくれたのはシロウさんではないですか。あなたと出会っていなければ、今の私はまだまだ底辺のままでしたよ。本当にシロウさんは私にとって神様です」

 俺のことを神と言うクロエの言葉に、少し照れてしまう。

 本当に俺のしたことはたいしたことはない。ただきっかけを作ってあげたにすぎないのだから。

「シロウ! ワタクシを差し置いて、クロエといちゃつかないでください。ワタクシも頑張りましたわ」

 クロエが褒められているのを見て、自分も褒めてほしいと思ったようだ。マリーもこちらに来ると頭を突き出す。

 頭を撫でろってことだよな。まったく、しょうがないお嬢様だ。

「マリーもよく頑張ったな」

 俺はマリーの金髪の上に右手を置くと、優しい手つきで撫でる。

「シロウさん、こんなところで道草食っていないで、早く先に行きますよ」

 数秒間だけ頭を撫でていると、クロエが突然俺の左腕を引っ張り、ダンジョンの奥へ進んでいく。

 クロエのやつ張り切っているなぁ。やっぱり、矢が当るようになって、嬉しいのだろう。

 ダンジョンの奥に向けて歩いていると、ロアリングフルートがいた広い空間に辿り着いた。

 前回はここで行き止まりになっていたが、先につながる通路ができていた。

「数日の間に新たな道ができていますわね。いったい誰が掘ったのでしょうか?」

「よく見てくれ。この通路は、人の手で掘ったにしては綺麗すぎる。おそらく魔法によるものだろう。念のために調べてみる」

 俺は両手を前に突き出すと、瞼を閉じて精神を集中させる。

「エコーロケーション」

 探査魔法を唱え、俺は前方に超音波を飛ばして通路の奥の状況を把握する。

「どうやらこの先は一本道のようだ。複数の反応がある。行方不明となった冒険者は、この先にいるかもしれない」

「え! 先の状況が分かったですの?」

「凄い、凄い! 音の波が見えたけど、あれで分かったの!」

 奥の様子を彼女たちに伝えると、マリーは驚き、クロエは目を輝かせた。

 彼女は音を可視化することができるスキル【絶対音視】が使える。それにより、音を見ることができる。

「ああ、俺は魔法で超音波を前方に飛ばした」

「あ、あれって超音波だったんだ」

「そう、前方がただの虚空なら、音はそのまま消えていくけど、何かに触れると音波が跳ね返ってくる」

「つまり、何かに触れて跳ね返ったことで、奥に誰かがいることがわかったんだね」

 彼女の言葉に、俺は頷く。

「そう、これで相手の位置を割り出すことが可能なんだ。だけどこれが非常に難しい。跳ね返った音を正確に捉えないといけないから、音の角度を正確に測定しなければ、相手のいる方向がわからなくなる。さらに、音を発信してから反射するまでの時間を測定しないと、相手までの距離がわからないのだ」

「うわーめちゃくちゃ難しそう」

「でもこれさえクリアすれば大きな情報量になるんだ。反射の強さから、相手の大きさも判断できる。それに音波の発生源と観測者との相対的な速度の存在によって、音と動く物体の波の周波数が異なって観測できる」

「なるほど、確かにそれなら、相手が遠ざかっているか、近づいているかも知ることが可能だね」

 さすが【絶対音視】のスキルを持つだけあって、俺の説明を理解できているようだ。

 マリーに視線を向けてみると、彼女は理解していないようで首を傾げていた。

 やっぱり彼女には理解させるのは難しいみたいだ。

 うーん、なんて説明しようか。

「つまりだな。俺が放った音波がマリーに当たったとするだろう。すると音というものは何かに当たると跳ね返ってくるんだ。その跳ね返った音が自分のところに戻るまでの時間を計算して、相手との距離を把握することができるんだ」

 俺は身振り手振りでなるべくわかりやすく説明をする。

「今ので分かったか?」

「ええ、わかりましたわ。さすがシロウです」

 マリーは苦笑いを浮かべながら俺を見る。本当に理解しているのだろうか。正直心配だ。

「そんなことよりも、この先に行方不明の冒険者たちがいるのですよね。なら、早く行きますわよ」

 マリーが俺の腕を掴むと強引に引っ張り、通路のほうに連れて行く。

 この先に行方不明の冒険者がいる。だけど何でだろう。何か嫌な予感がしてならない。












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