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5-2 招かれざる客
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「騒々しいですわ。何事です?」
コツコツとヒールの音を響かせてやって来たのは王女殿下だった。
「王女殿下。申し訳ございません。こちらの者がパーティの招待状を持っていないにも関わらず、参加させろの一点張りで」
ベッキーは頭を下げた。
「信じられない」
いつも穏やかで優しい王女殿下とは思えないくらい冷たい声だった。
「申し訳ございません。私がきちんと受付で帰らせていれば・・・・・・」
「レベッカに言ってるんじゃないの。あなたは何も悪くないわ」
王女殿下は冷たい目でミランダを見た。
「招待状をもらってもいないのに私のパーティに図々しくもやって来たそこの令嬢がいけないのよ」
王女殿下ははっきりとそう言い放った。ミランダは顔を歪ませて王女殿下を睨みつける。何て身の程知らずだろう。
王女殿下は苦笑いを浮かべた。
「私が今日、どんな方を招待したのかご存知?」
「・・・・・・どうせ、身分の高い人なんでしょっ!」
ミランダは憎々しげにそう言った。王女殿下は呆れたと言わんばかりに首を振った。
「違うわ。身分の高くない方にも来ていただいているもの。平民の方もいらっしゃるのよ」
子爵や男爵の令嬢と思しき方々がいたのは分かっていたけど、まさか平民もいるなんて。王女殿下は身分や地位で人を判断しないと聞いていたけど。まさか、パーティに呼ぶとは思わなかった。
「そんなに驚くことかしら?」
王女殿下は首を傾げてみせる。少しあざといけど、それが何とも愛らしい。
「私が今日ここに呼んだのは、仲のいい方々と、これから仲良くしていきたい方々よ。単純でしょ?」
にこりと笑って王女殿下は腕を組んだ。
「あなたはどちらにも当てはまらないわ。仲良くなりたいと思わないし、なれそうにないもの。私の大切な女官に暴力を振るうような最低な人間とはね」
王女殿下はベッキーに向き直った。
「レベッカ、着替えて来なさい。風邪を引いたらいけないから」
「かしこまりました」
ベッキーはお辞儀をして立ち去った。彼女に付き添おうとしたら、「大丈夫だから」と諭された。心配だったけど、ここは私の家でもベッキーの家でもないから、大人しくここに留まるほかない。
「あなたは身の程わきまえない世間知らずにも程があるわ」
王女殿下はミランダに向かって言った。
「レベッカは私の侍女なの。この意味、分かるかしら? 彼女は私の補佐をする仕事に就いているの。あなたはレベッカのことをただの雑用係のメイドか何かと勘違いしているようだけど、全然違うのよ? レベッカは身分も地位もあなたより格上。そんな人に暴力を振るうだなんて・・・・・・」
王女殿下がそこまで言った時、衛兵たちがぞろぞろと集まって来た。
「彼女を牢屋に入れてちょうだい」
王女殿下はミランダを指さして言った。衛兵たちはすぐさまミランダを取り押さえて彼女を引きずっていく。
ミランダはぎゃあぎゃあと喚き散らして暴れていたけど、屈強な男たちに対抗することはできなかった。声はどんどん小さくなり、やがて聞こえなくなった。
「みなさん、お騒がせして、申し訳ありませんわ。パーティは始まったばかりです。これから楽しい催しものをいくつか行いますので、どうか私に挽回の機会を下さい」
王女殿下は高らかに言ってお辞儀をした。誰ともなく、「王女様は悪くないです」「もちろんです!」という声が上がり、拍手が巻き起こった。
「ありがとうございます。みなさんが優しい方々でよかった」
王女殿下がそう言うと、優雅な音楽が流れ始めた。楽団の方が気を使って演奏を始めてくれたのだろう。そのおかげで、ミランダが来る前の明るい雰囲気に戻った。
「ローズ、流石だよ」
アーサー様が言うと王女殿下はにこりと笑った。
「お兄様に褒めてもらえるなんて、とても嬉しいわ」
王女殿下にとってアーサー様は叔父にあたるはずなのだけれど。二人は歳が近いから、そう呼んでいるのだろう。
王女殿下はこちらに向き直った。
「ごめんなさい。公女様。警備が不十分だったばっかりに、あなたの前にあんな人が現れることになってしまって」
「いえ、王女殿下や警備の方のせいじゃないです。ミランダは必死過ぎて変な行動を取る人ですから・・・・・・」
「まあ。・・・・・・噂通りの方なのか気になるけど、今はそういう話をしている場合じゃありませんね」
王女殿下はそう言いながらアーサー様の顔を見てニヤニヤと笑った。こほんとアーサー様は咳払いをする。
ーー二人とも、どうしたんだろう?
コツコツとヒールの音を響かせてやって来たのは王女殿下だった。
「王女殿下。申し訳ございません。こちらの者がパーティの招待状を持っていないにも関わらず、参加させろの一点張りで」
ベッキーは頭を下げた。
「信じられない」
いつも穏やかで優しい王女殿下とは思えないくらい冷たい声だった。
「申し訳ございません。私がきちんと受付で帰らせていれば・・・・・・」
「レベッカに言ってるんじゃないの。あなたは何も悪くないわ」
王女殿下は冷たい目でミランダを見た。
「招待状をもらってもいないのに私のパーティに図々しくもやって来たそこの令嬢がいけないのよ」
王女殿下ははっきりとそう言い放った。ミランダは顔を歪ませて王女殿下を睨みつける。何て身の程知らずだろう。
王女殿下は苦笑いを浮かべた。
「私が今日、どんな方を招待したのかご存知?」
「・・・・・・どうせ、身分の高い人なんでしょっ!」
ミランダは憎々しげにそう言った。王女殿下は呆れたと言わんばかりに首を振った。
「違うわ。身分の高くない方にも来ていただいているもの。平民の方もいらっしゃるのよ」
子爵や男爵の令嬢と思しき方々がいたのは分かっていたけど、まさか平民もいるなんて。王女殿下は身分や地位で人を判断しないと聞いていたけど。まさか、パーティに呼ぶとは思わなかった。
「そんなに驚くことかしら?」
王女殿下は首を傾げてみせる。少しあざといけど、それが何とも愛らしい。
「私が今日ここに呼んだのは、仲のいい方々と、これから仲良くしていきたい方々よ。単純でしょ?」
にこりと笑って王女殿下は腕を組んだ。
「あなたはどちらにも当てはまらないわ。仲良くなりたいと思わないし、なれそうにないもの。私の大切な女官に暴力を振るうような最低な人間とはね」
王女殿下はベッキーに向き直った。
「レベッカ、着替えて来なさい。風邪を引いたらいけないから」
「かしこまりました」
ベッキーはお辞儀をして立ち去った。彼女に付き添おうとしたら、「大丈夫だから」と諭された。心配だったけど、ここは私の家でもベッキーの家でもないから、大人しくここに留まるほかない。
「あなたは身の程わきまえない世間知らずにも程があるわ」
王女殿下はミランダに向かって言った。
「レベッカは私の侍女なの。この意味、分かるかしら? 彼女は私の補佐をする仕事に就いているの。あなたはレベッカのことをただの雑用係のメイドか何かと勘違いしているようだけど、全然違うのよ? レベッカは身分も地位もあなたより格上。そんな人に暴力を振るうだなんて・・・・・・」
王女殿下がそこまで言った時、衛兵たちがぞろぞろと集まって来た。
「彼女を牢屋に入れてちょうだい」
王女殿下はミランダを指さして言った。衛兵たちはすぐさまミランダを取り押さえて彼女を引きずっていく。
ミランダはぎゃあぎゃあと喚き散らして暴れていたけど、屈強な男たちに対抗することはできなかった。声はどんどん小さくなり、やがて聞こえなくなった。
「みなさん、お騒がせして、申し訳ありませんわ。パーティは始まったばかりです。これから楽しい催しものをいくつか行いますので、どうか私に挽回の機会を下さい」
王女殿下は高らかに言ってお辞儀をした。誰ともなく、「王女様は悪くないです」「もちろんです!」という声が上がり、拍手が巻き起こった。
「ありがとうございます。みなさんが優しい方々でよかった」
王女殿下がそう言うと、優雅な音楽が流れ始めた。楽団の方が気を使って演奏を始めてくれたのだろう。そのおかげで、ミランダが来る前の明るい雰囲気に戻った。
「ローズ、流石だよ」
アーサー様が言うと王女殿下はにこりと笑った。
「お兄様に褒めてもらえるなんて、とても嬉しいわ」
王女殿下にとってアーサー様は叔父にあたるはずなのだけれど。二人は歳が近いから、そう呼んでいるのだろう。
王女殿下はこちらに向き直った。
「ごめんなさい。公女様。警備が不十分だったばっかりに、あなたの前にあんな人が現れることになってしまって」
「いえ、王女殿下や警備の方のせいじゃないです。ミランダは必死過ぎて変な行動を取る人ですから・・・・・・」
「まあ。・・・・・・噂通りの方なのか気になるけど、今はそういう話をしている場合じゃありませんね」
王女殿下はそう言いながらアーサー様の顔を見てニヤニヤと笑った。こほんとアーサー様は咳払いをする。
ーー二人とも、どうしたんだろう?
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