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 禁断の園を出てから急いで入学式の会場に向かった。
 指定された席に座ってからまもなく厳かに式が始まった。偉い人が何人も当たり障りのない祝いと激励の言葉をかけてくる。長いこと聞かされてうんざりし始めたところで、ようやく式は終わった。

 入学式の後、私たちは各々のクラスでこれからの学園生活の説明を受けた。ゲームの中と同じく私とハインリヒは太陽組だ。
 初めてのクラス会で自己紹介をするように担任から指示された。ここでハインリヒにアピールすれば、彼の好感度を上げることができるのだけれど、勿論、そんなことはしなかった。無難なことを言って誰の目にも留まらない普通の令嬢として振る舞う。
 
 終業のベルが鳴ったらハインリヒと目を合わせないようにして一目散に教室を出た。ここでハインリヒに捕まってしまったらフドウイベントのフラグが立ってしまう。
 私は次の闇の女王イベントを見るべく、禁断の園へと急ぎ足で向かった。



 私はこれから椿の前で世にも恐ろしい化け物を見ないといけない。

 闇の女王ルートのエマは、朝に出会ったマテウスのことが忘れられなかった。椿を見つめるマテウスの目があまりにもさみしげで思い詰めているように見えたからだ。だから、ハインリヒを無視して、放課後、あの椿の下へと向かった。

 エマが椿の前でマテウスを待っていると、背後から冷たい視線を感じた。振り返って確認すると
大きな一つ目の魔物がエマを睨んでいた。彼女は魔物と出会った途端、体の芯から凍っていく感覚を覚えて気を失ってしまう。

 この魔物の正体を公式は明言しなかった。伏線の張り方と回収の秀逸さを高く評価されていた『3』の中で、唯一回収されなかった得体のしれない魔物。私は今からそれに会わなければいけない。

 エマが気を失ってから出会う攻略対象も厄介な人物だ。
 風の公爵子息ヴェルナー・ブラント。二つ年上の彼は野心家でハインリヒやマテウスといった高位貴族の弱みを握ろうと動く。ヴェルナーはゲームの中のエマにとっても危険な人物だった。

 恐ろしい魔物に面倒な攻略対象。できることならどちらとも関わり合いたくない。けれど、ここを乗り越えればしばらくはアンナに憎悪されることもなく、平和な学園生活を送れる。
 だから、私は勇気を振り絞って、椿の木に触れた。
 その途端、背後から刺すような視線を感じた。私は深く息を吐いてゆっくりと振り向いた。

ーーそして、私の意識は途切れた。
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