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 目が覚めてまず目に入ったのは、瑞々しい木葉を思わせる緑の髪だった。
 その髪があまりにも美しかったから。だから、すぐにその人がヴェルナーだとわかった。 

「気がついた?」

 そう言ってヴェルナーは微笑む。イベントスチルで見た笑顔と同じきれいな顔だ。
 私は決められたシナリオ通り、ヴェルナーによって助けられて、この医務室へと運ばれたようだ。
 魔物に出会ったら気絶したフリをしてどうにかやり過ごすつもりでいたけれど、まさか本当に気を失うとは思わなかった。 

「大丈夫?まだ気分が優れないのかな?」
 ヴェルナーはそう言って優しく私の手を握ってきた。

 ーーそうだった。私には言わないといけないセリフがある。

「あれ?私・・・・・・」
  弱々しくエマの第一声を口にする。
「覚えてないの?君は禁断の園に無断で立ち入って倒れたんだよ」
「そうでした。私はそこで、そこで・・・・・・!!」
 私は弱々しい声でそう言うと頭を抱え込んだ。
「君は何か見たの?」
「覚えて、ません」
 それは半分嘘で半分本当だった。
 ゲームの中のエマと同じく、私は本当に何も覚えていなかった。
 でも、私はその魔物の姿を知っている。かつてゲームをプレイしていた時、魔物の一枚絵をはっきりと見たから。金の瞳の大きな一つ目の化け物だった。
 でも、魔物の姿を見れたのはあくまでもプレイヤーの目線で、メタ的なものだから。余計なことは決して言ってはいけない。

「本当に?何かがあったからあそこで倒れていたんじゃないのかい?」
「本当に・・・、本当に覚えてないんです。」
「そう。それは大変だったね」
 そう言った後、ヴェルナーの口が小さく「役立たず」と動いたのを私は見逃さなかった。

 ああ、それでこそヴェルナーだ。彼が私を助けたのは善意であるはずがない。彼は禁断の園に出るという噂の美女とマテウスの関係を探るために私を利用しようとしているに過ぎない。
 でも、この時のエマはそんなことを知らない。だから、無垢の笑みを作らなければ。

「助けてくれてありがとうございます。えっと・・・・・・、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
 私はヴェルナーが鼻で笑ったのを見逃さなかった。きっと腹の中で、身分の低いエマから名乗らなかったことを常識と教養がないと嘲笑っている。そして、緑の髪色からブラント公爵子息を連想できなかったエマを世間知らずと蔑んでいるのだろう。

「ヴェルナー・ブラントだよ。エマ・マイヤー嬢」
「なぜ、私の名前を?」
 無知なエマの言葉をなぞる。言ってみてバカみたいだと思う。
 皇族でもない金の髪の人が入学してくるのだ。噂にならないはずがない。まして、野心家のこの男が私のことを調べないはずがないだろう。

 ヴェルナーは今、悩んでいるはずだ。エマをハインリヒとアンナの間を惑わせるための駒として使うか。それとも、世にも珍しい光魔法の使い手を自分の手元に置いておくか。

 ーーでも、私はね。あなたの道具になんかなるつもりはないのよ?

「こんな綺麗な人を知らないはずがないじゃないか」
 ヴェルナーの心にもないお世辞に私は無邪気に喜んでみせた。
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