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 3日に及んだ筆記試験は、思ったよりも楽な気持ちで問題を解くことができた。テストを全て終えた後、私は安堵のため息を漏らした。
 問題は想像の何十倍も簡単で、すらすらと解くことができた。これなら魔法省への道が絶たれずに済みそうだ。

 筆記試験が全て終わったからこれから実技試験が始まる。今日は魔法のテストで、みんなは試験会場である中庭に向かった。私は一人保健室へ向かった。アンナの闇属性の魔法が私の身体に悪い影響を与えるかもしれないということで特別な配慮をされたのだ。

 保健室の扉を開けると中にハインリヒがいた。一瞬驚いたけど、よくよく考えてみたらハインリヒがここにいても何らおかしくない。彼も身体の中に光の魔力が流れているんだから。

 とりあえず保健室の中に入ったものの、座る場所がなくて困った。この部屋には、教員用の椅子が1つと三人掛けのソファが1つしかない。ソファにはすでにハインリヒが座っているから、座るに座れない。

「こっちに来て座ったら?」
 部屋の隅で突っ立てっていたらハインリヒに声をかけられた。
「ありがとうございます」
 本当は彼に近づきたくないけど、断るのも失礼だ。なるべくハインリヒから離れるように、ソファの端に座った。

 ーー気まずい。
 ハインリヒはこんな時でも私を睨みつけている。私は持ってきた教科書を開いて彼から目を逸らした。

「ねえ」
 ハインリヒが声をかけてきた。とても冷たい声色だ。無視するわけにもいかないから顔をあげて彼を見たら、やっぱり私を睨みつけていた。
「君は何の目的があってアンナに付き纏うの?」

 ーー付き纏って何かいないわよ!
 確かにアンナとは親しくなったけど、一緒に過ごす時間が増えたかと聞かれたらそうでもない。私達は別のクラスだし、アンナは妃教育もあって学外では忙しいそうだから。

「廊下でお会いした時に少しお話をしたり、カフェテリアでお茶をしたりしているだけですよ」
 エマの微笑みで答えたらハインリヒは眉間にしわを寄せてもっと怖い顔をした。
 ハインリヒはアンナと喋るだけでも許せないらしい。

「何が目的かって聞いているんだ。なぜアンナと関わろうとする?」
「目的も何も、お互いに仲良くしたいと思ったから仲良くしているだけです」
 ハインリヒは不満そうに私を見つめるだけで何も言わなかった。
「殿下はアンナ様が好きなんですね」
「・・・・・・」
「その気持ちをもっとアンナ様に伝えたら、喜ぶと思いますよ」
 ハインリヒはやっぱり何も言わない。

 ハインリヒがアンナを意図的に孤立させなくたって、アンナはずっとハインリヒを愛している。
 確かにアンナは汚くて争いだらけの貴族社会には向いていないかもしれない。純粋で嘘のつけない彼女を心配する気持ちも分かる。でも、彼女を「闇の女王」にしたてあげて幽閉する必要なんてない。他にアンナを守る方法はあるはずだから。

 ハインリヒの愛はゲームで見た時よりも歪んで見えた。

 "愛の形を、間違えないで"

 先日言われたアイゼンの言葉が頭を過った。
 ーー意味深なあの言葉、アンナとハインリヒにも関係があるのかしら?

 ハインリヒには言いたいことが山程あった。でも、私は言える立場にない。自分よりも身分が高く友達でもない人に対して、求められてもいないのに助言や忠告をしたって何もいいことはない。さっき私が言った言葉だって出過ぎた行為だ。

 ーーでも、助言や忠告じゃなかったら?

「ハインリヒ殿下、"愛の形"ってどんなものだと思います?」
 気がついたらそう口にしていた。
「何をいきなり」
 無視をされるかと思ったけれど、ハインリヒは不機嫌ながらも返事をした。
「ごめんなさい。この間、人に言われたんです。『"愛の形"を間違えないで』って。でもそれがどういう意味か分からなくて、ずっと気になっているんです」
「そう」

 ハインリヒはそっけない返事をしただけだった。それ以上物を言える雰囲気ではなかったから私はもう何も言わなかった。
 ーーアイゼンの言葉から、ハインリヒは考え直してくれるかしら。

 そんなことを考えながら、私は実技試験で行う光魔法の行程を再確認した。
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