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同行者2
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聖女の肩書きだけならまだ良かった。だけど、王子の婚約者にされてしまうと、今まで通り振る舞うわけにはいかない。
いくら聖女としてその価値を示しても、平民だったティナが王子妃に選ばれたことを快く思わない貴族は沢山いる。隙あらばティナを蹴落とそうとするはずだ。
本当は聖女にも王子妃にもなりたくはなかった。けれど、ティナのちっぽけなプライドが、謀略にかかり権力に屈するのを許さなかったのだ。
「頑張って貴族令嬢のように振る舞う君も可愛かったけど、やっぱり今の君の方が何倍も可愛い」
「?!」
突然トールに直球で褒められ、ティナは今日何度目かわからない赤面をする。
前から物怖じしないタイプだったけれど、今日のトールはかなり積極的だ。
「……あ、有難う」
ティナの頭の中はすでにいっぱいいっぱいで、お礼を言うのが精一杯だった。
(おかしい……。トールってこんなに女の子慣れしてたっけ……?)
学院でのトールは、ボサボサの髪の毛が目元を隠している上に眼鏡を掛けているので、かなり野暮ったかった。
だから女生徒達からは相手にされておらず、ティナ以外に仲が良さそうな女生徒はいなかったと記憶している。
だけど背が高いので妙な迫力があるのか、馬鹿にされているところは見たことがない。

(トールって不思議だなぁ。気が付いたらいつの間にか仲良くなっていたし)
初めは聖女や王子の婚約者という地位に取り入るのが目的だと思い、ティナはトールを警戒していた。
それなのに他の生徒とは違い、彼に下心は無かったらしく、ただの学友として普通に接してくれた。
──その普通が、学院生活に憧れていたティナにとって、どれだけ有り難かったのか……きっとトールは気付いていない。
「これからティナはどうするの? やっぱり冒険者になるつもり?」
王宮でも神殿でもなく冒険者ギルドにいるティナを見れば、誰でもそう考えるだろうと思うものの、何となくトールの言葉に確信めいたものを感じ取る。
「うん、もう登録は済ませたし、これからは冒険者として活動するつもりだけど……」
違和感を感じながらもトールには既に気付かれているし、隠す必要はないだろうと、ティナは正直に打ち明ける。
「あ、だけどしばらくはこの国を離れると思う。ちょっと用事があって──」
「この国を離れる?! どうして?!」
「えっ!? えっと……」
国を離れると言った途端、トールが超反応する。
ティナは戸惑いつつも、両親が最後に訪れた隣国、クロンクヴィストに行ってみたいのだと説明した。
「ふぅん……。クロンクヴィストに行くのはティナだけ? パーティーメンバーと行くの?」
「いや、パーティーはまだ組んでいないんだけど、ベルトルドさん……じゃない、ギルド長に護衛として、誰か連れて行けとは言われてるんだよね」
誰に護衛を頼むのかが問題だな、と考えたティナに、トールがさらりと言った。
「じゃあ、僕がティナを護衛するよ。一緒にクロンクヴィストへ行こう」
「うん。……ん? んん?」
まるで「お茶でも飲みに行こう」みたいなノリで言うものだから、思わずティナも同意しそうになってしまう。
「え? いやいやいや! そんな軽いノリで言われても!! っていうか、トールはまだ学院の生徒でしょ?! 留学で来ているのに休むわけにも──」
「やめるよ」
「は?」
「ティナがいない学院なんて意味はない。君がいないのなら、俺もやめる」
──トールの言葉に、ティナの心臓がどくんっと跳ねる。
ティナがいたから学院に通っていたのだと、そう告白するトールの顔は真剣で、冗談や思いつきで言ったようには見えない。
先程からのトールの言動に、ティナの心臓はずっと高鳴りっぱなしで、顔は真っ赤だと自覚出来るほど熱くなっている。
「……っ! で、でも……!!」
何とか平静を保とうと努力するティナだったが、顔は真っ赤なままで胸の鼓動もずっと速い。
「それに僕の出身はクロンクヴィストだよ? ティナと一緒に帰省するってことで良いんじゃないかな」
「え? まあ、そう言われればそうかもしれないけど……って、いやいやいや!」
そう言えばトールはクロンクヴィストからの留学生だったな、と思い出したティナは一瞬、トールの提案に納得しそうになってしまう。
だけど治安がマシとはいえ、クロンクヴィストまでの道のりは距離があるし、魔物と遭遇する可能性もゼロじゃない。何よりある程度の強さと体力も必要となるのだ。
「どうして? 俺、こう見えても結構鍛えてるよ?」
確かにトールは背が高くて手足も長く、バランスが良い体格をしている。
それにさっき抱きしめられた時に触れた、トールの身体はがっしりしていたし、筋肉が程よくついていた。きっと腹筋も割れていて──……と想像し、ティナの羞恥心が限界を突破した。
(うわーーーーっ!! もう無理ムリむりぃーーーーっ!!)
恋愛経験がないティナは恥ずかしさのあまりトールの顔を見ることが出来ず、心が落ち着くまでしばらく時間を要したのだった。
いくら聖女としてその価値を示しても、平民だったティナが王子妃に選ばれたことを快く思わない貴族は沢山いる。隙あらばティナを蹴落とそうとするはずだ。
本当は聖女にも王子妃にもなりたくはなかった。けれど、ティナのちっぽけなプライドが、謀略にかかり権力に屈するのを許さなかったのだ。
「頑張って貴族令嬢のように振る舞う君も可愛かったけど、やっぱり今の君の方が何倍も可愛い」
「?!」
突然トールに直球で褒められ、ティナは今日何度目かわからない赤面をする。
前から物怖じしないタイプだったけれど、今日のトールはかなり積極的だ。
「……あ、有難う」
ティナの頭の中はすでにいっぱいいっぱいで、お礼を言うのが精一杯だった。
(おかしい……。トールってこんなに女の子慣れしてたっけ……?)
学院でのトールは、ボサボサの髪の毛が目元を隠している上に眼鏡を掛けているので、かなり野暮ったかった。
だから女生徒達からは相手にされておらず、ティナ以外に仲が良さそうな女生徒はいなかったと記憶している。
だけど背が高いので妙な迫力があるのか、馬鹿にされているところは見たことがない。

(トールって不思議だなぁ。気が付いたらいつの間にか仲良くなっていたし)
初めは聖女や王子の婚約者という地位に取り入るのが目的だと思い、ティナはトールを警戒していた。
それなのに他の生徒とは違い、彼に下心は無かったらしく、ただの学友として普通に接してくれた。
──その普通が、学院生活に憧れていたティナにとって、どれだけ有り難かったのか……きっとトールは気付いていない。
「これからティナはどうするの? やっぱり冒険者になるつもり?」
王宮でも神殿でもなく冒険者ギルドにいるティナを見れば、誰でもそう考えるだろうと思うものの、何となくトールの言葉に確信めいたものを感じ取る。
「うん、もう登録は済ませたし、これからは冒険者として活動するつもりだけど……」
違和感を感じながらもトールには既に気付かれているし、隠す必要はないだろうと、ティナは正直に打ち明ける。
「あ、だけどしばらくはこの国を離れると思う。ちょっと用事があって──」
「この国を離れる?! どうして?!」
「えっ!? えっと……」
国を離れると言った途端、トールが超反応する。
ティナは戸惑いつつも、両親が最後に訪れた隣国、クロンクヴィストに行ってみたいのだと説明した。
「ふぅん……。クロンクヴィストに行くのはティナだけ? パーティーメンバーと行くの?」
「いや、パーティーはまだ組んでいないんだけど、ベルトルドさん……じゃない、ギルド長に護衛として、誰か連れて行けとは言われてるんだよね」
誰に護衛を頼むのかが問題だな、と考えたティナに、トールがさらりと言った。
「じゃあ、僕がティナを護衛するよ。一緒にクロンクヴィストへ行こう」
「うん。……ん? んん?」
まるで「お茶でも飲みに行こう」みたいなノリで言うものだから、思わずティナも同意しそうになってしまう。
「え? いやいやいや! そんな軽いノリで言われても!! っていうか、トールはまだ学院の生徒でしょ?! 留学で来ているのに休むわけにも──」
「やめるよ」
「は?」
「ティナがいない学院なんて意味はない。君がいないのなら、俺もやめる」
──トールの言葉に、ティナの心臓がどくんっと跳ねる。
ティナがいたから学院に通っていたのだと、そう告白するトールの顔は真剣で、冗談や思いつきで言ったようには見えない。
先程からのトールの言動に、ティナの心臓はずっと高鳴りっぱなしで、顔は真っ赤だと自覚出来るほど熱くなっている。
「……っ! で、でも……!!」
何とか平静を保とうと努力するティナだったが、顔は真っ赤なままで胸の鼓動もずっと速い。
「それに僕の出身はクロンクヴィストだよ? ティナと一緒に帰省するってことで良いんじゃないかな」
「え? まあ、そう言われればそうかもしれないけど……って、いやいやいや!」
そう言えばトールはクロンクヴィストからの留学生だったな、と思い出したティナは一瞬、トールの提案に納得しそうになってしまう。
だけど治安がマシとはいえ、クロンクヴィストまでの道のりは距離があるし、魔物と遭遇する可能性もゼロじゃない。何よりある程度の強さと体力も必要となるのだ。
「どうして? 俺、こう見えても結構鍛えてるよ?」
確かにトールは背が高くて手足も長く、バランスが良い体格をしている。
それにさっき抱きしめられた時に触れた、トールの身体はがっしりしていたし、筋肉が程よくついていた。きっと腹筋も割れていて──……と想像し、ティナの羞恥心が限界を突破した。
(うわーーーーっ!! もう無理ムリむりぃーーーーっ!!)
恋愛経験がないティナは恥ずかしさのあまりトールの顔を見ることが出来ず、心が落ち着くまでしばらく時間を要したのだった。
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