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金眼2

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 ちなみに何故クロンクヴィスト王国とアコンニエミ聖国の仲が悪いかというと、クロンクヴィスト王国はラーシャルード神信仰ではなく、精霊信仰の国だからだ。

 さらにラーシャルード教は穢れた瘴気から生まれるといわれている魔物を忌み嫌っており、その魔物の王が持つ特徴である<金眼>を忌避している。
 きっと<金眼>持ちのトールを、彼らは忌々しく思っているはずだ。

 だが、ラーシャルード教が嫌う<金眼>は、クロンクヴィスト王国にとっては古い血統を受け継いでいる証であり、誉あるものだ。

 貴族はもちろんのこと、平民からも貴ばれる<金眼>には、その色を持つ者にしか知らされない秘密があった。

 ──実は<金眼>とは精霊王から与えられる祝福で、その瞳を持つ人間は精霊たちに愛される存在であったのだ。

 クロンクヴィスト王国が珍しい精霊信仰なのも、王国の初代国王が精霊王の祝福を受けた人間だったという経緯があったからだ。

 その事実は時の流れと共に忘れ去られ、今では御伽噺となって語り継がれている。
 実際、トールも建国神話を御伽噺か何かだと思っていた。

 しかし、トールが九歳の誕生日を迎えた時、とある存在が彼の目の前に現れた。
 そしてトールはその存在──<精霊>に、御伽噺が事実なのだと教えられたのだ。

 <精霊>とは、この世界に存在する草木や動物など、自然が作るものの一つ一つに宿る超自然的な力で、万物の根源をなしているらしい。

 精霊の見た目はふわふわと光る浮遊物で、言葉を直接頭の中に話し掛けてくる。だからトールは初めて精霊を見た時、幽霊か何かと勘違いしそうになったのだ。

 驚くトールに精霊は告げた。
 ──曰く、トールは初代国王並みに精霊との親和力が高く、今は下級精霊としか感応できないが、成長すれば上級精霊とも会話ができるだろう、と。

 トールは思いがけない事実に、最高の誕生日プレゼントだと喜んだ。
 ラーシャルード教とアコンニエミ聖国に対抗する手段を手に入れたのだ。きっと自分のこの力は、ティナを助ける力になるだろう。

 トールは精霊と邂逅した日から、彼らと交流し時々手伝って貰いながら、着実に力を付けていった。

 それから一年後──ティナと別れてから五年がたった頃。
 セーデルルンド王国から<聖女>の出現が公表された。トールが一番恐れていたことが、ついに起こってしまったのだ。

 やはりティナの稀有な神聖力は隠しきれず、神殿に気付かれてしまったらしい。

『──<聖女>は神聖力を供給するための装置みたいなもんだ。神殿に良いように扱われ、自由がない生活を強いられながら一生過ごさなければならない……。そんな人生を可愛い娘に──ティナに送らせたくないんだ』

 トールの頭の中で、ヴァルナルの言葉が蘇る。
 ヴァルナルの願いを叶え、約束を守るために、自分に出来ることは何か──。しばらく考えたトールは、あることを思いつく。

(今はセーデルルンド王国の聖女でも、結局はアコンニエミ聖国の出方によって、ティナの処遇が決まってしまう。それなら、いっそ──!)

 ──ラーシャルード教の、アコンニエミ聖国を根底から覆せば良い、と。

 早速トールは精霊に協力して貰い、アコンニエミ聖国の情報を集めることにした。

 初めはただの噂だったり、主婦たちの井戸端会議のような内容であったが、その内容は長い時間を掛けて徐々に精査され、聖国の中枢へと迫っていく。

 加えてトールが手に入れた情報の中には、教皇一族の企みとアレクシスの望みもあった。
 やはり彼らは<稀代の聖女>であるティナの力を我の物にし、その威光を利用しようと企んでいたのだ。

 トールはアコンニエミ聖国の弱点となりうる情報をさらに集め、ティナを自由にするための準備を着々と行なっていた。

 そうしてティナが聖女になってから更に月日が過ぎ、ティナとトールが十五歳になった頃。
 セーデルルンド王国にあるブレンドレル魔法学院に、ティナが入学するという情報が入って来たのだ。
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