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聖霊降臨祭1
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セーデルルンド王国の王都にある、ラーシャルード神を崇拝する大神殿で今、聖霊降臨祭が行われようとしていた。
聖霊降臨祭は、王都を張り巡らしている結界を維持するために、年に一度行われる神事である。
神に身を捧げた聖女がその神聖力を以って、人々を守るよう神に願い、祈りを捧げるのだ。
普段は門を閉じている大神殿も、年に一度のこの日だけは門を開放していた。
そのこともあり、大神殿は神の奇跡を一目見ようとする民衆で一杯になっている。
「今回神事を行うのはクリスティナ様じゃないんだって?」
「ああ、何故か新しい聖女様に交代したとか」
「でもその場合、お披露目の儀式をする筈だよなぁ? 俺、全然知らなかったぜ」
いつもは聖霊降臨祭の開催に湧き上がっている民衆も、どこか落ち着かない様子だ。
無名の聖女が重要な儀式を執り行うことに不安なのかもしれない。
「大丈夫なのかねぇ……。まあ、大神官様がいらっしゃるから、心配ないと思うけどよ」
「でも、最近辺境の森で瘴気が発生してるって噂だぜ?」
「じゃあ、ここにも魔物が来るかもしれないのか?」
「いやいや、いくら何でもこの王都まで魔物が来ることはないだろうが……不吉だよな」
瘴気が発生する場所には、凶暴な魔物が現れるというのがこの世界の常識だ。
だから人々は瘴気が出ている場所を見つけるたびにすぐ浄化して来たのだ。
しかし今の王国は未曾有の事態に陥っていた。
国中のあちらこちらで瘴気が発生しているのだ。
そんなことはここ五十年以上起こっておらず、王宮の文官や大神殿の神官たちも原因を究明するために奔走しているという。
人々の期待と不安が入り混じる中、聖霊降臨祭の始まりを知らせる鐘が、大神殿中に響き渡る。
「おっ! 始まるぞ!」
「新しい聖女様はどんな方だろうな!」
「噂によると、貴族のご令嬢らしいぜ?」
「へぇ! 貴族のご令嬢がねぇ! それは殊勝な心がけだ!」
新しい聖女に対して、さまざまな憶測が飛び交う中、大神官が姿を現した。
その後ろから、まるで姿を隠すように身体を長いベールで覆った人物が付いてくる。
細かい模様が編まれている絨毯の上を、大神官と聖女らしき人物、その次に神官たちが列をなして歩く。
これから大神官たちは大聖堂に入り、中にある結界を維持するための大魔法陣に神聖力を注ぐ儀式を行うのだ。
ちなみに大聖堂の中に入れるのは神官と王族だけだ。
中でどんな儀式が行われるのか、詳しいことは民衆にはわからない。しかし儀式が終わると、大聖堂から光の柱が立ち上り、結界の光が王都中を包み込むという。
その光景は幻想的で、誰もが神の存在を固く信じ、無神論者でも信仰を胸に抱くほどだ。
「……今回は随分たくさんの神官がいるな」
「いつもは10人ぐらいだよな?」
「大神殿中の神官が集まってるみたいだな」
「それだけこの聖霊降臨祭が重要ってことだろ」
大聖堂へ向かう行列を民衆が見守る中、歓声が徐々に止み、今度は周りから戸惑う声が聞こえ始めた。
「……お、おい……っ。なんか変じゃねぇか?」
「どうしたのかしら……。あのベールを被っている人って聖女様よね?」
「ああ、いつもはあの位置にクリスティナ様がいらしたからな。彼の方が新しい聖女様なんだろうが……」
人々の不安がどんどん大きくなっていく。何故なら、聖女らしき人物の歩みが徐々に遅くなっていき、さらにふらふらと足元がおぼつかなくなって来たからだ。
聖霊降臨祭は、王都を張り巡らしている結界を維持するために、年に一度行われる神事である。
神に身を捧げた聖女がその神聖力を以って、人々を守るよう神に願い、祈りを捧げるのだ。
普段は門を閉じている大神殿も、年に一度のこの日だけは門を開放していた。
そのこともあり、大神殿は神の奇跡を一目見ようとする民衆で一杯になっている。
「今回神事を行うのはクリスティナ様じゃないんだって?」
「ああ、何故か新しい聖女様に交代したとか」
「でもその場合、お披露目の儀式をする筈だよなぁ? 俺、全然知らなかったぜ」
いつもは聖霊降臨祭の開催に湧き上がっている民衆も、どこか落ち着かない様子だ。
無名の聖女が重要な儀式を執り行うことに不安なのかもしれない。
「大丈夫なのかねぇ……。まあ、大神官様がいらっしゃるから、心配ないと思うけどよ」
「でも、最近辺境の森で瘴気が発生してるって噂だぜ?」
「じゃあ、ここにも魔物が来るかもしれないのか?」
「いやいや、いくら何でもこの王都まで魔物が来ることはないだろうが……不吉だよな」
瘴気が発生する場所には、凶暴な魔物が現れるというのがこの世界の常識だ。
だから人々は瘴気が出ている場所を見つけるたびにすぐ浄化して来たのだ。
しかし今の王国は未曾有の事態に陥っていた。
国中のあちらこちらで瘴気が発生しているのだ。
そんなことはここ五十年以上起こっておらず、王宮の文官や大神殿の神官たちも原因を究明するために奔走しているという。
人々の期待と不安が入り混じる中、聖霊降臨祭の始まりを知らせる鐘が、大神殿中に響き渡る。
「おっ! 始まるぞ!」
「新しい聖女様はどんな方だろうな!」
「噂によると、貴族のご令嬢らしいぜ?」
「へぇ! 貴族のご令嬢がねぇ! それは殊勝な心がけだ!」
新しい聖女に対して、さまざまな憶測が飛び交う中、大神官が姿を現した。
その後ろから、まるで姿を隠すように身体を長いベールで覆った人物が付いてくる。
細かい模様が編まれている絨毯の上を、大神官と聖女らしき人物、その次に神官たちが列をなして歩く。
これから大神官たちは大聖堂に入り、中にある結界を維持するための大魔法陣に神聖力を注ぐ儀式を行うのだ。
ちなみに大聖堂の中に入れるのは神官と王族だけだ。
中でどんな儀式が行われるのか、詳しいことは民衆にはわからない。しかし儀式が終わると、大聖堂から光の柱が立ち上り、結界の光が王都中を包み込むという。
その光景は幻想的で、誰もが神の存在を固く信じ、無神論者でも信仰を胸に抱くほどだ。
「……今回は随分たくさんの神官がいるな」
「いつもは10人ぐらいだよな?」
「大神殿中の神官が集まってるみたいだな」
「それだけこの聖霊降臨祭が重要ってことだろ」
大聖堂へ向かう行列を民衆が見守る中、歓声が徐々に止み、今度は周りから戸惑う声が聞こえ始めた。
「……お、おい……っ。なんか変じゃねぇか?」
「どうしたのかしら……。あのベールを被っている人って聖女様よね?」
「ああ、いつもはあの位置にクリスティナ様がいらしたからな。彼の方が新しい聖女様なんだろうが……」
人々の不安がどんどん大きくなっていく。何故なら、聖女らしき人物の歩みが徐々に遅くなっていき、さらにふらふらと足元がおぼつかなくなって来たからだ。
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