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第2章
サブストーリー ~彼女を見つけた~
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なんで彼女たちがこんな所にいるんだろう。
俺は思わず二度見した。
シェリアはスウォン達の手を借りて学園から脱走した。その後、シェリアとフィオナはゼノの手を借りて別の場所に移ったということは知っていたが。
まさか、こんな所にいるなんて思わなかった。
シェリアをしばらく見守ろうと側に少しでもいようと思い行方を追っていたが、思うようにいかず彼女らの行方は分からなかった。
校長への報告も思ったより時間がかかってしまい捜索を始めるのが遅くなった事もある。半諦めかけていたが、学園近くの森で会えるとは。
学園に戻ろうとしているのだろうか?
「やぁ、二人とも。学園に報告なく無断外泊で遠出するなんて。悪い子達だね。」
俺は二人に声をかけた。
二人の反応は対照的で面白かった。
フィオナは声をかけられて瞬間は驚いていたが俺の顔を見ると安心したような笑顔を見せた。
シェリアは俺の声を聞いた途端から絶望に満ちた顔をしていた。色々やったから警戒するのも当然ではあるけど。あまりに正反対な行動をするものだから少し笑ってしまった。
「何であんたがここにいるのよ。」
シェリアがこっちを射抜くような目で睨みながら言う。相当警戒されてるね。
「それは学校を抜け出した君たちを探すためだよ。」
「あっ! えと、その件なのですが理由がありまきて……」
フィオナが慌てて事情を説明しようとする。スウォン達はフィオナの不在を幻覚魔法やら何やらで周りをごまかしていたが、俺や学園長までは流石に誤魔化せない。しかし、ほとんどの生徒や教師が騙されていた。将来が楽しみな優秀な生徒達だねぇ。
「うんうん、大体の事情はこちらも察してるよ。大丈夫。」
俺はフィオナを安心させるようにいつもの調子で笑う。
フィオナはホッとしたような顔をしたが、シェリアは相変わらずこちらを睨んでる。
「あのねぇ。貴方の胡散臭い笑顔を見るのはもういいの。」
シェリアが俺に杖を向けながらこちらを睨む。フィオナが驚いた顔でシェリアを止めようとしているが効果はないようだ。
「シェリア、キリト先生に杖なんて向けちゃダメだよ!」
「フィオナ。こいつはクレアメンスに従ってた。事件にだって関わってるかもしれないのよ。口では最もらしいこと言ってるけど、当てにならないわ。」
その言葉にフィオナは肩を落とした。
事件……。中間テストの時だろうか。
校長が何かしているのは感づいているが、ハッキリしたことは本人からは聞いていない。恐らく真っ当な理由ではないことは見て取れたので本人から直接聞いてはいない。
「何を言っているかわからないけど、君達は学校に強制送還だよ。」
校長には二人は見つけ次第、学校に戻すよう伝えられている。大げさにしたくないため、彼女らの行方を捜しているのは数名。見つけてしまった以上、連れ戻さなくては。
恐らくシェリアは学園に戻れず監禁生活を余儀なくされるけど。
「ま、待ってください、キリト先生。私はともかくシェリアは学園に戻る訳には。」
彼女達も感づいているのだろう。シェリアは校長の元で捕まる事を。
シェリアの様子を見ると杖をこちらに構えたまま何か思案しているようだ。俺一人相手なら逃げ切れると思っているのだろうか。
……ふと、馴染みある気配が背後から現れる。どうやら勘付いて彼も来たようだ。
「いや、君たち二人には学園に戻ってもらうよ。」
「クレアメンスさん!」
「学園長。」
二人が同時に声を上げる。
学園長自ら来るなんて少し予想外だった。朗らかな笑みをたたえながら学園長は話し出した。
「シェリア殿。君はゼノと接触して闇に引き込まれそうになっている。それから守るために君を閉じ込める形になってしまった。だが、誤解しないでほしい。これはあくまで君のためなんだ。」
「いい加減にして。そんなの建前でしょう。貴方は闇魔法を使うものを極端に嫌ってるだけじゃない。」
「そんな事はない。どうか私を信じてほしい。」
「学園長、貴方ですよね。中間試験で生徒を操っていたのは。」
シェリアが俺に構えていた杖をクレアメンスに向ける。
あの事件はクレアメンスから、一般に公表された顛末は犯人がゼノという事だった。
他ならぬ大賢老とされるクレアメンスの口にした事だ。誰も疑うものはいなかった。
「何を言うのだ、シェリア殿。あれはゼノの仕業だよ。あいつは昔から享楽主義だからね。私の事が気に入らなくて学園に悪影響を与えようとしたのだろう。」
「あれはゼノの仕業じゃないわ。」
「本人がそう言ったのかな? だとすれば、君は彼に毒されているのだろう。」
シェリアの言葉に取り合う気はないのだろう。
校長は闇魔法を忌み嫌っている。きっと彼にとって存在そのものが目障りなのだ。
「まあ、落ち着いてください。校長。」
俺は校長に声をかけた。このまま、なし崩しに彼女が監禁生活をおくるのも可哀想かなと思ったのだ。シェリアを俺の元に置いておきたいのは事実だけど、彼女の意思できて欲しい。校長なんかの言いなりじゃなくて。
「なんだね、キリト先生。」
煩しげにこちらを見る校長。その目には邪魔をするなという意思表示がありありと見て取れた。
「どんな理由があれ、教師は生徒の話を聞くのが仕事です。頭ごなしに否定していては生徒の成長の妨げになります。」
「君はもう少し賢いと思っていたんだがね。……グロウス。」
瞬間、校長の周りの魔力の流れが変わった。
まずいと思って俺は立っている場所から慌てて離れる。
俺が立っていた場所は周りの草木が急成長し絡まりあっていた。
あそこに立っていたら植物に動きを封じられていただろう。やれやれ、殺気立っているなあ校長は。
「クレアメンスさん!?」
フィオナが驚いた声を上げている。
彼女にとって穏やかなクレアメンスがこの様な事をするのは予想外だったんだろう。
「フィオナ。闇魔法を持つものは危険なんだよ。私はそれを身を以て知っている。」
校長の魔力は相変わらず荒れている。
何を仕掛けてくるかわからない。俺は下手に動く事ができずにいた。
「ゼノの起こしたあの事件を私は生涯忘れる事はないだろう。……それに比べて私が起こした中間試験の事など小きもの。」
これ以上、誤魔化すのは無理だと感じたのか。それとも他の理由か。
先程まで否定していた事をあっさりと認める校長。
校長の魔力が濃く荒れる。まるでここだけ重力が強くなったみたいだ。これほどの魔力を持っているとは。ふと、シェリアを見ると辛そうに少しよろめいているのが見て取れた。校長との魔力相性が悪いので余計に負荷がかかっているのかもしれない。
だが、俺もフィオナも似た様なものだ。
校長の魔力に当てられて身動きが取れない。
「ああ、憎むべき闇。破壊の力。混沌の力。人を傷つけ、死に至らしめるだけしか力を発揮できない。そんなものこの世から失せて仕舞えば良い。」
校長が今までに見た事のない形相をしていた。
はは、ここまで校長が闇魔法を憎んでいるとは思わなかった。
「フィオナ。君は私と同じものを持っている。世界を救う光だ。本当は真実を知った者は消してしまおうと思っていたのだが。君がいなくなってしまうと予定が狂うからね。」
校長が動けないフィオナに近づき頭に手をかざす。何か魔法を仕掛ける気だ。
それに気づいたシェリアが校長の邪魔をしようと杖をかざす。
「フィオナに手を出さないで。」
「無駄な事だよ。」
校長があっさりとシェリアの杖を折ってしまう。この状況下で杖なしで魔法を放つのは困難だろう。
「さあ、眠るんだ。フィオナ殿。起きた頃には全て忘れている。」
「う、うう。」
フィオナが苦しそうにうめき声を上げる。
記憶操作の魔法か。
ああ、くそ。
結局俺には何もできないのか。
昔と変わらない。肝心な時に何もできない。
「あは。クレアメンス。相も変わらず君は性格が悪い。ねじ曲がっているよね。」
突如現れた声。この声は聞き覚えがある。
「ゼノ!」
シェリアが声の主に気づき声を上げた。
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