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第2章
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しおりを挟む「クレア……メンス……さん……。ううっ。」
あまりの事に呆然と立ち尽くしていたらフィオナの声で我に帰った。
そうだ、フィオナに怪我はないだろうか。慌ててフィオナの元に駆けつける。見た感じ、転がされた時の擦り傷や植物を切り抜けた切り傷以外、目立った怪我は無さそうだが。
「フィオナ、怪我はない?」
「私は大丈夫……。」
フィオナはクレアメンスの亡骸から離れようとしない。彼の体に縋って静かに泣いていた。
少しそっとしておいたほうがいいかも知れない。私にとってはあまり良い印象のない校長だったが、フィオナにとってはそうではないだろう。大切な恩師だ。
「キリト先生。学園はどうなるの?」
私はキリトに話しかける。
大賢老で学園長でもある人が亡くなったのだ。結構な大事である。
「……誰かが引き継ぐことになると思うけど。今の魔法学会で彼の仕事を引き継げる人材はいないからね。かなり揉めると思うよ。」
キリトは苦々しい口調で語る。
クレアメンスは優秀な魔法使い。学園の結界も彼が元となって作っているらしい。てことは、今の学園は無防備な状態なのだろうか?
魔法使いは国にとって貴重な国力となる。丁重に保護されているのだ。
「学園の結界ってどうなってるのかしら?」
「しばらくは保つと思うよ。でも、そんなに長くは持たないし、早急な対応が必要だね。はあ。面倒な事になったなぁ。」
キリトはやれやれと溜息をつく。
彼が首を振った時に首元で何かが揺れた。注意して見ると、彼の首に笛が垂れ下がっているのが見えた。魔法笛みたいだ。そんなものさっきまでなかった気がしたが。隠し持っていたのだろうか。誰かに合図を送ったのだろうと思われるが……?
すると突然、木々が陽炎のように揺らめき空間が歪んだ。
「キリト先生。笛の合図が聞こえたので参りましたが、コレは……!」
突如、数人の人が現れた。
学園の教師だ。慌てて何となく身を隠そうかと考えたが意味はないかと止まる。
どうやら、キリトは魔法笛で学園に合図を送っていたらしい。一人の教師がこちらに気づき驚いた顔をする。よく見ると知らない顔ではない。何かの授業を受け持っていた教師だ。他の教師も知らない訳ではない。中にはリィナ先生もいた。
「まさか……!」
クレアメンスと私の顔を見比べられる。
え、なんか、あらぬ疑いかけられてませんか。
「彼女の仕業じゃありませんよ。件の事件でも話に出たゼノという人物が犯人です。」
キリトが誤解を解くように説明をしてくれる。
危ない。危うく犯人にされるところだった。
キリトは先生たちに向かって色々詳しい説明をしているようだ。
私はフィオナの様子をちらと伺い見る。一人の教師に支えられているのが見えた。励ましているのかだろうか。
「貴方も大変だったわね、ミス・シェリア。」
声に反応して振り返るとリィナ先生が側に来ていた。相変わらず美人な先生だ。こんな状況でなかったら美人な女性と話せる事を喜べるのだが。
「リィナ先生。でも、私よりフィオナの方が辛いと思うわ。」
「ミス・フィオナは校長を敬愛していたみたいね。無理もないわ。ところで、貴女の髪。すっかり色が変わってしまったのね。」
髪。ああ、そういえば真っ黒に変わってからそのままだ。試験の後から隔離されていたから学園の教師達は知らないだろう。
「ええ、まあ。……怖いですか?」
黒は忌避される色。一般の人間は嫌うだろう。フィオナもキリトもスウォン達も特に反応がなかったから忘れかけていたが。
「そんな事ないわよ。素敵な色だわ。でも学園に戻るなら少し考えないといけないわね。みんなびっくりしてしまうから。」
「私、学園に戻れるんですか?」
驚いた。こんな事があって普通の学園生活に戻れるとは思わなかった。
「ええ。元々貴女を隔離する事は賛否両論あったけど校長が押し切った結果だったから。キリト先生とも話し合って貴女は学園に戻ってくる事になりそうよ。」
なんだか複雑な心境だが、学園に戻れるようだ。ゼノの言うとおりになってしまった。
「色々思うところもあるだろうけど、私もしっかり支えていくから。一緒に頑張りましょう。」
リィナ先生は言いながら屈託のない笑顔を見せた。彼女はまだ、新米だが良い先生になると思う。裏表がなさそうで生徒に信頼されそうだなと思う。
「ありがとうございます。後、髪の色の事ですがなんとかできるかもしれません。」
そういえば、昔髪の色を変えた事があったじゃないかと思い出す。ゼノから教えてもらった魔法。他の一般的な魔法では髪の色を変える事ができなかったが、彼の魔法ではあっさりと色が変わった。思い出しながら、呪文を唱える。あの長ったらしくて厨二臭い呪文を。なんか唱えるの恥ずかしいな。なんだか居た堪れなくて小声でボソボソと唱える。
すると、黒色だった髪が銀色に変わった。前の、というより学園に入学した当初の色だ。これなら面倒な問題も起きないだろう。
「ミス・シェリア。貴女は元々優秀だったけれど、オリジナル魔法も使えるようになったのね! 本当に凄いわ!」
ゼノが作った魔法なんですけどね。
言うとややこしい事になりそうなので、言わない事にする。
「さて、一旦学園に戻ろうか。」
キリトが声をかける。
周りの環境が変わっている事に気づく。クレアメンスの遺体はいつの間にか姿を消していて、広がっていた血だまりも何もなかったかのように綺麗になっている。先生達が片したのだろう。
フィオナは力尽きたのかキリトに背負われていた。大丈夫だろうか。
「フィオナちゃんは眠ってるだけだよ。大丈夫。」
私の視線に気づいたのかキリトが答える。
他の先生達が一箇所に集まり呪文を唱えている。テレポートのようだ。
ぐわんと景色が歪み、私達は学園に戻ってきた。
どこの教室だろう?
あまり見覚えがない場所だ。
「ここは職員の会議室ね。あまり生徒は立ち入らない場所だから見覚えがないのも無理ないわ。」
辺りを見回して不安そうにしてたのが分かったのかリィナが説明してくれる。
「さて、君は学園の寮でゆっくり休んで。色々あったからね。疲れていると思うから。」
「フィオナは……?」
眠っているらしいが、不安になる。
彼女と引き離されるのがとても恐ろしく感じる。
「念のために医療の先生に診てもらってから部屋まで送るよ。安心して。」
「私も付いていたいです。」
キリトの言葉にそう返していた。
フィオナの側についていたい。なんだかとても不安で心細い。
「うーん。分かったよ。リィナ先生、悪いんだけど……。」
「はい。この二人についていますね。同じ女性の方が安心するでしょうし。」
どうやら、リィナ先生が付いていてくれるらしい。私達は彼女のテレポートで更に医務室へと移動した。
医務室に着くとフィオナをベッドに寝かせ私とリィナ先生はベッド近くにあった椅子に腰掛ける。
「すみません、わがままを言って。リィナ先生まで巻き込んでしまって。」
「そんなことないわ。お友達を心配するのは当然だもの。貴女はとっても友達思いね。」
友達思い。
友達。そうだ私達は友達なんだ。言おうと思ってもズルズルと言えなくて。本当は私は言うのが怖いのかもしれない。フィオナに受け入れられないことに。
彼女なら最初は戸惑うだろうが、きっと最後には喜んで受け入れてくれる気がするのに。どうしても、何故か言うことができない。言おうと思うといつも心の中でストップがかかってしまう。
「……リア? ミス・シェリア?」
「あっ、すみません。ぼうっとしていました。」
物思いにふけっているとリィナ先生が私の肩を叩く。彼女の呼びかけに気づかず心配をかけてしまったようだ。
「何もないならいいのよ。貴女も疲れていると思うし、隣のベッドで休んだらどうかしら。」
「でも、その間にフィオナが起きたら……」
「大丈夫。私が起きてるから。彼女が起きたら貴女も起こしてあげる。それでどうかな?」
リィナが私に目線を合わせ屈託のない笑顔で問いかける。裏表のなさそうなその感じに、なんだか安心感を覚えた私は彼女の言うとおりに横になる事にした。
「すみません。では、失礼します。」
隣のベッドに横になると私は目を閉じた。
意外に疲れていたらしい。だんだん眠気に襲われて私は夢の中に落ちた。
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