乙女ゲームの悪役ボスに生まれ変わったけど、ヒロイン可愛すぎてつらい。

ファネシス

文字の大きさ
45 / 60
第2章

15

しおりを挟む

クレアメンスから流れ出ていた赤い血が頭にこびりついて離れない。倒れた肉体から湧き出るように溢れる血が。

人が目の前で死んだのだ。衝撃的で忘れられないのかもしれない。だが、私はこの光景をどこかで見たようなそんな既視感に襲われていた。

そう、昔。どこかで。

『忘れて。今の貴女には耐えられないから。』

優しい女の人の声が頭に響く。ああ、母様の声だ。彼女は私の頭に触れ手をかざす。その手は血で濡れていた。

……血。

ふと周りを見渡す。私が寝入った学園の医務室ではない。ここは私が生まれ育った塔の中。私の部屋だ。自分の手を見ると幼い子供の手で。

……ああ。昔の夢を見てるんだ。

瞬時にそう悟った。

私は自分の額にかざされている母親の手を両手でつかんだ。

「母様。私、全部思い出したいの。お願い。記憶を消さないで。」

夢の中の母親が驚いたような顔をして動きを止める。その顔はフィオナそっくりで。本当に母とフィオナはそっくりだ。天使や女神、精霊のような人間離れした美貌。その顔が戸惑っている。

『……そう。分かったわ。』

オフィーリアは暫く困惑した顔を浮かべていたが、やがて悟ったような笑みを浮かべた。どこか眩しげにこちらを見て。……すうっとオフィーリアの姿が消えていく。

ぐにゃりと景色が歪んで、先程とは雰囲気が変わった。まるで現実かのように音声が流れ込んでくる。

『大変だ、こちらにも火の手が!』

『フィオナお嬢様をお守りして!』

何やら慌ただしい。
私は塔の窓から本邸を覗き見た。すると、屋敷が燃えているのが伺えた。何事!
フィオナは無事なのだろうか。父様は、母様は?

屋敷に駆けつけたい気持ちが逸るが、私が行ったとしても何もできることはない。塔からも自由に出ることはかなわない。一体どうすれば。

「シェリア!」

誰かが私の名を呼んだ。
母様のが来てくれたのかと思い振り返る。

「……ゼノ。」

だが、予想に反して現れたのはゼノだった。普段、少年の姿を取っている彼だが黒猫の姿だ。おそらく使い魔に意識をおくって動かしているのだと思う。本人が来れない状況なのだろうか。

「さあ、早く逃げるんだ、このままでは君が殺される。」

いつも飄々としているゼノが珍しく慌てた様子だ。そんなに緊迫した状況なのだろうか。

「でも、一人で出たらいけないのよ。」

この前フィオナと入れ替わりで脱走したのがバレてこっぴどく怒られたばかりだ。

「そんなこと言っている場合じゃないよ。早く逃げないと魔術師殺しが……!」

魔術師殺し?

「……こんにちは。闇の力を持つお嬢さん。」

突如、塔につながる一つきりのドアが開く。黒いローブを頭までかぶった怪しい人。ローブでくぐもって声が聞きにくいがその低さから男の人だろうと思う。

「遅かったか……」

ゼノが忌々しげに舌打ちをする。
この人が魔術師殺しなのだろうか。彼から濃く血の匂いがした。

私は恐怖で数歩後ろへ下がる。

「巫女の娘がここに居ると聞いてねぇ。屋敷中探し回ったんだが見当たらない。本人と当主の血の匂いから子供は判別できたんだが。あと一人、なかなか見つからなくて困ってたんだが。やっと見つけた。」

ローブの隙間からぼてっと音を立てて何かが床に転がされた。所々、血で汚れているが、

「フィオナ!?」

私の最愛の妹だ。

「大丈夫、まだ死んじゃあいないさ。まあ、このまま放っておいたら時期に死ぬだろうがね。」

フィオナが死ぬ……!?
フィオナが。私の妹が。それはありえてはいけない事だ。私の周りで魔力が膨らんでいくのが感じられる。術者の怒りに反応して増長しているのだと思う。

「ふむ……。確かに逸材のようだ。魔力が高まっていくのが感じられる。流石、奴の娘だな。上が危険因子と判断するのも分からなくもない。」

ローブの男が杖先をこちらに向ける。

「少々、勿体無い気もするがね。まっ、命令は命令だ。処分させてもらうぜ。悪く思うなよ、お嬢ちゃん。」

彼の杖先に魔力が込められる。それは幼い私の体なんて粉砕するくるいの魔力だと肌で感じる。

私ここで死ぬの?
大切な妹も守れないで。
そんなの嫌だ。

「待ちなさい、ユージーン!」

恐怖で身をすくませていると慣れ親しんだ声が聞こえた。母親だ。お母様だ。
彼女が来てくれたらきっと大丈夫。だが、私のその希望的観測は破られた。

「母様……!?  血が!?」

オフィーリアは全身血まみれであった。彫刻のように美しい顔は血や煤で汚れ、質素であるが彼女の美しさを引き立てる洋服は所々破れ血が滴っていた。おそらく彼女の血だ。苦しげに肩で息をしている。早く手当てしないと。

「これはこれは。巫女様。その怪我でここまで来れるとは思いませんでした。母親のなせる技ですかな?」

巫女?

「皮肉はいいわ。ユージーン。貴方、私を殺しに来たのでしょう。子供は関係ないはずよ。」

「いや、俺もね。そう思って上には進言いたしましたよ。子供まで手にかけるのはいくら俺でも道徳心が苛まれるでショ?」

くっくっと喉で笑う。ちっとも道徳心とかありそうになさそうな感じだが。
この男は先ほどから母を知っている口ぶりだが、一体どういう関係なのか。

「でもねぇ。上はそう判断しなかった。子供も危険因子だから処分だって。まあ仕方ないよね。オフィーリア。昔馴染みのよしみだ。先に楽にしてやるよ。子供が死ぬとこ見たくないだろ?」

ローブの男が私に向けていた杖先をオフィーリアに向ける。彼女は逃げるそぶりを見せない。否、ここまで来るのに体力を使い切っているのだろう。動きたくとも動けないのだ。

やめて。母様を傷つけないで。
私、何もできないの?
やだよ、妹も母様も守れないなんて!

「!?」

「シェリア!  ダメよ。力を使っては!」

母様の制止の声が聞こえた。でも止まれない。止まらない。


……私は魔法を暴発させた。


「すごい、すごいよ。シェリア。君の力こんなに大きいとは予想以上だ!」

ゼノの歓喜に満ちた声が聞こえた気がしたが、私の意識は遠くなっていった。

ーーーーー

気がつくと部屋の天井が見えた。どうやら気を失って倒れたらしい。そのままの体勢で周りを見渡す。少し遠くに血みどろで倒れるローブの男が見えた。ピクリとも動かない。息をしていないのは目に見えてわかった。

フィオナとお母様は……?

私はゆっくり起き上がる。倦怠感に襲われ立ちくらみがした。ローブの男を超えた先にオフィーリアが倒れているのが見えた。私はゆっくりと近づく。そして、私は気づいた。

母親が先程よりも傷だらけになっている事に。

恐らくフィオナを庇ったのだろう。母親の下にはフィオナが守られるように伏せっていた。
周りの景色をもう一度見直す。
整えられていた家具は見るも無残にことごとく破壊されていた。窓は割れ、残っているガラスはない。物は散乱し、部屋の中に暴風が吹き荒れたかのようにバラバラになっていた。
オフィーリアはフィオナをかばってそれらの物で傷だらけになったのだ。私のせいで。

「私のせい……。」

言葉にすると身によく染みた。

私はなんて事をしてしまったのだろう。
あれだけオフィーリアに魔力を行使するのはやめなさいと止められていたのに。大きくなって制御ができるまではと。言いつけを破って暴走させて……。

私は母様を殺してしまったのか。
嘘。私が。母様を。
嫌、嫌……。

全身から血の気が引いていくのがわかる。私が母様を。フィオナまで傷つけそうになって。ああ、ああ。狂ってしまいそうだった。

その時、オフィーリアの手がピクッと動く。

「母様?」

「シェリア……。大丈夫。大丈夫よ。」

オフィーリアの目は虚ろでもう助からないことだけは悟った。

「……今の貴女には耐えられないから。」

オフィーリアが私の頭に手をかざす。

「忘れて。全部、忘れて。この力も……貴女が使いこなせるようになるまで……。」

彼女の手から暖かい光が現れる。スーッと頭から何かが消えていく感覚がした。同時に鍵がかかるようにカチャリと胸の奥で音がなった。

「ほら、シェリア。貴女はお姉ちゃんなのだからフィオナを守ってあげて。」

「分かった。お母様……。」

私は気を失っているフィオナを背負い塔を下りていく。全部を忘れて。



この事件は、はぐれ魔術師が田舎貴族に押し入り魔法を暴発させ生存者ゼロの悲惨な事件として処理された。

フィオナは内々に身分を隠され、クレアメンスの知り合いの家へ引き取られる。

私は存在を公にされていなかったため、当主の婚外子と判断された。そのためフィオナと引き離され後々に当主の遠縁のエコールフルラ家へ引き取られたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...