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「弟がお世話になってます」
とりあえず、落ち着いて話をしようということになり、俺は兄を連れて下宿に帰ってきた。
そして、下宿にて鉢合わせした人たちに兄を紹介する。
紹介された兄は、会う人達にそう言って頭を下げた。
さすがに変身を解いていたので、この時には兄は兄の姿をしていた。
そうして部屋に向かい、一連の流れを聞いた。
始まりは、親父と祖父のいつもの喧嘩からだったそうだ。
「そういえば、今回の二人の喧嘩の内容はなんだったの?」
「ん? 金だよ金。
山奥に住んでる婆さんいただろ? 爺さんの遠縁の。
あの婆さんが亡くなってさ、爺さんが香典持ってけって言ったのが始まり」
「あー、はいはい。でもあそこの家と関わりあったのって爺さんだけじゃん。
むしろ、うちの爺さんが早朝からお茶飲み行くもんだから、向こうの家の人達に俺たち嫌われてたんじゃなかったっけ??」
「向こうの家の長男夫婦な。
うちの爺さんのこともそうだけど婆さんの我儘っぷりにブチ切れてとっくの昔にあの家出たらしいぞ。
んで、毎日のように運動だなんだって理由つけて遊び行って、金が無い無い言いつつ良い顔するためにあの婆さんに渡してたんだよ。
それ知って、うちの婆さんもブチ切れてさ、でもほら、女性の言葉なんて聞きやしないの」
と、そこでエリィさんが聞いてきた。
「何故だ?」
「はい?」
兄が不思議そうに返す。
俺が察して、エリィさんに補足説明をする。
「男尊女卑が酷いんですよ、うちの部落」
俺の言葉に、兄が続けた。
「その点、都会はいいね。
女性でも軍に入れる。
貴女のように冒険者になれたり、職業選択の自由がある」
いまでこそ、義務教育があるから学校が生活に組み込まれているけれど、それが無かったら女は畑や田んぼ、家事をして年頃になったら嫁に行って、嫁に行った先で、その家に仕える奴隷か召使いのように扱われ、子供を産むだけの道具にされる。
それだけじゃなく、男の子が産めなかったらさらに酷い誹謗中傷を家族になった人達から受けることになる。
良い家、可愛がってもらえる家に嫁げれば幸せだろうけど、そんな家は無い。
だって、歴史は繰り返されるから。
嫁いだ先の家にいる先輩、姑が自分がされていた事を嫁にするのだ。
「それだけじゃない。ちゃんと、能力で判断してくれる。
都会は、本当に幸せな場所だ」
兄の言葉に、エリィさんが神妙な顔で黙りこくっている。
「でも兄ちゃん、代わりに農民出身者への差別が酷いよ」
しかもこれには男女差がない。
あっても困るけど。
俺の言葉に、兄が返した。
「知ってる」
何とも言えない沈黙が落ちた。
と、エリィさんが不思議そうに聞いてきた。
「だが、お前も、お兄さんも私に対して随分親切というか、紳士的じゃないか?」
俺と兄は顔を見合わせる。
そして、同時に苦笑した。
答えたのは、兄だった。
「母さんと姉妹たちのお陰ですかねぇ」
母はとにかく俺たちに父のように、義実家家族のようになって欲しくなくて、その辺の教育を頑張った。
モラハラパワハラはしない。
将来のことも考えて、家事も分担出来るように徹底的に教えこんだ。
そのせいか母は、父や祖父母にはかなり恨まれ憎まれたようだが。
そういえば、いつか母が言っていたっけ。
それもかなり憎々しく。
『私にとって家族は、産んだあんた達と実家のほうの爺ちゃん婆ちゃんだけ。
嫁いだからって、血の繋がりのない人たちとは未来永劫家族にはなれないって、ここまで生きてきてよーくわかったわ。
早くくたばればいいのに、あの人たち』
と。
まぁ、うん、母の了解も得ずに勝手に親戚の子供の面倒を見させられて、その分の食事代とかの必要経費は全部は祖父行きなんてこともあったし。
最初から出来て当たり前、出来なかったら貶される。
その癖、仕事のように教えるということは基本しない。
聞いたら鼻で笑われる。
そりゃブチ切れて俺たち連れて家出くらいするよなぁ。
あと、色々分かってきたであろう自分の血を分けた子供に毒を吐くくらいはするよなぁ。
とりあえず、落ち着いて話をしようということになり、俺は兄を連れて下宿に帰ってきた。
そして、下宿にて鉢合わせした人たちに兄を紹介する。
紹介された兄は、会う人達にそう言って頭を下げた。
さすがに変身を解いていたので、この時には兄は兄の姿をしていた。
そうして部屋に向かい、一連の流れを聞いた。
始まりは、親父と祖父のいつもの喧嘩からだったそうだ。
「そういえば、今回の二人の喧嘩の内容はなんだったの?」
「ん? 金だよ金。
山奥に住んでる婆さんいただろ? 爺さんの遠縁の。
あの婆さんが亡くなってさ、爺さんが香典持ってけって言ったのが始まり」
「あー、はいはい。でもあそこの家と関わりあったのって爺さんだけじゃん。
むしろ、うちの爺さんが早朝からお茶飲み行くもんだから、向こうの家の人達に俺たち嫌われてたんじゃなかったっけ??」
「向こうの家の長男夫婦な。
うちの爺さんのこともそうだけど婆さんの我儘っぷりにブチ切れてとっくの昔にあの家出たらしいぞ。
んで、毎日のように運動だなんだって理由つけて遊び行って、金が無い無い言いつつ良い顔するためにあの婆さんに渡してたんだよ。
それ知って、うちの婆さんもブチ切れてさ、でもほら、女性の言葉なんて聞きやしないの」
と、そこでエリィさんが聞いてきた。
「何故だ?」
「はい?」
兄が不思議そうに返す。
俺が察して、エリィさんに補足説明をする。
「男尊女卑が酷いんですよ、うちの部落」
俺の言葉に、兄が続けた。
「その点、都会はいいね。
女性でも軍に入れる。
貴女のように冒険者になれたり、職業選択の自由がある」
いまでこそ、義務教育があるから学校が生活に組み込まれているけれど、それが無かったら女は畑や田んぼ、家事をして年頃になったら嫁に行って、嫁に行った先で、その家に仕える奴隷か召使いのように扱われ、子供を産むだけの道具にされる。
それだけじゃなく、男の子が産めなかったらさらに酷い誹謗中傷を家族になった人達から受けることになる。
良い家、可愛がってもらえる家に嫁げれば幸せだろうけど、そんな家は無い。
だって、歴史は繰り返されるから。
嫁いだ先の家にいる先輩、姑が自分がされていた事を嫁にするのだ。
「それだけじゃない。ちゃんと、能力で判断してくれる。
都会は、本当に幸せな場所だ」
兄の言葉に、エリィさんが神妙な顔で黙りこくっている。
「でも兄ちゃん、代わりに農民出身者への差別が酷いよ」
しかもこれには男女差がない。
あっても困るけど。
俺の言葉に、兄が返した。
「知ってる」
何とも言えない沈黙が落ちた。
と、エリィさんが不思議そうに聞いてきた。
「だが、お前も、お兄さんも私に対して随分親切というか、紳士的じゃないか?」
俺と兄は顔を見合わせる。
そして、同時に苦笑した。
答えたのは、兄だった。
「母さんと姉妹たちのお陰ですかねぇ」
母はとにかく俺たちに父のように、義実家家族のようになって欲しくなくて、その辺の教育を頑張った。
モラハラパワハラはしない。
将来のことも考えて、家事も分担出来るように徹底的に教えこんだ。
そのせいか母は、父や祖父母にはかなり恨まれ憎まれたようだが。
そういえば、いつか母が言っていたっけ。
それもかなり憎々しく。
『私にとって家族は、産んだあんた達と実家のほうの爺ちゃん婆ちゃんだけ。
嫁いだからって、血の繋がりのない人たちとは未来永劫家族にはなれないって、ここまで生きてきてよーくわかったわ。
早くくたばればいいのに、あの人たち』
と。
まぁ、うん、母の了解も得ずに勝手に親戚の子供の面倒を見させられて、その分の食事代とかの必要経費は全部は祖父行きなんてこともあったし。
最初から出来て当たり前、出来なかったら貶される。
その癖、仕事のように教えるということは基本しない。
聞いたら鼻で笑われる。
そりゃブチ切れて俺たち連れて家出くらいするよなぁ。
あと、色々分かってきたであろう自分の血を分けた子供に毒を吐くくらいはするよなぁ。
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