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 もうここまで聞いてしまったエリィさんを追い出すわけにもいかないので、俺は気を取り直してウカノ兄ちゃんに訊く。

 「でもさ、仮にこのきな臭いことにクロッサ兄ちゃんがかかわってるとして、俺たちに何か出来るの?」

 クレイ兄ちゃんとエリィさんは、ウカノ兄ちゃんを見た。
 ウカノ兄ちゃんは、しばらく悩んだ後、

 「無いな!!」

 明るく断言した。
 まぁ、そうだろうなぁ。
 俺とクレイ兄ちゃんが、だよね~、と言い合う。
 その横で、エリィさんが突っ伏した。

 「何もしないのか?!」

 しかし、すぐに復活したエリィさんはそう口にした。
 これには、俺が答える。

 「いやぁ、だって現状クロッサ兄ちゃんがかかわってるってだけの話ですし。
 客観的に言って、さすがに臭いだけで、悪いことしてるだろ、なんて言えないですよ。
 言えたとしても、魔族領にまでいって調べるとか疲れるしやりたくないです」

 続いてクレイ兄ちゃんが、

 「正直、兄の愚行、奇行よりも明日の食い扶持の方が大切ですし」

 さらに続けてウカノ兄ちゃんも、

 「そもそも一般人で、ただの農民や冒険者が国家間のいざこざに口を出せるわけないじゃないですか。
 そういうのは、貴族、政治家の仕事ですから」

 そんなことを言った。
 エリィさんの顔に、さっきまで思いっきり魔族領からの間者をボコボコにしてた癖に何を言ってるんだ、このアラサーは、と書かれている。
 しかし、ここで言い終わらないのが、俺たちの兄ちゃんだった。

 「まぁ、でも。
 そういうのを抜きにして、俺たちにちょっかい掛けてくるんだったら、魔族だろうが血の繋がった弟だろうが、容赦はしませんけどね」

 そう言って、浮かべた笑みはとっても黒かった。
 
 
 さて、その日の夜。
 食事も終わり、あとは寝るだけとなった時。
 俺は、ウカノ兄ちゃんに訊かれた。

 「なぁ、昼間の魔族とやりあったっていうダンジョンなんだけど、特別なダンジョンなのか?」

 「たぶんね」
 
 「たぶん?」
 
 「そ、たぶん」

 俺はそれ以上は答えない。
 ウカノ兄ちゃんは、きっと馬鹿にはしないだろう。
 でも、信じないに決まってる。
 だから、話さない。

 「なに、伝説の武器が封印されてるとか、そういう系?」

 「たぶんね」

 「さっきからたぶんたぶんって、ノリ悪いなぁ」

 「そう?」

 「お前こういう話大好きだろ。
 いいから兄ちゃんに教えてくれよ」

 「ヤダ」

 「ちぇっ、せっかくなら事前に情報集めとこうかと思ったのに」

 ウカノ兄ちゃんがそんなことを口にした。
 なんとなく気になって、今度は俺が兄ちゃんに訊いた。

 「事前にって、なんで?」

 「いや、不動産屋、どこ行っても門前払いされるし。
 息抜きにそのダンジョンとやらでも調べに行こうかなって」

 「ダンジョン、壊されたのに?」

 「話を聞く限りだとそうだな。
 でも、攻略されたかどうかは微妙だろ。
 そもそも、なんで魔族はダンジョンを破壊したんだ?
 攻略したなら自然と消えるだろうし、残り続ける方のダンジョンだったとしてもお宝を手に入れたなら用済みのはずだ。
 わざわざダンジョンを破壊する手間ってのが、どうにも理解できないんだよなぁ。
 何かがあって、それを隠す、消すために壊したってのが妥当だろうけど」

 ウカノ兄ちゃんの考えに、俺は知らずドキドキしてきた。
 もし、それが本当なら。
 あの魔族たちは、知っていてダンジョンを壊したか、もしくは探し物が見つからなかったから壊したか。
 見つけたけれど、手に入らなかったからか。

 「お、やっぱりなにかあるんだな?
 兄ちゃんに教えてくれよ」

 俺の顔を見たウカノ兄ちゃんが、言ってくる。

 「世界の成り立ち、神々の叡智、賢者の書、呼ばれ方はいろいろだけど。
 この世界のありとあらゆる知識が記されてるっていう伝説の書物があるって話と、邪神が使ったっていう武器が封印されてるんじゃないか、っていう話とか色々あるけど。
 アニキの話だと、創世邪神のダンジョンを全て攻略すれば世界を手に入れることのできる力を、もっと言えばこの世界を創った神様の力を授かれるって言ってた」

 俺は、つい、そう答えていた。
 これをクロッサ兄ちゃんに知られて、俺は散々馬鹿にされたのだ。
 
 クロッサ兄ちゃんが馬鹿にした話を、ウカノ兄ちゃんはどこか真剣そうに聞いていた。

 「つまり、」

 ウカノ兄ちゃんの中で俺の話の咀嚼が終わったのか、改まって、そしてさっき以上に真剣な声で聞いてきた。

 「正体は不明だけど、とんでもないモノがそのダンジョンを攻略すると手に入るってことか」

 「あくまで、入るかも、だけどね。
 うん、でも、アニキ達は確信をもってたから、もしかしたら一つ攻略するだけでも何かしら手に入るのかもしれない」

 でもここまで話してあれだが、結局魔族の人達がそれを手に入れたかどうかは分からないままだ。
 そんな俺の思考を読んだのか、ウカノ兄ちゃんがさらに言ってくる。

 「普通だったら」

 「うん」

 「目の前で大々的にダンジョンを壊されたら、普通、諦めるよな?
 冒険者ギルドとかへの報告がどうなってるかは詳しくは知らないが、今回みたいに無くなりましたってなったら、再調査ってされるもんなのか?
 ちゃんと壊れてるかどうか、報告に虚偽が無いかとか」

 「うーん、どうだろう?
 でも、しないんじゃない、かな?
 こういうのって、ダンジョンが出来た土地を持ってる人が依頼を出すものだし。
 報告を受けて、納得したならたぶん、出さないと思う」

 「なら、今こうしてる間にそのダンジョンが復活して、でも壊れたって風に幻影をかけてたら、探索し放題なわけだよな」

 「ウカノ兄ちゃんは、魔族の人達がまだ攻略してないって思ってるの?」

 「……やっぱり、ダンジョンをわざわざ破壊したってのがなぁ。
 どうにもしっくりこないというか。
 しかもそれをしたのが、ヤバいほうの魔族の国の軍人ときてる。
 軍事国家がわざわざダンジョンを攻略する理由ってなると、それ相応の力を求めてるのかなって、妄想まで出来ちゃうくらいだし。
 まぁ、お前らを殺すつもりだったってのもあるとは思うけど。
 向こうの誤算は、クレイが転移魔法の使い手だったってことだろうな。
 加えて、王族の暗殺未遂事件が起きてるとなると、勘ぐりたくもなる。
 力ってのは、持ってることに意味があるからな。
 ヤバい武器を手に入れて、脅しや抑止力にだって使えるだろ」

 そう言ったウカノ兄ちゃんは、やはり真剣そのものだった。
 
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