上 下
62 / 78

62

しおりを挟む
 翌日。
 俺は今度はウカノ兄ちゃん、そしてエリィさんの三人で昨日ダンジョンがあった場所まで訪れていた。
 エリィさんがチラチラとウカノ兄ちゃんを見ている。
 
 「今更だが、そんな軽装で来たのか?」

 ウカノ兄ちゃんは、実家でよく着ていた真っ赤なツナギ姿である。
 まぁ、うんやっぱり心配するよなぁ。
 俺で慣れたと思ってたけど、やっぱりまだまだのようだ。

 「まぁ、冒険は初心者なので、動きやすい服装の方がいいかなって。
 それにこれ、結構丈夫なんですよ?」

 ウカノ兄ちゃんは軽口を叩きながら、昨日と同じまま破壊されたダンジョンの瓦礫が散らばる現場を見る。
 そして、歩き回った。
 歩き回って、やがて納得したのか、俺に向かって言ってくる。

 「シン、やれ」

 「了解」

 俺は指をパチンと鳴らす。
 幻影を打ち消す。
 ガラスのように、今まで俺たちが見ていた光景が砕け散り、破壊されたはずのダンジョンが姿を現した。

 「兄ちゃんが言ったとおりだったね」
 
 「どうだ、凄いだろ!」

 エリィさんも事前に話を聞いていたのだが、とても驚いている。
 しかし、ウカノ兄ちゃんの予想が当たったということは、つまり、昨日遭遇した魔族がいる、ということだ。
 遭遇したらきっと厄介なことになる。
 でも、それでも、まだ俺は攻略を諦められなかった。
 少しだけ浮かれている俺たちに向かって、エリィさんが緊張した声を出す。

 「おい、はしゃぐのはその辺にしておけ」

 エリィさんが剣を抜き放ち、臨戦態勢へ入る。
 俺と兄ちゃんはエリィさんの視線を追う。
 そこには、昨日クレイ兄ちゃんにボコボコにされた、銀髪銀目の魔族である。
 魔族はエリィさんを見て、俺を見て、ウカノ兄ちゃんを見たところで、不思議そうに首を傾げた。

 「まさか、また来てくれるとはな。
 でも、昨日のや――」 

 魔族の言葉の途中で、いつの間にか出現させていた死神が持っているような大鎌を手にウカノ兄ちゃんは斬りかかった。
 兄ちゃんの愛鎌である。
 ドラゴンの首もスパッと落とせる優れものだ。

 「んな?!」

 驚いた魔族は咄嗟に避ける。
 それを兄ちゃんが大鎌を手に追いかける。
 終始、無言だ。
 そして、顔は無表情である。
 あーあ、完全に狩りモードに入ってる。

 「なるほど、たしかに早い。
 大振りじゃダメか」

 兄ちゃんが淡々と言った。
 その次の瞬間、魔族の足にウカノ兄ちゃんは何かを打ち込んだ。
 そして、呟くように、

 「【成長促進】」

 そう口にした。
 魔族の足から緑の蔦が伸びる。
 
 「あれは、何だ?」

 エリィさんは見たことが無いらしい。

 「あー、魔力を吸収して育つ、食魔植物の一つですね。
 対獣用トラップのトラバサミが残酷だからってことで使えなくなったんで、代わりにと、兄ちゃんが畑で品種改良して育ててた奴だったはずです」

 ちなみに、これより凄いのがミナクさんのお父さんが開発したというクリスタルのトラップだ。
 命ではなく魔力を吸い取るので、死なないギリギリのラインで獲物を縛り上げ続けることができる。

 「足に打ち込んだのが、その植物の種で、農民スキルの【成長促進】で一気に成長させ、あとは魔族の魔力を吸ってあんな感じになってます。
 スキル使うのにも魔力がいりますからねぇ、それを使ったトラップです。
 そうでないと、対象の体内に直接植え付けないとダメなんで。
 畑泥棒にはきかないですけど、野生の動物なら種や草を食べますからね。胃の中で魔力を吸って成長して、腹を突き破るって寸法です」

 「トラバサミよりえぐいな!?」

 「だって、そのトラバサミが残酷ってことで禁止になったんですもん。
 なら他ので代用するしかないじゃないですか」

 ちなみにウカノ兄ちゃんは、大鎌とこの植物の合わせ技で五年連続ドラゴン狩り祭りで一位を守り抜いている。

 「いや、そういうことじゃなくてだな」

 エリィさんが、とても困ったようにそう言った。

 「よっしー、とりあえず第一関門クリアだなぁ。
 ダンジョンかぁ、俺初めてだからワクワクするなぁ」

 トラバサミよりえぐいことを魔族の軍人に対しておこなったウカノ兄ちゃんは、そんなことを口にした。
 ちなみに、件の魔族は魔力を吸い続け短時間で巨大な蛇のように成長してしまった蔦に覆われている。 
 絞め殺されてそうだけど、いいのかな?
 うーん、ま、いっか。
 もともと殺す気満々で来てたんだから、返り討ちにされても文句ないよね。
 と、ウカノ兄ちゃんが俺たちをみて補足してくる。

 「あ、そうだ。
 それな、ようやく生命力も吸い上げられるようになったんだよ。
 いやぁ、苦労したよ。
 なにせ、蔦をとったら腹破けてるのに暴れるモンスターとかザラだったし」

 実家にいた頃より、蔦のえげつなさがあがっていた。
 あの魔族の人、運が無いな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

猫かぶり令嬢は王子の愛を望まない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:186

二の舞なんてごめんですわ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:519pt お気に入り:46

とある小さな村のチートな鍛冶屋さん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:8,530

Sweet Kiss Story

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:8

¿Quo Vadis ?─クォ・ヴァディス─

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:46

処理中です...