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魔族領でも有数の国のひとつ、ギセル帝国。
その帝都にある王城。
ギセル帝国国王が住まうこの城の一角に、人間であるにも関わらず元帥にまで登り詰めた男の部屋はあった。
執務室と仮眠室が扉1枚で中で繋がっているため、何も無ければほぼ部屋の中で過ごせてしまう。
しかし、あくまでここは職場だ。
自宅は別にある。
溜まっていた書類仕事を終わらせて、その男――クロッサ・サートュルヌスは、あの妙な開放感のまま娼館に行って、馴染みの女を指名して抱き。
身も心もスッキリさせて、久しぶりの自宅へ帰ってきた。
今日は公休日である。
家の管理は人を雇っているのでそんなに心配していない。
女遊びを覚える前に、ストレス発散にと作った家庭菜園。
今年もそろそろ収穫を迎える時期だ。
「トマトはキンキンに冷やして塩だよなぁ。
キュウリは、塩漬けと、粕漬けにして。
ばば胡瓜は味噌汁に入れると美味いんだよなぁ。
ナスは網焼きで醤油、よし、酒を買おう、そうしよう」
などとウキウキしながら帰宅すると、家の管理を任せている女性がすぐさまやってきた。
魔族ではなく、魔族の次に多い亜人、ラミア族の女性である。
彼がこちらへ渡ったばかりの頃に出会った女性だ。
当時、彼女は奴隷として酷い扱いを受けていたのだが、色々あって助けることになり、その一件でクロッサに恩を感じたのか、それ以来クロッサに付き従っていた。
ラミア族である彼女――イルルは、とても嫉妬深い。
なので、
「おかえりなさいませ、旦那様。
……また娼館に行って来たんですね?」
チロチロと舌を出し、クロッサをその体で絞めあげつつ邪視を発動させる。
「んー。まぁ、溜まってたし?
だって俺男の子だし?」
ヘラヘラ笑いながら、クロッサは体を締めあげれている。
ギリギリ、ギチギチと不穏な音が立てられているがクロッサはそのヘラヘラした笑いを崩さない。
むしろ余裕すら感じる。
「旦那様!! 私が居るではありませんか!
なぜわざわざ娼館に行くのですか!!??」
「えー、本音言うとお前怒るじゃん」
「怒りません!!」
「んー、じゃあ言うけど。
お金払った分、その分のサービスしてくれるから安心なんだよね。
金で愛は買えないとか、そういう偽善の言葉あんじゃん?
むしろ逆だと思うね。
金さえあればある程度の愛は買えるもん。
俺は金で買える程度の愛で十分だし。
それ以上は、なんていうか、重い」
言い終わると同時に、クロッサはどうやったのかスルりとイルルの拘束を抜け出してしまう。
そして、スタスタと自室へ向かっていった。
「旦那様!! 話はまだ終わって、」
イルルの言葉の途中で、クロッサは彼女を振り返った。
彼女を見るクロッサの瞳は、とても冷たい。
冷たいどころか、まるでゴミでも見るかのような瞳だった。
その瞳を向けられて、イルルはビクついて何も言えなくなってしまう。
「あのさ、イルルと俺は雇用関係でしかない。
お前には感謝してる。こうして家を管理してくれてるし、よく働いてくれてる。
でも、お前は俺の母親でもなければ嫁でもない。
家族じゃない。
俺はお前を金で雇ってるだけ。それだけの関係だ。
その金を貰っておいて、俺の行動が気に食わないとか言うなら雇用を打ち切るからさっさと出ていけ」
「そ、そういうつもり、じゃ」
「ならこの話は終わりだ。
辞めたくなったらいつでも言え、ただし黙って出ていくな。
契約の関係上、それをされると退職金払うのに手間がかかる」
「…………」
こうまでしても出ていかないのは、彼女なりの意地でもあるのだろう。
彼女は声を振り絞って、クロッサに訴える。
「何故、私を家族にしてくれないのですか?
私、私は、こんなに旦那様のことが!!」
「え、だってお前いまさっき自分のしたこと振り返ってみろよ。
慕う相手をその体で締め上げるって、俺だからいいものの、普通の奴なら死んでるだろ。
殺そうとしてくる奴を嫁にとか、無理無理」
その時だった。
彼の家へ逃げ込むように魔族が転がり込んできた。
玄関の扉を壊しかねない勢いで転がり込んできたのは、秘密裏にとある任務を与えていた魔族二名だった。
銀髪と茶髪の魔族で、銀髪――ザックの方は何があったのか全身の骨が砕かれて瀕死のように見えた。
死んでいないのは、魔族の頑丈さゆえだろう。
もう一人の茶髪――オーウェンは恐怖と焦りでもって体をガタガタと震わせていた。
「おい、報告なら」
すぐに任務で何かがあったのだということは察しがついた。
しかし、ここはクロッサのプライベート空間である。
報告をするにしても執務室に行ってくれればいいものを、と理不尽なことを考えつつ、それを口にしようとしたクロッサに、オーウェンは叫ぶように報告をした。
しかし、喚き散らしていてどうにも要領を得ない。
「イルル、茶を用意しろ」
今にも文字通り死にそうなザックに回復魔法をかけつつ、クロッサはイルルへそう指示を出した。
先程のクロッサとのやり取りは微塵も感じさせず、イルルは雇用主の指示を受けて動きはじめた。
あっという間に回復したもののザックの意識は戻らず、仕方ないので客間のソファに運んで寝かせておく。
オーウェンも促されるまま、クロッサに続いた。
クロッサとオーウェンは空いている椅子にそれぞれ腰を降ろす。
やがて、鎮静作用があるとされるハーブ、クロッサが庭に植えているそれでハーブティーを用意し、イルルが運んできた。
クロッサとオーウェン、それぞれにそのお茶を出し、脇に控えようとして、
「仕事の話になる。外に出てろ」
と言われてしまった。
しかし、やはり先程とは違いイルルは素直に従う。
イルルが退室したことを確認すると、クロッサは口を開いた。
「まずは飲め。落ち着くから。
なんなら、香り付けに酒でもいれるか?」
「いえ、すみません、取り乱しました。
いただきます」
一口のんで、オーウェンは少しばかり落ち着いたようだった。
そして、任務での出来事と、あの化け物のような人間から頼まれたクロッサへの伝言を口にした。
だんだんと、クロッサの顔が苦笑になっていく。
そして、話を聞き終えて最初にクロッサが口にしたのは、
「なんで長男ダンジョンなんかにいるんだ?」
そんな疑問だった。
クレイとフィリップ、そして愚弟。
この三人は、まだわかる。
(家出でもしたんかな?)
そんなことを考えるが、まさか当たっているとは露知らず、クロッサは首を傾げるばかりだった。
ちなみに、長男の伝言の内容は在り来りなもので、
【暗躍するのはいいけど、そっちの軍勢が戦争になって、もしこっちの畑と田んぼ荒らしたら、俺がお前を殺しに行くからな。
そうそう、もうそろそろ稲刈りの時期だから今年くらい手伝いに帰ってこい。お前、筋播きも田植えの時も帰ってきてないじゃん。
せめてビニールハウス作る時くらい手伝いに帰ってこいよ。大変なの知ってるだろ。
あ、あと、母さんが米と梨送りたいのに住所わからなくて困ってたぞ】
そんな感じの内容だった。
この伝言を頼まれたオーウェンはと言うと、なんというか複雑な顔をしていた。
そりゃそうだろう。
わけも分からないままクリスタル漬けにされたかと思えば、家庭内の報連相に使われたのだから。
「なんか、スマン」
さすがに、クロッサは部下のオーウェンに謝った。
魔族領でも有数の国のひとつ、ギセル帝国。
その帝都にある王城。
ギセル帝国国王が住まうこの城の一角に、人間であるにも関わらず元帥にまで登り詰めた男の部屋はあった。
執務室と仮眠室が扉1枚で中で繋がっているため、何も無ければほぼ部屋の中で過ごせてしまう。
しかし、あくまでここは職場だ。
自宅は別にある。
溜まっていた書類仕事を終わらせて、その男――クロッサ・サートュルヌスは、あの妙な開放感のまま娼館に行って、馴染みの女を指名して抱き。
身も心もスッキリさせて、久しぶりの自宅へ帰ってきた。
今日は公休日である。
家の管理は人を雇っているのでそんなに心配していない。
女遊びを覚える前に、ストレス発散にと作った家庭菜園。
今年もそろそろ収穫を迎える時期だ。
「トマトはキンキンに冷やして塩だよなぁ。
キュウリは、塩漬けと、粕漬けにして。
ばば胡瓜は味噌汁に入れると美味いんだよなぁ。
ナスは網焼きで醤油、よし、酒を買おう、そうしよう」
などとウキウキしながら帰宅すると、家の管理を任せている女性がすぐさまやってきた。
魔族ではなく、魔族の次に多い亜人、ラミア族の女性である。
彼がこちらへ渡ったばかりの頃に出会った女性だ。
当時、彼女は奴隷として酷い扱いを受けていたのだが、色々あって助けることになり、その一件でクロッサに恩を感じたのか、それ以来クロッサに付き従っていた。
ラミア族である彼女――イルルは、とても嫉妬深い。
なので、
「おかえりなさいませ、旦那様。
……また娼館に行って来たんですね?」
チロチロと舌を出し、クロッサをその体で絞めあげつつ邪視を発動させる。
「んー。まぁ、溜まってたし?
だって俺男の子だし?」
ヘラヘラ笑いながら、クロッサは体を締めあげれている。
ギリギリ、ギチギチと不穏な音が立てられているがクロッサはそのヘラヘラした笑いを崩さない。
むしろ余裕すら感じる。
「旦那様!! 私が居るではありませんか!
なぜわざわざ娼館に行くのですか!!??」
「えー、本音言うとお前怒るじゃん」
「怒りません!!」
「んー、じゃあ言うけど。
お金払った分、その分のサービスしてくれるから安心なんだよね。
金で愛は買えないとか、そういう偽善の言葉あんじゃん?
むしろ逆だと思うね。
金さえあればある程度の愛は買えるもん。
俺は金で買える程度の愛で十分だし。
それ以上は、なんていうか、重い」
言い終わると同時に、クロッサはどうやったのかスルりとイルルの拘束を抜け出してしまう。
そして、スタスタと自室へ向かっていった。
「旦那様!! 話はまだ終わって、」
イルルの言葉の途中で、クロッサは彼女を振り返った。
彼女を見るクロッサの瞳は、とても冷たい。
冷たいどころか、まるでゴミでも見るかのような瞳だった。
その瞳を向けられて、イルルはビクついて何も言えなくなってしまう。
「あのさ、イルルと俺は雇用関係でしかない。
お前には感謝してる。こうして家を管理してくれてるし、よく働いてくれてる。
でも、お前は俺の母親でもなければ嫁でもない。
家族じゃない。
俺はお前を金で雇ってるだけ。それだけの関係だ。
その金を貰っておいて、俺の行動が気に食わないとか言うなら雇用を打ち切るからさっさと出ていけ」
「そ、そういうつもり、じゃ」
「ならこの話は終わりだ。
辞めたくなったらいつでも言え、ただし黙って出ていくな。
契約の関係上、それをされると退職金払うのに手間がかかる」
「…………」
こうまでしても出ていかないのは、彼女なりの意地でもあるのだろう。
彼女は声を振り絞って、クロッサに訴える。
「何故、私を家族にしてくれないのですか?
私、私は、こんなに旦那様のことが!!」
「え、だってお前いまさっき自分のしたこと振り返ってみろよ。
慕う相手をその体で締め上げるって、俺だからいいものの、普通の奴なら死んでるだろ。
殺そうとしてくる奴を嫁にとか、無理無理」
その時だった。
彼の家へ逃げ込むように魔族が転がり込んできた。
玄関の扉を壊しかねない勢いで転がり込んできたのは、秘密裏にとある任務を与えていた魔族二名だった。
銀髪と茶髪の魔族で、銀髪――ザックの方は何があったのか全身の骨が砕かれて瀕死のように見えた。
死んでいないのは、魔族の頑丈さゆえだろう。
もう一人の茶髪――オーウェンは恐怖と焦りでもって体をガタガタと震わせていた。
「おい、報告なら」
すぐに任務で何かがあったのだということは察しがついた。
しかし、ここはクロッサのプライベート空間である。
報告をするにしても執務室に行ってくれればいいものを、と理不尽なことを考えつつ、それを口にしようとしたクロッサに、オーウェンは叫ぶように報告をした。
しかし、喚き散らしていてどうにも要領を得ない。
「イルル、茶を用意しろ」
今にも文字通り死にそうなザックに回復魔法をかけつつ、クロッサはイルルへそう指示を出した。
先程のクロッサとのやり取りは微塵も感じさせず、イルルは雇用主の指示を受けて動きはじめた。
あっという間に回復したもののザックの意識は戻らず、仕方ないので客間のソファに運んで寝かせておく。
オーウェンも促されるまま、クロッサに続いた。
クロッサとオーウェンは空いている椅子にそれぞれ腰を降ろす。
やがて、鎮静作用があるとされるハーブ、クロッサが庭に植えているそれでハーブティーを用意し、イルルが運んできた。
クロッサとオーウェン、それぞれにそのお茶を出し、脇に控えようとして、
「仕事の話になる。外に出てろ」
と言われてしまった。
しかし、やはり先程とは違いイルルは素直に従う。
イルルが退室したことを確認すると、クロッサは口を開いた。
「まずは飲め。落ち着くから。
なんなら、香り付けに酒でもいれるか?」
「いえ、すみません、取り乱しました。
いただきます」
一口のんで、オーウェンは少しばかり落ち着いたようだった。
そして、任務での出来事と、あの化け物のような人間から頼まれたクロッサへの伝言を口にした。
だんだんと、クロッサの顔が苦笑になっていく。
そして、話を聞き終えて最初にクロッサが口にしたのは、
「なんで長男ダンジョンなんかにいるんだ?」
そんな疑問だった。
クレイとフィリップ、そして愚弟。
この三人は、まだわかる。
(家出でもしたんかな?)
そんなことを考えるが、まさか当たっているとは露知らず、クロッサは首を傾げるばかりだった。
ちなみに、長男の伝言の内容は在り来りなもので、
【暗躍するのはいいけど、そっちの軍勢が戦争になって、もしこっちの畑と田んぼ荒らしたら、俺がお前を殺しに行くからな。
そうそう、もうそろそろ稲刈りの時期だから今年くらい手伝いに帰ってこい。お前、筋播きも田植えの時も帰ってきてないじゃん。
せめてビニールハウス作る時くらい手伝いに帰ってこいよ。大変なの知ってるだろ。
あ、あと、母さんが米と梨送りたいのに住所わからなくて困ってたぞ】
そんな感じの内容だった。
この伝言を頼まれたオーウェンはと言うと、なんというか複雑な顔をしていた。
そりゃそうだろう。
わけも分からないままクリスタル漬けにされたかと思えば、家庭内の報連相に使われたのだから。
「なんか、スマン」
さすがに、クロッサは部下のオーウェンに謝った。
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