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しおりを挟む室内に入って間もないリビングルームで、響也は麻衣を迎えた。
全面ガラス張りの、展望台のような窓からは、きらめく夜景が一望できる。
その、まるで地上の星空のようなまばゆい光をバックに、響也は立っていた。
「ようこそ、麻衣くん。待っていたよ」
「ありがとうございます、響也さん」
麻衣が自分のことを『飛鳥さん』ではなく、『響也さん』と呼んだことに、すぐに気付いた響也だ。
だが、悪い気はしない。
ただ、耳に心地よい。
それだけ親密に感じているかと思うと、嬉しい。
「君も、こちらへおいで。夜景が、とても美しい」
「はい」
響也のすぐ傍らに、何の疑問も不安も感じさせない仕草で、麻衣は進んだ。
(この子は……)
響也は、その時初めて麻衣に違和感を覚えた。
まるで、警戒心がない。
すでに、恋人であるかのような距離。
響也は、試してみるつもりで、その小さな肩をそっと抱いた。
しかし麻衣は、緊張し、強張るどころか、響也を見上げて嬉しそうに微笑むのだ。
「本当に。すごく綺麗ですね」
「ん? ああ、そうだな……」
麻衣が響也の価値観の歯車を狂わせていく、その第一歩だった。
凍てついた頑なな心を溶かしていく、第一歩だった。
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