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しおりを挟む「志乃くん、喜んでくれるかなぁ」
時を同じくして、章もまた翌日のデートに思いをはせていた。
自宅一階の和室から、すでに暗くなっている庭を眺めている。
そこには、引っ越してきてすぐに植えた、ミニトマトの苗が大きく育っていた。
このところ、たくさんの甘い実を、つけてくれるようになったのだ。
章はその小さなトマトを、明日の朝に摘んで、志乃へのおみやげにしようと考えていた。
「でも。ちょっと変な人とか思われるかも」
デートにミニトマトを持って行くのは、おかしいだろうか。
それでも章は、志乃に等身大の自分を見て欲しい、と思うようになっていた。
前回のデートでは、彼に高額のプレゼントをした、章だ。
それで、ただの金持ちの男、とレッテルを張られるのは、少々辛かった。
いつまでも、富豪のふりをしていなくてはならないからだ。
「私は、ただのラッキーな成金なんだよ。志乃くん」
いつか彼を、この家に招いて。
「そして、一緒にトマトを摘みたいな……」
儚い、章の夢だ。
それは、宝くじで高額当選を果たすより、難しいのかもしれないな。
そんな風に、考えていた。
夜空には秋の月が、静かに輝いていた。
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